DAY4:佐藤 Part5
――翌朝。
「班長、これからどうします?」
「……どうする、か」
班長は天井を見つめて考え込んでいる。
駐屯地から脱出したとき、ものすごい数のゾンビが内部に侵入していた。あそこはまず、無事ではないだろう。
部隊との連絡手段もない。なんなら、スマホはごたごたでどっか行った。
車も失い、手元にある89式には弾が一発も残っていない。
頼れる人間は、負傷した班長と自分だけだった。
その時、照明が消えた。
「あ、とうとう停電しましたね」
「だな。まずは、お前の家に戻るか」
「そうですね。食料も水も、まだ多少は残ってるはずです」
「そこを拠点にする。今はそれしかないだろうな」
「とりあえず、車が必要ですね。あと、食料も」
「ああ、そうだな…それがないことには、どうしようもないしな。頼めるか、佐藤」
「当たり前でしょ」
ヘラヘラしながら返す。
正直、ゾンビを始末するのはもう慣れた。
ん?あれ…車、あるやん。
「班長、ミニバンあるっすよこの家」
「あ!そうだったな。ボケてきたか?はは」
「キー探してきます」
キーがありそうなところを探し回る。
玄関、リビングのテーブル、住人のカバンの中。
…ない。
死体のポケットかなぁ?
いやだなぁ。
裏庭へ出て、死体のポケットを探る。
…あった。
「班長、キーありました!」
「でかした!」
玄関から外に出て、車のキーのボタンを押す。
ガチャ!
ドアロックが開錠された。
「班長、行きましょ!」
ひとまずは、メシだ。
腹が減ってはなんとやらだからな。
班長を車に乗せ、エンジンをかける。
ヤニ臭い車だな…。ガソリンはほぼ満タンか。ラッキー!
幸か不幸か、今いる一軒家のある通りの奥に、コンビニがある。
十中八九なんもないだろうが、見ておいて損はないだろう。
コンビニに着いた。
外から見ている感じ、特に人影は見当たらない。
班長を車に残し、暗い店内に入る。
「…意外と物残ってんじゃん」
買い物カゴを拝借し、残っている商品をドンドン詰め込んでいく。
袋入りのナッツ、グミ、飴玉、麦茶、濃い緑茶などなど。
弁当や総菜は、なんか臭いからいいや…。
まともなメシになりそうなものは、ねぇな。
ペットフード…はさすがに食いたくねぇな。
あ!ラッキー、菓子パン1つ残ってんじゃん。
レジのほうを見る。
タバコ…一応取っておくか。
カウンターの中に入り、タバコを片っ端から回収する。
俺は吸わないが、班長は確か吸うし、物々交換とかに使えそうだ。
あ、停電してるし懐中電灯持ってこ。
電池…あるじゃーん!ラッキー。
買い物カゴを片手にコンビニを出て、カゴを車に積んだところで、ふと思った。
「班長、山岡さん達、どうなったんでしょう?」
「さぁな…。タイミング的に、偵察部隊が保護して駐屯地に向かってたところだろう。
今頃、駐屯地の状況を見て頭抱えてそうだな」
「近くにいますかね?」
その時、銃声が響いた。
「班長、行く?」
「行こう、駐屯地の生き残りかもしれん」
「アイアイサー!」
エンジンをかけ、アクセルを…踏み込む前に喉乾いた。
水分補給っと。
麦茶を一気に飲み干す。
「ぷっは、生き返るわ~」
「はよ出さんか佐藤」
「すんません」
銃声のほうへ向かいながら班長に声をかける。
「てか俺ら、武器ないけどどうするんすか」
「まずは少し離れたとこから様子見たいな」
「あ、班長、タバコありますよ。気にせず吸ってください」
「ああ、ありがとう…っていまそれどこちゃうやろ」
「あはは」
銃声に近づいてきた。
――高機動車…自衛隊だ。
「生き残りですかね?」
「暴徒と思われたらいかん、ここで止まれ佐藤」
班長に言われ、高機動車から100mほどで停車する。
