10.新米冒険者
「山野さんお待たせしました。結構待ちました?」
「いえ。私もさっき来たところです」
約束した当日。時間通りに伊東はやってきた。
いつものスーツ姿ではないラフな格好。伊東の雰囲気によく似合っていた。
伊東さんてこうして見ると結構格好いいかも……紅葉の素直な感想だった。
久しぶりにミカへ電話して、今日の予定を話したら「紅葉! 二人きりってそれデートじゃん。ねぇ伊東さんってカッコイイ?」と聞かれその場では全否定。
しかし言われてみたらさっきの会話はデートっぽいかも……妙に気になってしまう紅葉だった。
「山野さんどこか具合でも? 顔赤いですよ?」
額に手を当てそうになる伊東を躱し、大丈夫ですからと返事を返す。
「あの伊東さん。これから伺う迷宮はどんな所なんですか?」
話を逸らそうと迷宮に話を振ってみる。
伊東と行くことになった迷宮は、比較的近場にあった。
「古参と言うほど古くないし、山野さんと同じように一から個人経営してきた迷宮なんです。大きさもほぼ似た感じなので、参考になると思います」
「ところで山野さん。日本の迷宮はいくつあると思います?」
「えっと迷宮の入口だけで数千あると聞いてますので、迷宮も同じだけあるんじゃないですか?」
「ところがですね。最近そうでもないことが、分かってきたんですよ」
日本に広く分布している迷宮の入り口の内、いくつかが同じ迷宮に繋がっているらしい事が分かった。
例えば、神奈川地区の迷宮入口Aというところから入った迷宮と、山形地区の迷宮入口Cから入った迷宮が実は同一の迷宮だったらしい。
迷宮産の品物を詳しくDNA検査したところ、同一地域で産出したものと判明したそうだ。
「迷宮管理協会の調査では、およそ百か所以上の入口が、同じ迷宮に繋がっていると確認が取れています。……ということからすると、迷宮としての数はかなり減ることになりますね」
「思っていた以上に数が減りそうですね」
「日本の迷宮は約百個位になるだろうとの認識です」
「うわーそんなに減ります? かなり少なくなりますね」
「なので、山野さんのは独立してますから希少価値高いですよ?」
「はぁ~そうですか」
伊東は遠回しに褒めているが、実感が湧かない紅葉だった。
紅葉は先ほどの同じ迷宮に繋がっている話から、神奈川地区の冒険者と山形地区から入った冒険者が、迷宮内で遭遇することはないのかと疑問に思った。
「伊東さん。同じ迷宮なら、別の入口から入ってきた冒険者達は、中で鉢合わせすることもあるんですよね?」
「そうですよね。普通そう思いますよね」
「えっ出くわすことはないんです?」
伊東のからかうような微笑みに、紅葉はそう返していた。
「これが不思議なんですけど、同じ場所から入った冒険者同士は中で会うことがありますが、別口から入った冒険者とはすれ違うことがないらしいんです」
「もっとも、迷宮が広すぎて……入口の場所によって会わないだけかも知れませんが……」
「へぇー不思議ですね」
「迷宮は分からないことだらけですね」
二人の会話が盛り上がってきた頃、目当てのバスが近づいて来るのが見えた。
「専用バスが運行されてるなんて凄いですね」
バスの時刻表を確認すると、午前に二本、午後に二本出ていた。
うちも駅からちょっと離れてるからその内必要かも……経営者としては検討したい。
伊東と共に丁度来たバスに紅葉は乗り込んだ。
---------------------------------------------------------
『魅惑の迷宮へようこそ』と書かれた立て看板をいくつもやり過ごし、紅葉達は、目的地の迷宮へ到着した。
「山野さん。先に冒険者登録をしましょう」
バスを降りると、伊東は迷宮の入口横の建物に向かって歩いて行った。
紅葉は慌てて後を追う。
『冒険者組合 魅惑の迷宮出張所』建物の入口に掲げられた看板が目に付いた。
「ここは迷宮と同じ場所にあるので、手間が省けるんですよ」
振り返った伊東はそう言うと、カウンター席の方を指さし紅葉の肩に手を添えつつ誘導する。
伊東さんに肩触られるとか……なんか恥ずかしい。
ドギマギしながら悟られないよう平然とした面持ちでカウンター席に着席した。
「新規登録の方ですね?」奥から係らしい女性が姿を見せた。
「彼氏さんは……こちらにおかけください」
ニコニコ顔で係の女性に席を勧められ、隣に座った伊東を紅葉は盗み見る。
あれっ伊東さん否定しない? 嫌じゃないの?
「今日は彼女が冒険者登録をしますので、手続きをお願いします」
紅葉が口を開くよりも早く、係の女性に伊東は申請依頼を出していた。
「あのっ」
と言葉を発するのを伊東は手で制止した。ここは任せてもらうよと謎の威圧感を感じる。
下手に口を挟まない方がスムーズかな……紅葉の困惑をよそに手続きはサクサク進んで行った。




