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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第二章 ウィルダム王国戦国時代
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第87話 男爵たちからの質問攻め

「……続いて、私からの質問です」


 クリスが手を挙げた。


「武勇だけが基準となると、戦う力を持たない者はどうすればよいのですか?」


「何も、本人自身が強くある必要はないよ。稼ぎのある商人が兵士を雇って貢献してもいい。だからこそ『領地を持たない武家』という枠組みを用意してあるんだから」


「次は私からよ」


 ヒルダ様が身を乗り出す。


「売上税となると、税収が大きく変動するはずけれど……私への支払いは滞らせないでしょうね?」


「そこは問題ないと思いますよ。売上税だって、俺の指示で新しい物を作らせて市場を活性化させれば、勝手に税収は増えますから。まあ、やり方を間違えると『金はあるのに食べ物がない』という状況になるので、そこは工夫しますけどね」


 実際、妻たちの報告によれば、すでに『魔獣の肉を食べられるように調理・無毒化せよ』という指示を出し、達成した者には破格の褒美を出すと提示してあるらしい。


 食料の確保と技術開発を同時に進める手腕……さすが俺の自慢の妻たちだ。愛してる。


「なら、最後の質問よ」


 ヒルダ様の目が鋭くなった。


「王都や他の貴族から『勝手に独自の階級(武家)を作り、従来の貴族制度を解体しようとしている』と難癖をつけられたら、どう対処するつもり?」


「書類上はただの『男爵』として扱いますよ。それでも難癖をつけてくるなら、それこそ向こうの理不尽な難癖です。先ほども言った通り、俺の下につく意思があるかどうかを手っ取り早く確かめるためにこの方法を使います。大人しく挨拶に来て指示に従うなら、そのまま武家としての権限を与えます。従わない場合は……まあ、その時ですね」


 おとなしく従わない愚かな領主がいたとしても、魅力的な税制と経済を持つ我が領地に、領民たちは勝手に逃げて流れてくるだろう。結果として放置しておくだけで勝負はつく。


「その選定が終われば、子爵領ブレイシアの正式な境界線が確定するはずです。範囲が分かったら、それに沿って巨大な城壁を築きます。そして、そこに『流通税』を課します」


「流通税は敷くのね」


「ええ。原初至純教のような人族至上主義の危険思想や、敵対勢力のスパイ組織にうろうろされたらたまったもんじゃありませんからね。検閲と安全確保を兼ねてです。もちろん、子爵導ブレイシアの中や信頼できる隣接領地となら無税にするつもりですが」


 俺がにっこりと笑うと、ヒルダ様は深く深呼吸をし、心底感服したように首を振った。


「……貴方、いっそのこと私の領地もまるごと管理してもらえないかしら?」


「丁重にお断りします」


 俺の即答に、店内はドッと温かい笑いに包まれたのだった。


◇◇◇


 ──同じ頃。

 王都、王城の最深部に位置する国王執務室。


 重厚な調度品に囲まれた部屋で、王冠を戴く老雄──ウィルダム国王は、窓の外に広がる王都の街並みを見下ろしていた。

 その背筋はまっすぐに伸び、かつて全身を蝕んでいた病の影など微塵も感じさせない。


「……何やら、あの子爵と会ってからというもの、体調がすこぶる良い」


 国王は自身の大きな手を握り締め、溢れ出る力を確かめるように呟いた。


(若者の活気に鼓舞されたのかもしれぬな)


「し、しかし陛下! 長年の大病から快復されたばかりです。再発の恐れもございますゆえ、どうか今しばらくはご身心を休められますよう……」


 控えていた側近が心配そうに声をかけるが、ウィルダム国王は一喝するように振り返った。


「何を言っておるか! 今だからこそなのだ!」


 その瞳には、燃え盛るような意志が宿っていた。

 

(長年、儂の体を蝕んでいた毒は消え去った。……ならば、今こそだ。今こそ、この王国に巣食う腐敗したウジ虫どもを、根絶やしにしてくれようぞ!)


 国王は力強い足取りで執務机へと向かうと、羊皮紙の書状を広げ、筆を握らせた。


「皆に告げよ! 今年の収穫税は倍の『六割』とする! さらに特別税も『三倍』に引き上げよ!」


「なっ……!? へ、陛下! そのようなことをすれば、全国で民の激しい反発が起こります! ただでさえ今の国内情勢は限界に達しているというのに……!」


 側近が青ざめてひざまずき、必死に撤回を求めた。

 だが、ウィルダム国王の唇に浮かんだのは、冷酷かつ苛烈な極悪の笑みであった。


「……それが狙いだ」


 国王は静かに窓の外の王国を見つめ、心の中で深く語りかけた。


(国民よ、許せ。儂がこの国に溜まったすべての腐敗とウジ虫どもを炙り出し、排除するまで……何とか耐え忍んでくれ)


 過酷な増税を行えば、強欲な貴族どもは一層民を絞り上げ、やがて各地で大規模な暴動と反乱が巻き起こるだろう。それによって隠れていた反逆者や過激派、腐敗した権力者のすべてが一白日のもとに晒される。


 さらには、権力を得ようと躍起になっている、人族のやつらをこの国から追い出すこともできるだろう。


 そして最後──過酷な重税を課した愚かな暴君として、儂は新時代の英雄──悠=レイブリス=ドレイクの手によって倒されるのだ。


(ふっ……悪くない筋書きだ)


 己の命と名誉のすべてを捨て、国家の未来を切り拓くための捨石となる。

 王都の闇の中、老王の覚悟を秘めた薄笑いが、静かに響き続けていた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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