DAY9:杖
「班長、足の具合はどうですか?」
「まあ痛いが、頑張れば歩けるぞ」
「でも、骨にヒビ入っているんでしょ?」
「そうらしいな」
班長が右脚を撃たれて1週間。
大腿骨にヒビが入っていると診断されたにもかかわらず、涼しい顔をしている。
「いや、普通に骨折ですよね。なんで歩けるんですか」
「いや、そんな深刻でもないぞ。レントゲン撮ったけどヒビはすごく小さかった。
それに、歩けるって言ったって激痛を根性で我慢しているだけだし、右脚に体重をかけないようにしているしな」
「銃創の経過は?」
「特に化膿とかはないが、まだ少し血が滲むな。それに、縫ってあるからしばらくしたら抜糸しなきゃならん」
「どうするんすか、抜糸」
「まあ、こんな状況だし自分でやるしかないだろ」
「うへー、痛そ。ちなみに、全治はどのくらいって言われたんですか?」
「安静にしてたら早くて1か月程度だそうだ」
「安静にできてないっすもんね」
「まあ、仕方ないさ」
「近くに接骨院があるんで、松葉杖でも探してきますよ」
「危ないからあまり出歩くな」
「引き籠ってたほうが鬱になって危ないですよ~」
「…すまんな佐藤。気を遣わしてしまって」
「気ぃなんて使ってないですよ。ついでに寄りたいとこあるし」
「どこに寄るんや」
「銃砲店ですよ。接骨院からさらに隣町方面に行くとあるんです」
「…危ない連中がぞろぞろ居そうだな」
「大丈夫じゃないですか?」
「お前、楽観的過ぎるぞ。…まあ、気を付けてな」
「はーい、いってきます」
長袖長ズボン、そして先日回収したヘルメットを被り、リュックを背負う。
自宅を出て、ボロ軽に乗り込む。予備の車にするつもりが、小回りが利いて便利で気に入った。
持ち物は飲み物と金属バット、拳銃。
「暑いな、フルフェイスは」
下げていたヘルメットのバイザーを上げ、エンジンをかける。
こいつはエアコンが効かないから、窓全開だ。
車を10分ほど走らせ、接骨院に着いた。
「うわぁ」
ゾンビがこの辺で出始めて数時間で日常は崩壊した。
そしてその日は平日の午前中で、ここは田舎の接骨院。
高齢者ゾンビが院内に犇めいている。
「…軽く10匹はいるぞ。入りたくねぇな」
ふと、接骨院の入り口に落ちている杖が目に入る。
よくお年寄りが突いている杖だ。
ゾンビたちは俺に気づいていない。
「ないよりは、マシだよな」
覚悟を決め、ダッシュで取りに行く。
杖を拾ったタイミングで、ゾンビ達が気づく。
接骨院に背を向け、全速力で離れて車に乗り込む。
「…?!」
高齢者ゾンビ、動きが遅い!
個体差があるが、総じてゆっくりとした動きだ。
走っているのに、早歩きくらいのスピード。
しかし、数が多すぎる。
戦いたくはないな。
ふとひらめく。
「さっすが俺。あったまいい~」
ボロ軽でゆっくり走り、高齢者ゾンビ達を接骨院から離れるよう誘導する。
…なんか、年寄りいじめてるみたいで嫌だな。
接骨院から500mほど離れたところで、加速し高齢者ゾンビ達を引き離し、ぐるっと回りこんで接骨院に戻る。
「まだ残ってんのか」
車を降り、駐車場に残ってる高齢者ゾンビの頭に向け、金属バットを振り下ろす。
「うわ!」
普通のゾンビより頭蓋骨がもろい!
振り下ろしたバットが頭部の3分の2くらいまで食い込んだ。
崩れ落ちる高齢者ゾンビを見下ろした後、院内に視線を移す。
「まだいんのかよ」
高齢者ゾンビが追加で2匹出てきた。
先頭のゾンビの頭に向け、先ほど同様金属バットを振り下ろす。
「あれ」
今度は普通のゾンビと変わらない強度だ。
首をかしげながら、残りの高齢者ゾンビの顔に突きを入れ、転倒したところで頭を潰す。
…最初のゾンビのほうが2匹目よりも若そうに見えたのに、頭蓋骨が脆かった。
「…骨粗鬆症か?」
色々な仮説を立てながら院内に入る。
見える位置にゾンビはいない。
警戒しつつ、松葉杖を探すが見当たらない。
「あれ、置いてないのかな」
少しがっかりしつつ、入口まで戻ると受付のすぐ横に立てかけてあった。
ぼやきながら松葉杖を回収し、車に乗せる。
先ほど倒した頭の脆いゾンビに近づき、観察する。
割れた頭から、銀色の何かが見える。
「…?」
金属バットでさらに頭を破壊すると正体が分かった。金属プレートだ。
おそらく、過去に頭蓋骨骨折などの治療を行い、それで普通より脆かったのだろう。
「なんだ、つまんね」
ゾンビに対する興味を失い、車に乗り込む。
次は銃砲店だ。




