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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第二章 ウィルダム王国戦国時代
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第90話 新税制『農一・商二・流一の制』

 この世界の朝は早い。

 時計で言えば、まだ午前五時から六時といったところだろう。東の空がほの暗い紺色から柔らかな茜色へと染まり始める頃、人々は着替えや身支度を済ませ、日が昇ると同時に活発に動き始める。


 俺も朝の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、着慣れた着流しに袖を通した。ドレイク邸の地下から地上へと上がり、朝露に濡れる庭の広場で軽めのストレッチを行う。腕を伸ばし、腰を回し、体をほぐしているうちに、地平線の向こうから力強い朝日が顔を覗かせ始めた。


「さて、今日も頑張りますか」


 ぽつりと呟き、俺は心地よい疲労感ととともに、汗をぬぐう。

 その後、合流した絢乃、茉莉、ルフの三人の妻たちとともに、スミレ寝殿へと向かった。彩り豊かな朝食が並ぶテーブルを囲み、穏やかな歓談の時間が流れる。


「そう言えばさ」


 焼きたてのパンにスープを添えて口へ運んでいた悠は、ふと思い出した疑問を口にした。


「昨日さらっと流しちゃったけど……経験値取得量100倍って、どういうことなんだ? 100%アップ──つまり2倍の間違いじゃなくて?」


 向かいに座る絢乃が、フフッと可愛らしく微笑みながら首を横に振った。


「100倍で間違いないよ。気になって実際に『鑑定』スキルで数値を確認してみたし。……まあ、さすがに永久バフじゃなくて、食べた後の一時的な効果だけどね」


「今更な質問なんだけど……そのバフって、食材そのものの効果じゃなくて、料理を作る側の意識によって変わるってことか?」


「そうだよ。食べる人に『たくさん経験値を得て強くなってほしい』って強く意識しながら調理すると、その意図が料理に反映されるの。でもね、色々試してみたんだけど、100倍以上に引き上げるのは出来なかったんだよね。それに、純粋にステータスそのものを底上げするバフも、100倍が限界だったの」


「いやいや、100倍でも十分に凄まじすぎると思うんだけど……」


 俺が引きつった笑いを浮かべると、紅茶を口に含んでいた茉莉が、ジト目でこちらを見てクスリと笑った。


「何を言っているのよ。100倍になったところで、あなたの異常なステータスには程遠いじゃない」


「そうです! 悠様を目指して、目指せ11億です!」


 ルフが手を高く掲げ、瞳を輝かせて拳を握りしめる。


「自分で言うのもなんだけど……それ、目指すような目標じゃない気がするんだよね……」


 苦笑いを返しながら、俺はふと窓の外へと視線を向けた。

 ドレイクの町からは、各家庭やかまどから細い白い煙が幾筋も立ち上っている。人々が今日も一日を生きるために動き出している証拠だ。これから始まる今日という日の予定を頭に浮かべながら、俺は静かに心を奮い立たせた。


◇◇◇


 朝食を終えた後、俺たちはドレイク邸の北東に位置する城──『八龍城(はくりゅうじょう)』へと足を運んでいた。

 

 ……いつの間にか名前が決まっていたこの城だが、実に重厚で立派な和風建築である。今日ここで、いよいよ『恩賞の儀』が執り行われることになっていた。


 大広間の前に立ち、俺は静かに襖を少しだけ開けて中を覗き込んだ。


(うわ……めちゃくちゃ広いな……!)


 目の前に広がる大広間は、幾畳もの青々とした畳が敷き詰められ、立派な太い柱が天井を支えている。百人は優に入りそうな広さだ。いや、二百人でも余裕で収まるかもしれない。


 なぜ今、これほど大掛かりな恩賞の儀を行うのか。

 それは、俺がドレイク町に戻ってきたという知らせを聞きつけ、周辺の町や防衛拠点から兵たちが続々と戻ってきたからだ。

 

 もちろん、境界の防衛や治安維持のために大半の兵は現場に残している。今回集まったのは、その兵たちを率いてきた長や部隊長たちであった。


 準備が整ったようなので、俺は大広間へと一歩足を踏み入れた。


 すっと息を呑む気配とともに、広間に並んでいた人たちが一斉に頭を下げ、深く平伏した。

 

 驚いたのは、彼らの装いだった。全員がびしりと和装を身に纏っていたのだ。


(これ……妻たちが事前に手配してくれたんだな。みんな、なんて粋な計らいをしてくれるんだ……! ありがとう! 愛してるぞ!)


 胸の中で妻たちへの感謝を叫びつつ、俺は上座に用意された厚手の座布団へと腰を下ろし、豪快に胡坐をかいた。脇に置かれた立派な肘掛けに軽く肘を載せ、威厳を保つように深く腰掛ける。

 

 俺の隣には絢乃、茉莉、ルフが美しく並んで座り、上座の少し離れた隅にはヒルダ伯爵が堂々とした佇まいで胡坐をかいていた。そしてその下座には、ハンナをはじめとする四人の元男爵たちが緊張した持ち前で座している。


 広間全体に静寂が満ちたところで、俺はゆっくりと口を開いた。


「まず、恩賞の儀を執り行う前に──俺が治める『子爵領ブレイシア』において、皆に納めてもらう『新税制』を発表する」


 ざわっと静かな波紋が広がった。

俺は右手の指を三つ立て、見せつけるように一本ずつ折り曲げながら語りかけた。聞き間違いや伝達の齟齬が起きないよう、はっきりと力強く言葉を紡ぐ。


「税の種類は三つとなる。『売上税二割』、『農地税一割』、『流通税一割』だ。これを名付けて──『農一・商二・流一(のういち・しょうに・りゅういち)の制』と呼ぶことにする」


 その瞬間、大広間の緊張が一気に吹き飛び、大きなざわめきが巻き起こった。


「な、なんだと……!? 安すぎではないか!?」


「それ以前に、税の種類が少なすぎる……!」


「そんなわずかな税収で、子爵領の財政がやっていけるはずが……!」


 口々に上がる不安と困惑の声。俺は制するように手を軽く挙げた。


「まあ待て。勝手に慌てるな。話を最後まで聞け」


 ざわめきが収まるのを待ち、俺は一つずつ詳細を解説していった。


「まず『売上税』についてだが、これは俺──悠=レイブリス=ドレイク子爵に直接納めてもらう税だ。各町のギルドを経由して集めることになる」


 続けて二本目の指を立てる。


「そして『農地税』。これは、その町を直接治めている領主の懐に入る税だ。それで配下の兵を鍛えるも良し、防衛陣地や城壁を築くも良し。好きに使って構わない。……ただし、変な使い込みをして領民を苦しめれば、反逆を招くだけだから気をつけろよ?」


 領主権限を興味を持つ長たちが、身を乗り出すようにして真剣な眼差しを向けてくる。


「最後に『流通税』だが、これは売上税と同じく俺に納めてもらう。ただし──子爵導ブレイシアの領内においては一切取らない。さらに、別の子爵領であっても、我が方と友好的な関係にある領地との取引なら取るつもりはない。これはあくまで、敵対勢力や怪しい商人が紛れ込んでこないか監視するための税だからな」


 一通り説明し終え、俺は静かに彼らを見渡した。


「何か、ここまでで質問がある者はいるか?」


 静まり返った広間から、一人の男が意を決したように手を上げた。ジークフリート──ジークだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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