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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第一章 辺境での身分確保と安寧への道
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第79話 魔法の二大原則 茉莉視点

 数日後。

 

 カルフェル町やヴィベル町へ派遣していたジークたちから、領地の奪還が無事に完了したという伝令が届いた。

 

 私は彼らの優秀さを信じていたので、届いた書状に対して余計な指示は出さず、『以後の運営と判断は、現地のあなたの裁量にすべて任せます』とだけ返事を送った。

 

 ジークたちなら、自分たちの頭で考えて最適な統治を行うだろうし、何より私の事務作業を減らすためにも、現地への権限委譲は必要だった。


 同時に、例の龍神形態の悠の威光に平伏した元難民たちの中から選んだ代表者を据え、ついに『モウル商会』を正式に発足させた。

 

 彼らには帳簿の付け方や、ドレイク商会との提携による利益誘導の仕組みを叩き込み、他の独立系商人たちにも「自分たちも新しい商会を立ち上げれば、これほど儲かるのだ」というモチベーションを植え付け、競わせるように仕向けた。


 そしてその日の夜。

 

 私と絢乃、そしてルフの三人は、ドレイク邸の地下にある豪邸のリビングに集まっていた。

 

 電気を付け、私たちは『検証会議』を開く。

 

(早めに全区画の部屋を何にするか決めないと……)

 

 今、この強大な地下空間の4分の1も埋まっていない。


「いきなり森に行って魔獣相手にレベリングをするのもいいけれども、その前にどうしても確かめておきたいことがあるの。それは、スキルの習得条件とレベルアップの条件よ」


 私は二人の前で、自分のステータス画面を見せた。

 

 そこには、これまで獲得したスキルが並んでいたが、特定の項目を指で示す。


「見て。私のスキルレベルが全体的に上がっているの。特に、『鑑定』スキルが以前より2レベルも上がって、現在は『レベル7』に達しているわ」


「わぁ、まーちゃん凄い! 私なんて、まだ『アイテムボックス』のレベルが上がっただけなのに……」


「私も同じような状態です。スキルレベルというのは、そう簡単には上がらないものだと思っていましたが……」


 絢乃とルフが感心したようにステータスを見つめる。


「色々試してみて確信したけれど、スキルのレベルアップは『反復行動』がトリガーになっているわ。鑑定スキルの場合は、とにかく多くの物品を観察し、鑑定し続けることがレベルアップの条件よ」


「えー! そうなの? 私も普段から、周りのものをよく観察しているつもりなんだけどな。何か違うのかな?」


「おそらく、対象を見ている『時間』の違いね。絢乃は興味の移り変わりが激しいでしょう? 一つの対象を深く、長く深く見つめ続けるような集中力が、スキルの成長判定に影響しているのだと思うわ。……ちなみに、私たちの『研究班』のメンバーのステータスをこっそり鑑定したところ、彼女らも全員『鑑定』スキルを身につけていたわ」


 あえて『研究班』に特定の名前を付けていないのは、名前という概念を与えてしまうと、研究班の存在を外部に知られ刺客を送られかねないからだ。

 

 名前がないのは存在しないも同じ、ということだ。


「それはそうと、魔法についてよ。私たちはまだ魔法を使うことができないの。あなたたちはどう? 何か使えたりする?」


「私は何度か試してみたんだけど、全然ダメだったなぁ」


 絢乃が残念そうに首を振る。

 

 すると、隣に座っていたルフが、不思議そうに首を傾げた。


「……ん? 私は使えますよ?」


「えっ?」


 私と絢乃の視線がルフに集中する。

 

 ルフは「少し失礼しますね」と言うと、小さな人差し指を立てた。その指先に、意識を集中させるように目を細める。

 

 数秒後、ぽっ、と小さな赤い火が灯った。

 

 それはまるで、地球のマッチの炎のような、弱々しくも確かな火だった。


「ちょっ、ちょっと待ちなさい! そのやり方を詳しく教えて!」


「ええと……魔力を感知するところからスタートすべきでしょうか? 感覚としては、こう、お腹の底で『ギューッ』と力を溜めて、そこから一気に『カッ!』と通して、『ボワッ!』と出す感じです!」


 ルフは立ち上がり、体全体を使って熱心に表現してくれる。だが、その擬音だらけの説明に、私はこめかみを押さえて頭を抱えた。


「……そんな悲しそうな目で見ないでください」


「ごめんなさい、ルフ。あなたが感覚派なのを失念していたわ。……少し整理しましょう。まず、そもそも『魔力』って何なの?」


「魔力ですか? システム上のMP(マナポイント)を指しますが……それだとさらに質問が増えそうですね。ええと、魔法の仕組みについて説明します」


 ルフはテーブルの上の紙と羽ペンを取り、簡潔な図を描きながら説明を始めた。


「魔法には大きく分けて二つの原則があります。一つは『事象の【顕現】』、もう一つは『環境・事象の【操作】』です。前者の『事象の【権限】』は、いわば『無からの生成』です。例えば、水を生み出して敵に放つ魔法がこれに当たります。この魔法で生み出された水は、術者の魔力供給が切れた時点で跡形もなく消滅します。ただし、その水が敵に与えた衝撃や、衣服を濡らしたという『物理的な結果』は世界に残り続けます」


「ふむ。一時的にエネルギーを物質の形に変換しているのね。では、もう一方は?」


「後者の『環境・事象の【操作】』は、『既存物質の書き換え』です。例えば、目の前にある川の水を魔力で浮かせて動かすような方法ですね。これは厳密には魔法による生成ではなく物理操作です。操作された水は魔力が切れても残り続けますが、物理法則を無視して浮いているといった『現象』は、魔力が切れた時点で維持できなくなり、ただの水として地面に落ちます。これで、私の説明は伝わっていますか?」


「ええ、完璧よルフ。ありがとう。……要するに、魔力とは『マナ』という元素のようなものをエネルギー源として消費している、という認識で合っているかしら?」


「元素……物質を構成する単位とは少し違います。マナを一時的に物質に変えることはできても、その状態を永久に維持することはできません。かといって空気でもなく、純粋な『エネルギーそのもの』です。地球の概念で例えるなら……磁力に近いですが、本質的には異なりますね」


 ルフの解説を聞きながら、私は深く考え込んだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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