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14.プレーオープンを終えて

「山野さんお疲れ様でした。プレオープン無事に乗り切りましたね」

「伊東さんもお疲れ様でした……」


 何もかも初めてづくしの中、気心の知れた人達を招いていたとはいえ、緊張の連続で紅葉は疲弊していた。

 声をかけてくれた伊東に笑顔を向けたつもりだったが、顔が引きつってしまったらしい。


「何だか浮かない顔ですね山野さん?」

「ははは、さすがに疲れちゃったみたいです」


「あと皆もお疲れ、一日頑張ったね」

 紅葉は足元近くに座っていた三匹の従魔も労った。


「人が一杯いたのです……」

「我らは立っていただけですから」

「マスターほど疲れてないよ」

 それでも従魔達は眠気が襲ってきたようで、それぞれ適当なところで丸くなりだした。


「これから客商売をするのに、こんなんじゃ駄目ですね」

 紅葉は自分の頬を軽く両手で叩いた。


「山野さんは初めての事何ですから無理もありません。焦ることはありませんよ。これからおいおいやっていけば良いですから」


そう言いながら伊東はスーツのポケットから缶コーヒーを取り出した。


「ということで……少し休憩しませんか? 良かったらこれどうぞ」


「ありがとうございます」


 受け取った缶コーヒーは、何気に紅葉の好きな銘柄だったりする。

 好きな銘柄は言ってないと思うけど伊東さんさすがだな……


「いただきます」

 缶コーヒーのプルトップをプシュッと開け一口飲む。

「あー美味しい」

 ほろ苦いコーヒーが乾いた喉を潤す。


「あとこれも一緒にどうぞ」

 伊東は一口サイズのチョコレートを紅葉に進呈してきた。


 チョコの甘さが身に染みる……。疲れた頭に糖分はいいんだよね!

 缶コーヒーとチョコで緊張感がぼぐれて大分リラックス出来た紅葉はフーッと一息ついた。


「大分気持ちが楽になってきました……伊東さんありがとうございます」

「いえいえ。落ち着いたなら何よりです」


 しばし二人は無言のまま、缶コーヒーを飲みながらまったりとした時間を過ごした。

 

「それで山野さん。今日一日やってみてどうでしたか?」

 再び口を開いたのは伊東が先だった。


「そうですね……。私今日来てくださった方たちには、概ね満足頂けたように思います」

「山野さんはそう感じましたか?」

「はい」

「そうですか、私も同じですね。久々に手ごたえと言えるような物を感じました。山野さんが設定した内容が受け入れられたように思います。皆さんいい顔して出てこられてましたしね」


 プレオープンとはいえ、伊東の提案通り通常業務に近いやり方で一通り行った。

 紅葉はおっかなびっくりしながら、接客しつつ迷宮から帰ってくる人達の反応を観察。

 怒っている人や仏頂面の人は、紅葉が見る限りではいないように見えた。

 出だしとしては良いんじゃないかと紅葉自身は思っている。


「ところで紅葉さん。ここからスタートするわけですが、迷宮のレベルを確認しておきましょう」

「迷宮のレベルですか?」


「確認できるものを車に取りに行きますので、ここで待っててくださいね」


 伊東は紅葉が飲みほした缶コーヒーを回収すると駐車場へ歩いて行った。


 しばらくして、いつも持ち歩く黒い鞄を手に伊東が戻ってきた。


「迷宮のレベルはこれで確認します。これは当協会から管理者の方へ贈呈することになっていますので、お渡ししますね」


 伊東が鞄から取り出したのは折りたたまれた透明なボードだった。


「今はこのように実体化してますが、管理者登録をすると、管理人の身体の一部になります。身体に害はありませんので安心してください」


「へぇ管理人になるとこんないいものが頂けるんですねー」


 無料で貰えるという言葉が好きな紅葉は気持ちが浮ついた。


 紅葉は伊東から受け取ると、二つに折り畳まれた透明なボードを開く。


「このアイコンをタッチして登録ボタンを押してくれます?」

 伊東に促されるまま登録ボタンをタッチする。


『パンパカパーン♪』

「ゲスト様アクセス頂きありがとうございます。貴方の下僕サッチーです」


「………」

 紅葉はとりあえずそっとボードを閉じた。


「なっ何ですか伊東さんこれ?」

「ええとですね……これはAI搭載の最新型なんです。簡単な会話が出来る仕様となってまして、検索することが主体ですので、最初はサッチーと名乗ります」


「とてもフレンドリーな感じで仕上がってますかね」

 苦笑いしつつ淡々と伊東はボードについて解説した。

「はー」


 あんちょこなネーミングはデフォルトでした。


「名前はいつでも変更可能ですから、山野さんの好きな名前にして下さい」

「はい分かりました」

「あっちなみにボードって全部こんな感じです?」

「登録した管理者によって、個性のようなものは出てくるらしいですよ」

「そうなんですね……」


 管理者によってという言葉を聞くと、とても寡黙だったり、おしゃべりが過ぎるボードがあるかもとしょうもないことを考えた。


「次はこちらのアイコンをクリックして、山野さんの情報を入力して下さい。必須項目以外は任意ですから、後で入力しても構いません」


 紅葉は入力項目にざっと目を通した。

 登録者氏名、年齢、性別、住所、電話番号……と、でスリーサイズ? これ必要? あっ任意ね……良かった。

 うんないなこれは飛ばして良しとしよう。

 必須項目だけをサクサク埋めて管理者登録を完了させた。

「ご登録ありがとうございました。貴方の下僕サッチーです。またのご利用をお待ちしております」


 言い終えたボードは、ピカッと光ると紅葉の左手首に吸い込まれるように消えて行った。


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