13.プレオープンです
あーもう朝になってしまった。ほとんど眠れなかったな……紅葉はベッドの中で、脚を攣らない微妙な体勢で大きく伸びをした。
気だるい気分を跳ね飛ばすように気合いを入れて起き上がる。
今日は、本稼働前の最終調整を兼ねてのお披露目会となっている。
伊東さんの協力もありようやくプレオープンに漕ぎ着けた。
その伊東さんは前日レンタルしてきたマイクロバスで、最寄り駅で参加者をピックアップしてこちらに来る手はずになっている。
何から何までほんとにお世話になりっぱなしで頭が上がりません。
彼へのお礼はとびきり奮発しよう。
「おはようございます紅葉様。どうかしましたか?」
ベッド脇から可愛らしい声が掛かる。
心配そうな表情で私の顔を見上げる『さくら』が話しかけてきた。
「おはようさくら。何でもないよ」
「そうですか……今日はとうとうお披露目会ですね。私達が何かお手伝いすることはないですか?」
「「そうですマスター我らにも何か命令してください」」
さくらとは違う元気にハモった声は、狛犬の『阿形』『吽形』
六畳一間の部屋に私の護衛兼癒やし係となった、三匹の従魔達が期待を込めて私を見ている。
何だこの可愛い生き物たちは……
自然とにやけ顔になってしまうが、ここはマスターとしてキリっとせねば。
「ええとアギョウとウンギョウは迷宮の入口を守ってもらうつもりだよ」
さくらは、さあマスターご用命を!と言いたげにキラキラしい顔をしている。
さくらは『魅惑の迷宮』に潜っていた時に出会ったカーバンクルの女の仔。
かなり衰弱していてテイムしないと助けられない状態だった。
放置する選択もあったけど助かる可能性があるならと私はテイムした。
テイムは気を失っている状態の相手には使えない。
彼女は朦朧状態だったけれど、同意の意志確認が出来たからテイムする事が出来た。
同行していた伊東さんの助けを借りながら、迷宮管理人の所有スキルを使って救命処置を施した。
体力が回復するまでは安静にしておく必要があり、自宅へ連れ帰ることになるんだけど……
困ったことに『魅惑の迷宮』から生体をそのまま連れ出すことが出来ない決まりになっていた。
通常ならそこで置いていく事になってしまうのだけど、都合のいいことに迷宮管理人の所有スキル「空間収納」へ取り込む形で連れ出す事ができたんだよね。
自宅に帰ってばあちゃんに事情を話すと徹夜の看病をかってくれた。
「動物病院というわけにもいかんが……はてどうしたもんじゃろか」
ばあちゃんはあれこれ悩みながらも、とりあえず犬猫に接するような感じで看病してくれた。
「めんこい、めんこい」と言ってかいがいしく世話を焼くばあちゃんに苦笑いするしかなかったよ。
数日経って体力が回復したさくらにあらためて確認すると、私と一緒に居ることを希望したので、そのまま家にいてもらうことになったんだよね。
「さくらは私と一緒にお客様をお出迎えしてもらえる?」
「はい! かしこまりました」
「んっいい返事でよろしい!」
「じゃ皆、朝ご飯をパパっと食べて今日のプレオープンを成功させようね」
「「「はい!」」」
・・・・・・・・・・・・
紅葉は創り上げた迷宮は『魅惑の迷宮』を参考にして、セーフティゾーンは二階に設定。
後は迷宮ポイント数に合わせて導入できるものをひとまず設置。
迷宮の入口に続く道には、今日のプレオープンに合わせて並木道に飾り付けを施してある。
テープカットも用意したんだもんね。
一通り準備した物の確認を終えてサクラの頭をなでていると、
「紅葉ちゃん。準備の方はどうかね……」
ばあちゃんがやって来た。
「おばば様。こんにちは」
「「お館様。ご機嫌うるわしゅ……」」
サクラ、アギョウとウンギョウの挨拶が若干おかしいが、ばあちゃんは全く気にしてないようなので放っておく。
「サクラちゃん元気になって良かっただね」
「はいおばば様」
「狛犬さんたちも大分慣れてきたようじゃね」
「「ハハッ」」
ツッコミどころが分からなくて困る。
「あっばあちゃん。何とか形になったよ。伊東さんと相談して迷宮の中はこんな感じだよ」
紅葉は出来上がったばかりのパンフを広げて見せた。
「立派な迷宮になっただね」
「まあね。これから来るお客様の反応を見て、修正出来るところは対策してから、本格的にオープンするつもりだよ」
「うんうん。しっかりやんなさい」
紅葉の祖母静子は、孫のやる気みなぎる顔を見て微笑んだ。




