第94話 職人ギルド、生産ギルドの設立
子爵に昇格してからというもの、それを聞きつけたクリスタナ商人ギルドの連中からの面会希望が連日殺到しており、書類の山が築かれていたのだ。
応接間に入り、机に積まれた書類に目を通しながら、傍らに控える優秀な女性秘書に声をかける。
「そう言えば、子爵になったんだからギルドの設立権限があるんだよな?」
「左様でございます、悠様。領内の産業を統轄するためのギルドを創設することが可能です」
「じゃあ、職人ギルドと生産ギルドを設立しちゃおう。名前は『ブレイシア職人ギルド』と『ブレイシア生産ギルド』で。誰か運営を任せられる良い人はいないかな?」
「居ないわけではございませんが……クリスタナ商人ギルドに所属している優秀な幹部や事務員を引き抜くのはいかがでしょう?」
「それ、いいな。何人か引き抜いて、実務や事務作業をさせよう。……ところで、ギルドマスターはどうする?」
「悠様が最もふさわしいかと。というか、設立初期の現時点では、悠様以外に全体を束ねられるお方がおりません」
「わかった。最初は俺がやろう。ある程度組織が育ってきたら、信頼できる別の人に任せればいいしな。そんなに一気に規模が膨らむわけでもないだろうし」
俺は「最初は小さな規模からスタートだな」と呑気に高を括っていた。
……しかし、この日を境に、子爵導ブレイシア以外の領地の遠方の町に住む職人や農家たちが、「ブレイシアに行けば正当な権利と仕事が得られる」という噂を聞きつけ、怒涛の勢いで押し寄せてくることなど、この時の俺は知る由もなかった。
結果として、子爵領内の各地に爆発的な勢いでギルドの支部が建っていくことになるのだが……それはもう少し先の話だ。
◇◇◇
午後、応接間で書類仕事の目処をつけ、廊下を歩いていた時のことだ。
ドタドタドタッ!と、廊下の奥から激しい足音が近づいてきた。
「悠ーーーっ!」
曲がり角から飛び出してきたのは、肩で激しく息を切らせた茉莉だった。普段は冷静な彼女が、髪を乱し、目をらんらんと輝かせている。その後ろからは、絢乃やルフ、さらにはアイリスまでもが必死な様相で追いかけてくるのが見えた。
「ギルファス鉱石とエーテル鉱石を出しなさい!」
「へ?」
開口一番、脈絡のない鉱石の名前を突きつけられ、俺は間抜けな声を上げた。
「いいから早く!」
茉莉がぐっと距離を詰め、俺の服の胸元を掴みかねない勢いで迫ってくる。
「わ、わかったから落ち着けって!」
確か、以前ダンジョンに潜った時に採掘して、アイテムボックスに放り込んでおいた記憶がある。
場所は……あった!
俺は慌ててアイテムボックスを探り、指定された二種類の鉱石を取り出した。
「これでいいか? いくつあれば……」
「これですよね!?」
俺が言い終えるより早く、茉莉がひったくるような勢いで俺の手から鉱石を奪い取った。探すような目つきで、後から追いついてハァハァと息を吐いているアイリスの目の前へと突き出した。
「ちょ、ちょっと待ってください皆さん走るのが早すぎます……ええと……」
アイリスが乱れた息を整えながら鉱石に視線を注ぐと、その目の前に鑑定ウィンドウが浮かび上がった。
「ま、間違いありません……! 間違いなくギルファス鉱石とエーテル鉱石です! でも……エーテル鉱石は採掘した途端に液体化してしまうはずなのに……なぜ固体のまま保存されているのですか……!?」
アイリスが信じられないといった様子で目を丸くする。しかし、茉莉はその驚きを意に介さず、ビシッと俺を指さした。
「悠! 最重要命令よ!」
茉莉の瞳には、新しいおもちゃを見つけた子供のような好奇心と、興奮が入り混じっていた。ギラギラと輝くその目に見つめられ、俺の背筋にヒヤリと冷たい汗が流れる。
「ガスタービン発電所を作りなさい!」
「……へ?」
あまりにも飛躍しすぎた要求に、俺の素っ頓狂な声だけが、静まり返った屋敷の廊下に空虚に響き渡るのであった。
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