12.新米冒険者3
スライムを嬉々として滅している伊東の後ろ姿を見つつ、紅葉は周囲に視線を向けた。
内装も含めて目に焼き付けるようにじっくり見ていく。
ここ『魅惑の迷宮』には、初めは気が付かなかったけれど、超初心者の自分から見てもあったらいいなと思えるものが、絶妙なタイミングで設置されていると思う。
水分補給もそうだし、身体を動かしているから途中で小腹が空くことだってあるだろう。
冒険者達は、基本的に携帯食を持参しているものだが、あるとないとでは違うはず。
それに真っ先に困ることといえば御手洗じゃないだろうか。
入場する前に済ませていたとしても、生理現象には逆らえない。
その辺で用を足すのは避けたいしね。
アウトドアでもその辺はワイルドになりきれず、我慢したあげく膀胱炎になってしまった事を思い出して一人苦笑する紅葉だった。
それにしてもこの迷宮で、今一番素晴らしいと思うのは快適なトイレがある事。
セーフティゾーンと呼ばれるスペースにそれらは纏まってあった。
思わず感激してしまう紅葉だった。
へぇ~一ヶ所だけでなく、奇数フロアにセーフティゾーン設けているんだ。
至れり尽くせりだね……
伊東から手渡された迷宮地図を見ながら、なるほどなるほどと感心していた。
紅葉はこの前伊東に見せた運営していく迷宮の青写真を思い浮かべる。
ふと、自分が考えた迷宮にはそれらが無いことに気付く。
なんてこった。私全くセーフティーゾーンの事を考えてなかった。
帰ったらやり直さなきゃ。三層から始めるから、二層目に用意すればいいかな。
あと、軽食サービスも用意できるか伊東さんに聞いてみよう……
初っ端から躓いた感は否めないが、修正は出来る。
だってまだ始まってないしまだこれからなんだから……
その後も二人は順調にスライムを倒していき(主に伊東が)雰囲気に慣れてきた頃、弱ったスライムにとどめを刺すのは紅葉が受け持った。
「最低ラインのポイントだけは取って行きましょう」
伊東が弱体化したスライム目がけて紅葉は刃物を突き立てる。
うわ~この感覚は結構えぐいな。
スーパーで買ってきた魚や鶏肉は平気で切り刻んでるのに……
紅葉は何体かトライするものの早々にギブアップした。
「伊東さん済みません。私これでとどめ刺すの無理みたいです。武器を変更してもいいですか?」
「山野さんにはキツかったようですね。ではこれでどうでしょう」
「こっちの方がまだましなような気がします」
伊東は暫し悩んで木刀を出してきた。
紅葉は借りた刃物を返して木刀を手に取った。妙に手にしっくりくる手ごたえを感じる。
刺すより叩く方が自分には向いているような気がする。
「それでは行きます」
前半の弱腰な様子と違い、木刀を手にした紅葉は次々スライム達をぼこぼこにしていった。
「うわ~! 山野さんある意味凄い変わりようだな」
それは伊東が若干動揺するくらいの変貌ぶりだった。
勢いに乗った形で二層も難なく切り抜け、紅葉達は三層に足を踏み入れた。
到着した二人はひとまず、セーフティゾーンで軽い休憩を取ることにした。
三層は森が広がる森林ゾーン。
セーフティーゾーンから眺める景色は、さしずめキャンプ場。
のんびりまったりした牧歌的風景がどこまでも広がる。
「どうですか山野さん。ここまでの迷宮の雰囲気は?」
「初心者に親切だなと思いました。あと休憩するところが充実してて良いですね」
「ええ、冒険者には一時的でも、身を寄せられる場所があるのはポイント高いですね」
伊東の言葉に頷きながら、自販機でクロックムッシュと紅茶を購入。
手を汚さず食べれるようになっている。ありがたい。
伊東と軽い雑談をしながら、森林ゾーンに目をむけると、奥の方からフラフラと何かが出てきた。
こちらに向かっているようだ。
「伊東さんあれ見てください! 何かこっちに向かって来てます」
紅葉と逆方向を向いて座っていた伊東は、丁度ホットドッグに齧りついていた。
肩を叩かれ慌てて視線を森側に向ける。
「何だあれ……随分小っさい……な。魔物か?」
伊東は記憶を総動員する。
「山野さん。あれは大分弱ってるようには見えますが、応戦するつもりで構えてください」
「はい」
二人は得物を手にして身構えた。
森から出てきた動物のように見えるそれは、二人にたどり着く前にパタッと横倒しになった。
「「あっ倒れた!!」」
(カーバンクルが助けてほしいと懇願してます!)
(助けてあげますか? YES or NO)
突然、頭の中に声が響いた。まさかの脳内アナウンス。ファンタジーだね……
「伊東さん今なにか聞こえました?」
「いえ。何も聞こえませんが……」
「なんかあの仔が助けて欲しいそうです……その連れてきてもいいですか?」
「えーと私は構いませんが」
伊東の了承を得た紅葉は倒れた動物の元に駆け寄った。




