↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第一章 辺境での身分確保と安寧への道
81/105

第80話 丹田呼吸法 茉莉視点

(つまりそれって……)


「エネルギーそのものを、そのままの形で取り出して行使できるなんて、地球の物理法則から見ればとんでもないことだわ。地球じゃ、水力発電をするにしても、まず水の『位置エネルギー』を『運動エネルギー』に変えて、タービンを回して『電気エネルギー』にして、それを送電してやっと光や熱のエネルギーとして使うのに。そんな面倒な工程を一切すっ飛ばして、ダイレクトに事象を起こせるなんて……。それで、生活魔法でどうやってその火を出したの?」


「生活魔法は、基本的に『熱・冷・湿・乾』の四つの作用を操る魔法です。私の指先の火は、『熱』の作用と『乾』の作用をいい感じに混ぜ合わせることで、発火の現象を引き起こしています。これは本当に感覚ですね」


「作用を混ぜ合わせて出力する……それって地球の電気回路の抵抗値や電流を調整するのとほぼ同じ感覚じゃない。ということは、それを応用すれば、火、水、土、風の基本四属性をすべて生み出せるということ?」


「理論上は可能です。ですが、複数の作用を同時に並行して発動・制御しなければならないので、難易度は非常に高いですし、魔力の消費量も通常の倍以上になります」


「完全にロマンの領域ね……」


 私はため息をつきながら、再び頭を抱えた。すると、隣で興味深そうに話を聞いていた綾乃が質問した。


「ねえルフちゃん。その魔力って、自然界から貰っているの? 精霊様にお願いするとか?」


「いいえ、自分自身の体内で消費します」


 ルフが自身のステータス画面のMP欄を見せる。半分以下に減った数値が、ごく微量ずつだが、確実に回復しているのが見えた。


「これって、どうやって回復しているの? 使わずにいれば自然に増えるの?」


「はい。MPを持つ種族の体内には、『魔核(まかく)』というマナを生成・貯蔵するための器官が備わっています。そこで自然界のマナを体内に取り込み、自分の魔力へと変換しているのです」


 ルフは自分の胸の中央、心臓のあたりにそっと手を置いた。


「そうなんだ……。それを使う時って、どんな感覚なの? 電気が走るみたいな感じ?」


「うーん、そうですね……。この胸の魔核から、お腹の下あたりに向けて、じんわりと暖かいものが流れ落ちていくんです。それがそこから全身の脈へと巡っていって、最終的に指先や手のひらに集まってくる……という感覚でしょうか」


「お腹の下あたりって……それ、『丹田(たんでん)』じゃない!」


 私は思わず椅子から飛び起きた。


「絢乃! 丹田呼吸法を試すわよ!」


「え? たんでんこきゅうほう? どうやるの、まーちゃん」


「日本の武道や座禅で使われる呼吸法よ。息を吸い込み、下腹部の『丹田』と呼ばれる場所に意識と力を集中させ、そこから全身へ気の流れを巡らせるの。ルフの言う魔力の流れと、この呼吸法での気の巡らせ方は、驚くほど酷似しているわ。自己流でやると身体を壊す危険があるけれど、私の指示通りにやれば大丈夫よ。なんてったって、師範代だからね。師範には感謝しかないわ」


 私たちはすぐに床に座り、座禅を組んだ。

 

 ルフも興味深そうに私たちの間に加わる。


「背筋を伸ばして、まずは肺の中の空気をすべて吐き出して。次に、鼻から静かに息を吸いながら、お腹の下――ちょうどおへその下あたりに空気を溜め込むイメージで、そこを意識の起点にするの。そして、溜まった熱を、ゆっくりと時間をかけて全身の血管へ流し落としていくように息を吐き出す……」


 私の静かな声に合わせて、三人で深く、長い呼吸を繰り返す。

 

 地下室の静寂の中、吸っては吐く呼吸の音だけが重なり合う。

 

 最初は何も感じなかった。しかし、数十分が経過した頃、お腹の底に、確かに小さな『熱の塊』のようなものが生まれるのを感じた。

 

 その熱は、呼吸を重ねるたびに脈動し、私の意思に従ってゆっくりと腕を伝わり、手のひらへと流れ込んでいく。


 ピコーン――。

 脳内で、冷徹なシステム音声が響いた。


【スキル『魔力感知』を獲得しました】


【スキル『魔力制御』を獲得しました】


「――できたわ!」


 私が目を開けると、ほぼ同時に絢乃も「あ!」と声を上げて自分の手を見つめていた。


「まーちゃん! 私も今、頭の中にアナウンスが流れたよ! お腹の中がぽかぽかして、自分の意思で動かせる!」


「お二人とも、信じられないほどの飲み込みの早さです! 普通なら、魔力を自覚して制御できるようになるまで、数ヶ月はかかるものなのですが……」


 ルフが驚愕の表情で私たちを見つめている。

 

 地球の呼吸法という技術が、こちらの世界のシステムと奇跡的な噛み合わせを見せた瞬間だった。

 

 私たちは手を取り合って喜び、その夜は新スキルの獲得を祝して美味しいお酒を開け、最後は一つの大きなベッドに三人で潜り込み、互いの体温を感じながら泥のように眠りについた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。