11.新米冒険者2
「山野さん。先ほどは済みませんでした」
何故だか伊東は平謝りだった。
「伊東さん何かしましたか?」
「あれっこれ全く気づいてないや」
紅葉の顔を見た伊東はそう理解し、頭をがしがしと掻き毟る。
「彼氏面して勝手に手続きを勧めたことです。それに肩に手を回したこととか……」
あっあれですか……思い出した瞬間、紅葉は自分の顔が赤くなるのが分かった。
「ええと言い訳になりますが、ここって女性が一人で登録しようとすると変に絡まれるんですよ。男性連れだと思われていた方が何事もなく進むので……」
冒険者組合の入口で、紅葉を舐め回すように見ている男の視線に伊東は気づいていた。
自分が離れた瞬間、男が紅葉に近寄ることは容易に想像できた。
なので了承は得ずに親密そうに振る舞ったのだ。
「いえっそれは気にしてません。ダイジョブですよ伊東さん」
紅葉の全否定に少し寂しさを覚える伊東。いや、感じてしまった自分に内心驚いていた。
「ははは。良かった怒ってなくて!」
「それじゃ気を取り直して『魅惑の迷宮』行きましょうか」
「はい」
二人は『魅惑の迷宮』の入口をくぐった。
「へぇーこんな感じなんですね?」
エントランスをくぐるとそこは南国のビーチ、高級リゾートかと思う風景が広がっていた。
「伊東さん。私達もう迷宮の中に入ってしまったんでしょうか?」
紅葉はもうどこかの階層にでも転移させられたのかと驚く。
「いやいやまだ入り口ですよ。入場料払ってませんし」
「ここは管理人の趣味で南国リゾート風の受付になってるんですよ」
「そうなんですね」
「いらっしゃいませ」
「ようこそいらっしゃいました!」
パレオを腰に巻き付けた迫力ボディの水着美女達がやって来た。
「あら伊東君!」
「伊東ちゃんお久しぶり」
「あっ鏡花ちゃん、静香も久しぶり!」
「キョウカちゃんにシズカ……呼び捨て……」
迫力ボディのお姉さん達は、どうやら伊東さんの知り合いのようだ。
「もう! 伊東君たら隅に置けないですわね。彼女さんと一緒に来るなんて」
「いやー困ったな」
絡まれつつ心なしか伊東さんの鼻の下が伸びてるような……
紅葉は伊東達の会話に混じらないようその場を離れ、カウンター脇のグッズコーナーを物色する事にした。
あっこれ可愛いかも……額に赤い石が付いた、子ぎつねのような形のマスコットに手が伸びる。
カーバンクル……これ可愛いから買ってこ。
「山野さんそういうの好きなんですね?」
振り向いた紅葉は伊東の顔がやけに近くて慌てる。
「ああ! 伊東さん。もうきれいなお姉さん達はいいんですか?」
「ええ。入場手続きは済ませたので行きましょう」
「ありがとうございます。その前に私これ買ってきますね」
動揺したのを隠すかのようにそそくさと受け付けへ向かった。
「では、山野さん。これに装備品が入ってますので、着替えて貰っていいですか」
伊東は紅葉が戻ると大きな袋を手渡した。
「着替える場所は向こうなので行きましょう」
「はい」
紅葉は騎士系の装備品を身に纏っていた。
胸当て部分が、若干ブカブカなのはご愛嬌、どうせ私は痩せぎすよと悪態を吐く。
借りている身としては、文句を言う筋合いはないけれど、前の持ち主は豊満な人だったんだろうな。
伊東さんとどういう関係なのかが気になるところだけど……
「お待たせしました。どうですか?」
あまり待たせてもいけないと思い、急いで伊東さんの元へ駆け寄った。
「思っていた通り良くお似合いですよ山野さん。サイズが合ったようで良かったです」
胸は全然合ってませんでしたけどね……ニコッと無言で微笑み返す紅葉であった。
「伊東君。彼女の装備品は今度ちゃんとしてあげなよ! 胸周り合ってないから」
キョウカちゃんと伊東さんに呼ばれていたお姉さんが早速バラす。
「えっそうでした山野さん? なんか済みません。ピッタリ合うと思ってたんですが……」
「いえいえ。私こう見えて着ぶくれする方なんで……気にしないでください」
「伊東さん。それより早速魅惑の迷宮行きましょう!」
紅葉はもう何事もなかったかのように振る舞い、伊東の袖口を引っ張った。
「では気を取り直して……」
「山野さんは迷宮に潜るのが初めてということですので、私の少し後ろから付いて来てもらえますか?」
「はい」
「まず、この魅惑の迷宮ですが、第一層はスライムゾーンです」
「あのまん丸の最弱と言われている奴ですね」
「ええ、ただ集団で来られると厄介です」
伊東は、片手に盾、もう片方に剣を持っている。
「一層は私だけでも対応できますので、山野さんは周囲を観察して下さい! ご自身の迷宮に取り入れつもりで……」
「取り入れるつもりで……ですね。分かりました」
「あっあとこれを服の内側に入れてください。ポケットでもいいです」
伊東から渡されたのはお札だった。
「これには、防御魔法が付与されてます。一定時間効果があります。山野さんにスライムが飛んで来ても弾いてくれますので、安心してください」
「いいですね! 遠慮なく使わせて頂きます」
先頭を行く伊東は、向かって来たスライムを斬ったり、叩いたリ、蹴っ飛ばしたりと危なげなく滅していた。
「へ~伊東さん中々やる人なんだ……」
紅葉と付かず離れずの距離を保ち、伊東はときおり立ち止まっては、紅葉に迷宮の解説をした。
二人は順調に迷宮の中を突き進んでいった。