銃を撃っている隊員がこちらに気づき、上官と思しき隊員に声をかける。
上官と思しき隊員が指示を出し、2名がこちらに銃を向けながら近づいてくる。
『両手を見える場所に出せ!』
隊員の指示に従い、班長とともに両手をダッシュボードに置く。
「佐藤、まずは俺から話す」
「はーい」
隊員が車の横に立ち、話しかけてくる。
「ここは危険だ、何しに来た」
「俺はこんな格好だが、自衛官だ。怪我をして満足に動けないが。
水流1曹だ。昨日、そこの○○駐屯地から脱出してきた」
「なに?駐屯地から脱出してきたって、どういうことだ」
「昨日、感染者の群れに襲われたんだ。内部に侵入されて、大惨事になってたんだよ」
「そんな…。少しここで待っててください」
2人は上官と思しき隊員の元へ走って戻っていく。
少し話し、上官と思(以下略)がこちらへ走ってくる。
「○○駐屯地がやられたって、本当か!」
(びっくりするわ、声でけぇよ)
「ああ、最後に見たときは感染者まみれだった」
班長が答える。
その後、泊まった一軒家に隊員らを連れていき、話を聞いた。
どうやら、この隊員らは隣県から来たらしい。
元々所属していた部隊が壊滅し、分隊ごと離脱し、無事だと聞いていた例の駐屯地に向かっていたそうだ。
指揮を執るのは長谷場曹長。
メンバーは階級順に、飯田2曹、畠添士長、大浦士長、横溝2士。
俺が元自衛官であること、俺の家に向かっていることなど、状況の説明をし、情報交換をした。
班長が問い、畠添士長が答える。
「ところで、無線は使えないのか?」
「使えるには使えるんですが、電池切れです」
「コウキの燃料は?」
「ほぼ空です」
「弾は?」
「89式と20式、合せて100発ほどしかありません」
「食料は?」
「戦闘糧食が4つほど」
「うーん…」
班長が畠添士長と話しながら考え込む。
「あの、これからどうするんですか?」
横溝2士が不安げに質問する。
「とりあえず燃料補給だな。水流班長、佐藤くん。ガソスタに心当たりは?」
長谷場曹長に問われ、答える。
「地元じゃないんで詳しくはないですが、この市に来る途中で何か所か見かけました。
燃料補給後はどこへ?」
「ひとまず、駐屯地を偵察して、生き残りが居ないか確認する」
「そうですか…」
――長谷場曹長らをガソスタまで案内し、駐屯地に向かうという彼らと別れた。
「班長、峠は土砂崩れで通れないし、高速は放置車両で通れない。どこから行きます?」
「彼らに地図を見せてもらったんだが、峠に入ってすぐのところに林道がある。
そこを通れば遠回りだが、お前の住んでた市まで繋がっているようだ」
「こいつで林道ですか?」
ミニバンを見る。
「ああ、言いたいことはわかる。だが、この林道、ダムの近くにあるんだ。
もしかしたらダムの点検用の通路として作られてるのかもしれない」
「あー、それならある程度整備されているかも…」
「そうだ」
作戦会議は終わり、峠まで来た。
あのゲートが林道への入り口みたいだな。
車を停め、ゲートを確認する。
「班長、南京錠ついてます」
「え~…」
「牽引ロープでゲート引っ張ってみますか?なんか弱そうな作りだし」
「そうだな、それでいこう」
牽引ロープをゲートに巻き付け、アクセルを踏み込む。
バキッ!
大きな音が鳴り、車が軽くなった!
(ゲート壊れたろ~)
にやにやしながら振り返る。
ゲートは健在。
車を降りる。
「ああ~!牽引フックもげてる!」
「…」
班長が呆れ顔をしている。
「いやぁ、だってぇ」
「もういい、ほかの手を探そう」
「はい…」
「あ、牽引フック、もげたの後ろだけなんで前のはまだいけますよ!」
「ええって!」
(ちぇ)




