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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第二章 ウィルダム王国戦国時代
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第91話 八龍城にて武士の受勲

「悠子爵様……そこまで税率を下げて、果たして我が子爵導の財政は成り立つのでしょうか? 猫伯爵様へお納めする上納金もございましょうし……」


 ジークは心配そうに、上座の隅に座るヒルダ伯爵へと視線を送った。


「ふむ。皆も……ジークと同じ意見のようだな。要するに、確実に入ってくる農地税の方が安定なのだから、農地税の割合を上げた方が良いのではないか、ということか?」


「……はい。それが従来の領地運営の常識かと存じます」


 俺はふっと口元を緩め、首を横に振った。


「いいか? 農業というのは天候ギャンブルだ。日照りや大雨、害虫一つで収穫量は大きく変動する。そもそも収穫の時点で安定などしていないんだよ。それに比べて、商売はどうだ? こちらが変に邪魔さえしなければ、経済の発展とともに右肩上がりに成長していく」


 俺は広間の兵たちを見つめ、具体的な例を挙げた。


「例えばそうだな。我が妻たちが『魔獣の肉を食べられるようにせよ』という命令を町に出したが、それによってどのように金が動いたと思う?」


「ええと……お金は……」


 ジークが言葉に詰まる。


「ふむ、お金で考えると難しいか。では『物』はどのように動いている?」


「……ッ! 魔獣を狩るために、武器や防具が買われるようになると思います。それがないと狩りに出られませんから。それと、傷を治す薬草なども……」


「そうだな! 武器や防具が買われるということは、鍛冶職人が原料となる鉱石を買うようになるということだ。そして鉱夫はつるはしや作業道具を買う。それ以前に、誰もが毎日食事を食べているだろう? 食料の流通など、それどころではない規模で物が動いているんだ」


 俺は身を乗り出し、力強く言葉を重ねた。


「それが『商売』だ。だが、その動きが滞りやすく、その滞りを放っておくと大惨事になる場所がある。それが『城壁の新築、増築、修復』や『公衆衛生』といった公共インフラだ。そこに資金を流し込んでいく。それが税金の本来の使い方だ。皆が必要としているが、民間の商売としては成り立たない仕事にお金を回すんだよ」


「……っ、大変勉強になります!」


 ジークが深く頭を下げると、周りの者たちも一斉に葛紙を取り出し、必死な手つきで文字を書き留め始めた。

 その光景を見て、俺は胸の中で深く頷いた。


(葛紙がここまで普及してきたか。これなら学校の設立もすぐに進められそうだな。そうすれば文学や学問もどんどん盛んになっていくぞ……)


 思考を切り替え、俺はさらに重要な新制度について告げた。


「売上税は今後ドレイク商会が発行する『銅貨などといった貨幣』にて納めてもらう。そして──我が子爵導ブレイシアにおいて『男爵』という地位は全廃し、俺が新設する『武士』という地位を授けることにする」


 広間に再び大きなショックが走った。


「な、なんですと!? 男爵位の廃止……!? それは他の貴族たちに対し、事実上の宣戦布告と受け取られかねませんぞ!」


「似たような事をもうすでにしたんだ。俺(正確には猫伯爵様)に従うかどうかを確かめさせてもらう。実際、ハンナ、クリスティーナ、イリア、ミナの四人はすでに武士となることを了承している。敵か味方かも分からない奴らに、領内でうろうろされては困るからな」


「それなら……いいのですね……」


 納得と覚悟の表情が広間に広がる。


「よってこれより、武士の称号を授ける『恩賞の儀』を始める!」


 格好良く宣言した俺だったが──ふと下腹部に押し寄せる違和感に気づき、思わず座布団の上でもじもじと身をよじらせた。


「……あ、その前に、トイレ行ってきていいか? ちょっと朝のお茶飲みすぎたみたいだ」


 静まり返っていた広間に、茉莉の容赦ないツッコミが響き渡った。


「格好つけておいて何言ってるのよ! 早くいっていきなさい!」


◇◇◇


「ただいま! じゃあ気を取り直して……誰から行こうか」


 すっきりした顔で大広間へ戻ってきた俺は、再び座布団へと腰掛けた。

 ふと肘掛けを見ると、さっきまではなかった一枚の葛紙が挟んであることに気づいた。そこには分かりやすい字で『名前』『業績』『領地名』が丁寧に書き記されていた。


(さっきはなかったのに……妻たちの気配りだな。ありがとう! マジで愛してる!)


