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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第二章 ウィルダム王国戦国時代
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第93話 家畜の量も規格外

 会議を終えた俺は、ドレイク寝殿へと戻ってきていた。


 かつては賑やかだった屋敷だが、ジークもアレスもそれぞれ領地を持ち、武士として独立して屋敷を出て行ってしまった。若い奴らが旅立っていくのはめでたいことなのだが、正直に言えば結構寂しい。


 ウィルダム王国の中心部や他領地では、今この瞬間も血で血を洗う戦争が繰り広げられているのだろう。だが、このドレイク寝殿の縁側にはぽかぽかと暖かい日差しが注ぎ込み、平和そのものの時間が流れていた。


 とはいえ、いつ火の粉が降りかかってくるか分からない。備えだけは万全にしておかなければ。


 そんなことを考えながら、縁側でお茶をすすり、のほほんと「次は何をしようかな」とぼんやり空を仰いでいると──


「悠子爵様──っ! こんにちは──っ!」


 突然、庭の向こうからけたたましい大声が響き渡った。

 見れば、泥と埃で汚れきったボロボロの服を着た小柄な影が、猛スピードでこちらへ向かって走ってくる。そして庭の芝生に差し掛かった瞬間、勢い余って「ズザーッ!」と豪快なスライディング土下座をかましてきた。

 土煙が舞い上がり、俺の淹れたてのお茶に微かに降りかかるのを手で防ぐ。


(え? だれこの子!? 見たことないんだけど!?)


 頭にハテナを浮かべまくる俺。


「ええと……」


「侵入者を見つけたぞ! 悠子爵様、大変申し訳ございません! 直ちに追い出しますので!」


 肩で息をした衛兵が、焦りきった顔で走ってきた。


「邪魔をするな! 俺は悠子爵様に会いに来たんだ!」


 土下座の姿勢のまま、顔だけを上げた泥だらけの少女が叫ぶ。


「だから何度も言ってるだろう! 正式な手続きを経てから来てくれって!」


「それじゃあ何カ月もかかるじゃないか! 今すぐ会いたいんだよ!」


「じゃあ会えたじゃないか! よかったな! さあ後の話は詰め所でじっくり聞こうか!」


 衛兵が少女の襟首を掴もうとするが、少女は必死に身をよじって俺に視線を向けた。


「くっ! 悠子爵様、俺を雇ってくれ! 草履持ちでも何でもするから!」


 切羽詰まったその表情と、あまりにも威勢の良い叫び声に、俺は思わずクスリと笑ってしまった。


「草履持ち……か。いいな、よし雇ってみよう」


「え? よ、良いのですか!? 身元も分からない怪しい者ですが……」


 衛兵が目を丸くして狼狽する。俺は衛兵の顔をじっと見つめた。


「……知り合いだろ?」


「……! な、何のことか……」


 衛兵はあからさまに動揺し、すーっと視線を横にそらした。口元が微かに引きつっている。


「まあいいや。面白そうだから雇ってみる。役職は草履持ちだ」


「あざす! 俺の名前はガキって言うんだ!」


「ん?」


 ガキ? それは流石に名前ではないような……。


「おい違うぞ! みんな名前がわからないから『ガキ』って呼んでるのであって、ガキが名前じゃないぞ!」


 衛兵が思わずツッコミを入れる。

 (やっぱ知り合いじゃねーか!)という心の声を、俺はすんでのところで呑み込んだ。地域で見守られている野良っ子みたいなものなのだろう。


「では名をやろう。……そう言えば、性別はどっちだ?」


「俺は女だ!」


 少女は汚れた胸をドンと叩いて主張した。

 よく見れば、泥に塗れてはいるものの、髪は珍しい綺麗なピンク色のショートヘアだ。元気が擬人化したような出で立ちだ。そして、将来的な伸び代を加味して……。


「百花(ももか)。今日からお主の名前は百花だ」


 俺は少し背筋を伸ばし、仰々しく宣言してみせた。


「ん? 新しい名前か!? ガキよりずっといい名前だな! 気に入ったぞ!」


 百花はニッと白い歯を見せて破顔した。八重歯が覗いて実に微笑ましい。


「よし、最初の仕事だ」


「なんだ! 何でも言ってくれ!」


「……風呂に入ってきなさい」


「へ?」


 拍子抜けした顔をする百花の手を引いて、俺は近くを通りかかった女性の使用人を呼び寄せた。


「この子を洗ってやってくれ。じゃあ、きれいになったらまた来い」


「おう! 行ってくる!」


 元気に手を振りながら使用人に連れられていく百花の後ろ姿を見送り、俺は再び縁側に腰を下ろした。


「さてと……そう言えば」


 ふと思い立ち、俺は前々から確認しようとして機会を逃していた、亜空間倉庫の画面を空中に出現させた。スライドさせ、『生物欄』のタブを開く。


「家畜の導入を始めるか」


 画面をスクロールしていくと、様々な動物のアイコンが並んでいた。


「牛、豚、鶏はいるな。他にもいろんな種類の動物がいるな……さて何頭くらいストックがあるかな……ん?」


 表示されている数字を見て、俺は目を疑った。


「……9999頭?」


 どの生物の項目を見ても、カウントが「9999」で頭打ちになっている。試しに、鶏のアイコンをタップして一羽取り出してみた。

 ポンッと目の前に元気な鶏が現れる。……画面の数字を見る。9999のまま変わらない。


「……数が減らないんだが?? カウントできない感じかよ……」


 しかも、取り出された鶏は「コッコッコッ」と鳴きながら走り回っている。


「……それにしても、鶏って空飛べたんだな。飛行生物欄に分類されてるからな……」


 あちこちへ走って行こうとする鶏を慌てて捕まえ、手近にあった縄で簡易的な首輪と紐を作り、縄を握る。

 鶏を散歩する絵ができる。シュールだな。


「よし、養鶏場を作ろう! だれか……いや、最初から民営化するのは不安があるか。誰か手の空いている奴はいないか!」


 呼び出しに応じた使用人に鶏を預け、俺はドレイク寝殿造の敷地内にある広い空き地へと向かった。そして亜空間倉庫にあった『養鶏場』の建築アイテムを選択し、設置ボタンを押す。


 木造の立派な養鶏場が一瞬にして姿を現した。ついでに隣に『養豚場』もセットで設置しておく。管理がしやすいように、最初は小さめのサイズにしておいた。


 実用化の目処が立ったら、領民たちに巨大な養鶏場と養豚場を作らせればいいだろう。


 横で見守っていた使用人は、何もない空間から突然建物が生えてきた光景を目撃し、目を点にして固まっていた。


 だが、俺は気にした風もなく爽やかに頷いてみせる。問題ない、なぜならうちの屋敷ではよくあることだからだ。


「あとの飼育や餌やりは君たちに任せるよ」


 やり方が分からないわけではない。決して、鶏や豚の詳しい育て方が分からないから任せたわけではない。断じてだ。


「さて……溜まった仕事を済ませようか」


 悠は背伸びをしつつ、龍栖館の応接間へと向かうのであった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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