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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第二章 ウィルダム王国戦国時代
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第86話 男爵ではなく武士に

「まずは義務から行きましょうか。貴方は今まで免除されていたから知らないでしょうけれど、貴族が納めるべき『税』について説明するわ。基本となるのは三つ。収穫物を納める『農地税』、労役もしくは亜麻布などを納める『労役税』、そして地域の特産品を納める『特別税』よ」


「へえ、結構シンプルなんですね。それに比べて猪子爵の治めていた町は」


「あのクズの話はしないで頂戴。思い出すだけで虫唾が走るわ。王都へ護送するために、あいつを乗せた馬車ごと処分しなくちゃならなかったのよ?」


「……すみません」


「良いのよ、貴方が謝ることではないわ」


 ヒルダ様はため息をつき、話を戻した。


「その三つの税を、国王様に納めるわけなんだけれど……正確には『間接的に』ね。男爵が子爵に納め、子爵が伯爵に納め、伯爵が……といった具合に上がっていくのよ」


「……それって、途中でいくらでも中抜きできません?」


 俺が素直な疑問を口にすると、ヒルダ様は「良く気づいたわね」と感心したように頷いた。


「そうなのよ。やろうと思えばいくらでも中抜きできるし、何ならこの仕組み自体が『中抜きしてください』と言っているようなものだわ。各領地の詳細な生産量なんて上に報告する義務もないし、書かなくていいもの。中抜かれていても分からないし、中抜きしているのかどうかすらわからない」


 その言葉を聞いて、俺の脳裏に王都で会ったウィルダム国王の顔が浮かんだ。


 『この国を乱世にする』──国王様が語っていたあの構想は、行き当たりばったりの思いつきなどではないのだと気づき、背筋に冷や汗が流れた。


「あとは、私が伯爵として援軍を要請した際に兵を出すこと……これは『労役税』と相殺する形になるわね」


「承知しました」


「ちなみに、参考までに聞いておくけれど……貴方はこの子爵領ブレイシアを、これからどう導くつもりかしら?」


 ヒルダ様の真剣な眼差しを受け止め、俺はうーんと腕を組んだ。


「正直な感想を言えば、まだ何とも言えないですね。俺の管理下に入る男爵たちもいるわけですし……」


 言いながら、ちらりと厨房の方を見ると、茉莉が温かい眼差しでこちらを見つめ、「あなたがやりたいようにしなさい」と優しく声をかけてくれた。その一言で、俺の迷いは消えた。


「……よし。じゃあ、まずは税の徴収方法から根底から変えます。ついでに、今のうちに配下の男爵たちが俺に従う気があるのかどうか、見定めさせてもらいましょう」


「……? 具体的にはどうするつもり?」


「まず、私──悠子爵は、『売上税二割』を直接民から徴収する形にします。それと、俺が直接管理する直轄領からは『農地税』を一割貰います。この農地税は、今後の教育や制度化が進めばさらに引き下げるつもりです。そして──傘下に入る男爵たちの従来の税収権をすべて剥奪します」


「なっ……!?」


 ハンナたちが目を見開いたが、俺は構わずに続けた。


「これからは、俺が新設する『武士』という新たな枠組みのみに『領主』としての領地運営権と、その土地からの『農地税』を得る権限を与えます」


 本当は『売上税』のみのシンプルな形に統一したいところだ。


 だが、それでは今後訪れるであろう『乱世』において、功績を挙げた者に褒美として領地を与える旨味がなくなってしまう。


 『領地をもらう=農地税を得る権限を得る』という意義を持たせなければ、領地を持つことがただの負担になってしまうからだ。


「私が新設する『武士』に求める税は、先ほど話に出た労役の一部、騎士を差し出す『兵役』のみとします。つまり、新設された『武士』は、自分の領地から得た『農地税』を丸々自分の懐に入れることができます」


 そこまで説明すると、ハンナたち男爵の目の色がガラリと変わった。


 慌てて懐から葛紙と羽ペンを取り出し、必死な手つきでメモを取り始める。


「また、領地を持たない『武士』に対しては、私から月に一度『給料』を与えます。正確な額はまだ算出中ですが、配下の騎士や兵士を最低限維持できる程度には与えるつもりです。そして、武士の地位を与える基準ですが……俺が武勇によって子爵位を得たのと同じく、彼らにも『武勇』で示してもらいます。当然、未開地を開拓したり、害をなす動物や魔獣を討伐して領土を広げた場合も、その土地を領地として与えます」


 一通り説明し終え、俺は肩をすくめた。


「……こんな感じでしょうか。何か質問はありますか? 貴族を倒してはいけないという法律がない以上、子爵である俺が領内の制度をこう変えても、何の問題もない気がするんですが」


◇◇◇


「……え、ええ。問題……ない……わね」


 ヒルダ様は呆然とした様子で頭を整理するように呟いた。


「私に税を納める際、書類上『農地税』や『特別税』名目でまとめれば済む話だし……男爵位そのものを剥奪するのではなく、領地の管理権を組み替えるだけなら、子爵の裁量権の範囲内だわ。……あれ? 本当に何も問題がないのかしら?」


「問題大ありですよ!!」


 ハンナが勢いよくテーブルを叩いて立ち上がった。


「領地を持たない武家全員に給料を出すなんて……悠……子爵様、破産するおつもりですか!? その膨大な金を、一体どこから捻出するつもりなんですか!?」


「ん? あー、そういうことか」


 俺は納得してポケットに手を入れ、一枚の金属片を取り出してテーブルの上にトンと置いた。


「銅貨を作ればいい」

「……銅貨?」


 ハンナが不思議そうにそれを覗き込む。


「そういえば、この町の住人たちが妙な金属の欠片を持って売り買いしてますね。それ、一体何なんですか?」


「これは『銅貨』と言ってね。一銅貨を『一龍(いちりゅう)』と数えるんだ。で、一龍は『大麦一桝』と交換できる価値として保証されている。今のところは、ね。穀物を直接持ち歩くより軽くて持ち運びやすいだろ? ちなみに換金所はうちの店の隣で運営しているよ」


「これで……食事が買えるというのですか……?」


 クリスが信じられないといった様子で呟いた。


「そう。正確には『子爵が発行している大麦の引き換え券(銅貨)』を使って取引している、ということになるね」


 男爵たちは狐につままれたような顔をしているが、ヒルダ様だけは目を見開き、ハッと息を呑んでいた。通貨発行権と信用経済の仕組みを直感的に理解しているようだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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