妻たちへ熱い視線を送ると、三人はクスリと微笑み返してくれた。

俺は紙を手に取り、大きく息を吸い込んだ。


「まずは──ハンナ=チェルボ=ラインハルト。前へ!」


「はっ!」


 凛とした声を上げ、ハンナが一歩前へと進み出て平伏した。


「お主には引き続きアントラー町を治めてもらう。そして今日より、男爵ではなく『武士』を名乗ると良い」


「ありがとうございます!」


「続いて、クリスティーナ=チェルボ=クラウス、前へ!」


「はっ!」


 甲冑姿も凛々しいクリスが前に出る。


「お主には引き続きアントラー町の騎士団長を務めてもらう。そして今日より武士を名乗ると良い。……それと皆のもの、伝え忘れていたが、領地を持たぬ武士には俺から直接『給料』を渡すことになる。覚えておいてくれ。そしてクリス。お主への給料はすでに配下に持たせてある。いくらかはお楽しみというやつだ」


 今後やる気を出してもらうためというのと、『武士になれば給料がこんなにもらえるんだ!』っていう宣伝をしてもらうために少し多めに渡してある。

 

 さらに言うと、被害額も加算しておいたのでかなりの額になるだろう。山盛りになっている銅貨を見て数えるのをやめた。早急に銀貨をまず発行しなければ……。

 

 銀鉱石が見つかったという知らせはまだ聞いてないから鉄鋼を使った鉄貨の方がいいかもしれない。そうすれば鋼鉄の加工職人も育つだろう。問題は錆びないためにどうすればいいかだな。

 

 後にこのアイデアは割れやすいという弱点があったため試験段階で廃止されるのであった。


「はっ、ありがとうございます!」


 その後、イリアとミナの二人にも恩賞を与えた。といっても、これまで通りそれぞれの町を武士として治めてもらう形だ。


「続いて──俺の直臣となる、七名の武士を任命する!」


 俺が呼びかけると、七人の勇猛な者たちが立ち上がり、俺の目の前で一列に並んで平伏した。


「この七名は、今回の猪子爵による襲撃、奪われた領地の奪還、さらには敵男爵街の占領を成し遂げた猛き者たちだ!」


 俺は端から順に名前を読み上げていく。


「まずは、ジークフリート=パラディス。お主はこの六名と兵を率いてよく頑張ってくれた。よって先日も言ったが、奥様山とそのふもとにある町までをお主の領地とし、武士の称号とパラディス町の自治権を与える。これからも頼んだぞ」


「ハッ! このジークフリート、命に代えましても子爵様にお応えいたします!」


「アレスには苗字をやろう。今日より『アレス=九鬼(くき)』と名乗ると良い。そして今日より武士を名乗り、占領した町を『九鬼町』として治めるが良い」


(『九』は、俺の地球での苗字『九条』から取ったものだ)


「リースにも苗字をやろう。『リース=姫宮(ひめみや)』を名乗ると良い。今日から武士として『姫宮町』を治めるが良い」


「グレイン=アインウッド。今日から武士として『アインウッド町』を治めるが良い」


「ミレットにも苗字をやろう。『ミレット=兎原(うはら)』を名乗ると良い。今日から武士として『兎原町』を治めるが良い」


「フリス=スフィアム。今日から武士として『スフィアム町』を治めるが良い」


「ローシュ=ウィルスプ。今日から武士として『ウィルスプ町』を治めるが良い」


(……ふぅ、一気に家臣が増えて名前を覚えるのが本当に大変だな!)


 心の中で密かに汗をかきつつ、俺は堂々と締めくくりの言葉を言い放った。


「これにて恩賞の儀を終了とする! なお、今後とも武勇を示した者、あるいは動物討伐、魔獣討伐にて領土を広げた者には武士の称号と領地を与える! 各自、大いに励むように!」


「「「オーッ!!」」」


 腹の底からの雄叫びが八龍城の大広間に轟いた。

俺はその熱気に見送られながら、静かに大広間を後にした。


 ──この日、子爵領ブレイシアにおいて、激動の『大狩猟時代』の幕が上がったのであった。


◇◇◇


 恩賞の儀を終え、別室にてヒルダ様や妻たちとお茶を飲んでいた時のことだ。


「伝令! 伝令にございますっっ!!」


 ドタバタと廊下を駆けてくる足音とともに、一人の伝令兵が息を荒らして室内に転がり込んできた。その顔は青ざめ、目を見開いている。


「何事か!?」


 俺が思わず立ち上がると、伝令兵は床に膝をつき、震える声で叫んだ。


「こ、国王陛下が……全領地における収穫税を、これまでの倍である『六割』とし! さらに特別税も『三倍』に引き上げると公言なさいましたっっ!!」


「なんだと……!?」


 ヒルダ様が激高した様子で椅子から立ち上がり、目を見開いた。

 室内に、凍りつくような緊張が走った──。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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