↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第一章 辺境での身分確保と安寧への道
63/105

第62話 山の主との一騎打ち

(うわぁ……帰って風呂入りたい!)


 しかし、そんな悠の内心の嘆きなど露知らず、背後の遠征軍たちは、悠の底知れない強さに驚愕し、大いに湧き立っていた。


「見たか……! あの巨大な魔獣の突進を、将領様は片手で受け止めちまったぞ!」


「なんという御力だ! やはり俺たちの将領様は本物の英雄だ!」


悠は血に濡れた盾を掲げ、振り返って遠征軍を睨みつけた。


「全員、何をしている! 俺の盾の後ろで震えているだけが、我が兵か! 武器を取れ! 地獄を蹂躙せよ!」


「「「うおおおおおおおおおーーーッ!!!」」」


悠の咆哮に呼応するように、遠征軍たちの士気は最高潮に達した。彼らは恐怖をかなぐり捨て、雄叫びを上げながら、一斉に魔獣の森へと進撃を開始した。


◇◇◇


進軍を開始した遠征軍は、最初こそ魔獣たちの変則的な攻撃や森の起伏に苦戦していた。しかし、元々動物の草原で鍛えた連携と、実戦の中でみるみる上昇していくレベルの、両方の相乗効果によって、数日も経つ頃には、襲いかかってくる魔獣たちを難なく倒せるようになっていた。


悠の規格外の能力に裏打ちされた安心感も手伝い、軍の行軍速度は予想を遥かに上回った。


「悠様、信じられません。目標としていた山まで、当初は一ヵ月はかかると見積もっていましたが……もう目の前です」


ジークが感嘆の声を漏らす。


彼らの眼前にそびえ立つ山――その山頂付近は、不思議と木々がまばらで、美しい開けた草地が広がっていた。そして、その山頂に到達した一行の目に、息を呑むような光景が飛び込んできた。


そこには、十数頭の馬の群れがいた。


だが、ただの馬ではない。その身体は夜のように黒く、首元から尻尾にかけて、まるで本物の炎のような赤い鬣(たてがみ)が、風に揺られて激しく揺らめいているのだ。彼らが動くたびに、蹄から火の粉が舞い散る。


「馬の魔獣の群れか……! 悠様、俺があいつらを倒してきます!」


アレスが槍を構え、勇んで一歩前に出ようとする。


「待て、アレス。手を出すな」


悠がそれを手で制した。


「え? なんでですか?」


「……俺の馬にしたいんだ」


悠の目は、群れの中心に立つ、最も体躯が大きく、一際激しい炎の鬣を持つ一頭の馬に釘付けになっていた。あの馬に乗って駆け回りたい。その衝動が抑えられなかった。


悠がゆっくりと歩みを進めると、炎馬の群れがざわめき立つ。しかし、悠の視線を受けて、群れの長であろう巨大な炎馬が、静かに一歩前に出てきた。


炎馬の王は悠を真っ直ぐに見据え、前足で力強く地面を引っ掻いた。一騎打ちでやるつもりなのであろう。


「いいだろう。その意気やよし!」


悠は不敵に笑うと、身につけていた美しいプレートアーマーを脱ぎ始めた。せっかく職人たちが作ってくれたものだが、今は邪魔だ。さらにインナーも脱ぎ捨て、上裸になって相撲の構えをとる。相撲をやったことがないので、見様見真似だ。


悠が両手を地面につけた瞬間、炎馬の王が動いた。


その速度は文字通り電光石火。早すぎて炎の幻影を残しながら突進してくる。


ドォン!


激しい衝撃が悠の胸を襲った。しかし、悠はその突進を、両手で抱き着くようにして受け止めた。悠の足は、地面に根を張ったかのように微動だにしていない。


押し合いは不利と判断したか、炎馬は身をひるがえし、光のような速度で後ろ足で蹴ってくる。

ドガッ!


蹄が悠のみぞおちに入るが、悠にとっては痛くも痒くもない。


炎馬は一旦距離を取り、じっと悠の様子を伺いながら、次はお前が来いと待つ。


「じゃあ、遠慮なく行かせてもらうぞ」


悠は一瞬で間合いを詰め、炎馬の王が反応するよりも早くその眼前へ踏み込んだ。


そして、めちゃくちゃ手加減してビンタを顔に放った。


バァンッ!


重い音が響いた直後、炎馬の王の巨体は、草地を自らの体で削りながら吹き飛び、ピクリともしなくなった。


「やば! やりすぎた!」


悠は慌てて近づいていき、いざという時のために準備していた、一番良いポーション『至高級ポーション』を懐から取り出し口に流し込む。


すると、何事もなかったかのように起きだした。


炎馬は自分の身体を見回した後、目の前にいる悠をじっと見つめ、その大きな頭を悠の頬にすり寄せ、顔をなめてくる。


「わっ、くすぐったい! 汚いからやめてほしい!」


悠が嫌がりながらも笑っていると、炎馬はしばらくすると、足をまげて、背中に乗るように促してくる。


「乗ってもいいのか?」


遠慮なく乗せてもらう。


その瞬間、悠の視界が一気に開けた。


山頂から見下ろす景色は、信じられないほどの絶景だった。自分たちが進んできた深い森が広がり、その反対には、太陽の光を反射して青く輝く広大な海が一望できる。


「おし! お主の名前は、炎(ほのお)の帝(みかど)で『炎帝(えんてい)』だ!」


 まんざらでもなさそうに鳴いてくれる。……そういや性別どっちだろう。炎帝なら雄雌どっちでも問題ない……はず。


初めて馬に乗る感触に浸りながら、遠くを眺めていると、


「悠様」


不意に声をかけられ、悠は視線を下ろした。


そこには、ジークが膝をつき、恭しく頭を垂れていた。

よく見ると全員が膝をついる。


「我らは一生貴方に付いて行きます」


ジークが顔を上げ、その瞳に熱い信頼の光を宿して言った。遠征軍たちの表情にも、一切の迷いはなかった。彼らは義務や恐怖からではなく、悠という存在の圧倒的な強さと、その器の大きさに心から惹かれ、忠誠を誓っているのだ。


悠は彼らを見渡し、にこやかに言うのであった。


「ああ。付いてこい。きっと楽しいぞ」


◇◇◇


一方その頃。


ドレイク町から遠く離れた、豪華な執務室では。


「あひゃひゃひゃひゃ! 今頃、ドレイク町は病人であふれかえってることだろうな!」


猪子爵は醜悪な笑い声を上げながら、机の上に山盛りに盛られた肉と酒と果物をほおばる。


口の端から食べこぼしを散らしながら、猪子爵は部屋の隅で平伏している者たちを見下ろした。


それは、ドレイク町の様子を伝えた、「狩人の村」の村人たちだった。


彼らの服はボロボロで、身体は痩せ細り、しかし目には恨みがこもっていた。


「お前たちのおかげだ、感謝する。ありがたく受け取れ!」


猪子爵がそう言って放り投げたのは、大量の亜麻布だった。

1反で大麦100桝にもなる亜麻布を大量に渡す。


「ありがとうございます……!」


それらを奪い合うように取る。

亜麻布を決して離さぬようにしがみつきながら、彼らは涙を流して猪子爵に頭をこすりつける。


「私たちは貴方に一生ついていきます」


自らの恨みを代わりに果たしてくれるだろう猪子爵に、必死に忠誠を誓う村人たち。


片や、自らの意志で主を選び、その背を追って未知の荒野へと進む、ドレイク遠征軍の誇り高き誓い。


この世界の片隅で、別々の忠誠が行われていたのであった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。