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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第一章 辺境での身分確保と安寧への道
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第50話 商会の立ち上げ許可

「あとは……ああ、忘れるところだった。司内や、導内で大きな事件の裁判があった場合、立ち会いも男爵の義務だ。結構面倒なんだよ、これが……。悠が男爵になった後もドレイク村の村長を続けるなら、私の町の裁判にも参加してもらうことになる。私の街の村だからね」


「裁判の立ち会い……承知しました。それ以外には何か?」


「それ以外は特にないな。子爵以上なら、国から定期的に大麦や油などの支援物資がもらえたりするんだが……男爵にはない。これくらいだが、何か質問はあるか? それに、何か言い忘れたことはないか、クリス?」


 ハンナが尋ねると、クリスは小さくため息をついた。


「公の場なら、ちゃんと『男爵』と付けなさいな。それと、言い忘れはないと思うわ」


 そうなのか。覚えておこう。


「いいじゃん! ここにはあのキモい子爵もいないんだからさ」


 ハンナはケラケラと笑っている。

 悠は少し視線を後ろにやり、控えている妻たちへと目をやった。

 特に茉莉と視線が合うと、彼女は小さく唇を動かして『ないわ』と伝えてくれた。懸念事項はないという意味だろう。


悠は向き直り、ハンナに頭を下げた。


「特に質問はございません。ぜひ、よろしくお願い致します」


「よし、決まりだな! 姉上への報告書は私とクリスで責任を持って書き上げよう。そして私が直接提出しに行く」


 そこで一区切りがつき、悠は少し姿勢を崩してお茶をすすると、気になっていた別の話題を切り出した。


「話は変わるのですが、実は村の特産品を流通させるために『商会』を立ち上げたいと考えています。その場合、どちらで立ち上げの手続きを行えばいいでしょうか?」


 本当は協会を立ち上げたいのだが、まずは商会から立ち上げようと思う。


「商会……? それはなんだ?」


 ハンナが不思議そうに首を傾げる。


「ここからは私が話を引き継ぎましょう」


 クリスが話に入って来る。


「貴方の言う『商会』がどのような組織かは分かりませんが、この国には『商人ギルド』というものが存在します。彼らは特定の商圏や商品、取引ルートを独占する権利を持つ者たちの集まりです。もっとも、この地方にはそういった組織はありませんが……まあ、独占するような魅力的な商品もありませんでしたからね。それはさておき、その商会とは何ですか?」


「ええと……それは、その……」


 商会って何だっけ?

 悠が言葉を詰まらせていると、彼の背後から静かで澄んだ声が響いた。


「旦那様は、そういった商業の制度や細かな交渉ごとには少し疎いところがありまして。代わりに私の方から説明させていただいてもよろしいでしょうか?」


 茉莉が美しい所作で一歩前に出て、ハンナとクリスに向かって微笑んだ。

 悠は心の中で「茉莉、ありがとう! 愛してる!」と叫びつつ、彼女に説明を任せることにした。


 茉莉は、商会の説明と商人ギルドとの違いを分かりやすく説明した。


 要約すると、商人ギルドは『相互扶助・価格統制・独占権維持』を目的とした団体で、商会は『利益追求・事業拡大』を目的とした組織だ。


 結論として、この世界で商業を行うには「商人登録簿」に名前を記載すれば事足りることがわかった。

 しかし、先ほども言っていたように商人ギルド自体はこの辺りにはなく、新しくギルドを設立するには、男爵位と同様に『子爵以上の貴族からの認可』が必要になるのだという。


「そういうことなら、男爵位の申請と一緒に、商人ギルドの設立の申請も私から姉上にお願いしておこう。名前はどうする?」


「そうですね……申請を取り持っていただくお二人の名前を合わせて、『クリスタナ商人ギルド』というのはいかがでしょうか?」


 茉莉の提案に、ハンナ男爵とクリス男爵は驚いたように顔を見合わせ、それから嬉しそうに頷いた。


「『クリスタナ』……ふふ、悪くない響きね」


「よし、その名前で申請しよう! ただ、設立にあたっては猫伯爵への上納品……つまり特産品をいくつか示す必要がある」


「それでしたら、我が村で生産している『レンガ』、質の良い『革製品』、そして『青銅の武器や防具』を上納品として選びたいと思います。どれも品質には自信があります」


 茉莉の提案に、クリスは「青銅の武具まで……」と驚きを隠せない様子だった。


「ちなみに、職人の権利を守る『職人ギルド』のようなものはこの地にはないのでしょうか?」


「ないわね。この辺境では職人の数自体が少ないし、保護するような余裕もないのが実情よ。それとそもそもこの国にはなかったはずよ」


「それなら、ドレイク村の中で職人たちを守り、技術を育成する独自の制度をこちらで作ることにしましょう」


 茉莉の頼もしい言葉に、悠は深く感心した。


(そういえば……レンガの量産を進めるなら、新しい『粘土採掘場』を作らないとな。前の場所はダンジョン化してしまって、粘土を採れなくなってしまったし……)


 ダンジョンへと変貌してしまったかつての採掘場を思い浮かべながら、今後の開発計画のタスクを頭のノートに書き留め、こうして夜の会議は無事に幕を閉じたのだった。


◇◇◇


 会議の後、夜がさらに更けた頃。

 悠は一人、ヤマブキ寝殿(南西寝殿)の裏手にある神社と、その隣にひっそりと佇む精霊社へと向かった。

 二つの満月が夜空に並んで輝き、冷たく澄んだ光が辺りを静かに照らしている。


 拝殿の前に新しくお供え物を置き、参拝をする。


 静かな夜気の中で参拝を終えた悠は、地下室にある個室の寝室へと戻った。

 扉を開け、静まり返った部屋に入り、ふと部屋の隅に据えられた神棚を見上げた瞬間――悠の動きがピタリと止まった。


「……あれ? なんだ、あの光……?」


 暗い室内にあって、神棚の上が妙に明るい。

 まるで「私はレアアイテムです!」と全身で自己主張するかのように、きらきらとした淡い光のエフェクトを纏った一振りの剣が、そこにちょこんと置かれていたのだ。


 ごくりと唾を呑み込み、慎重な足取りで神棚へと近づいた。

 恐る恐るその美しい柄に手を伸ばし、指先が触れた瞬間――。

 剣の周囲を漂っていた淡い光のエフェクトが、すうっと吸い込まれるようにして消え去った。


「本物の剣……だよな?」


 神棚から剣を取り、鞘から少しだけ刀身を抜いてみた。しかし、部屋が暗くて細部がよく分からない。

 慌てて部屋の明かりを点灯させ、もう一度その剣を凝視した。


「――白い……」


 驚いたことに、鞘や柄といった外装だけでなく、抜き放たれた刀身に至るまで、すべてが一点の曇りもない純白の金属で形成されていた。まるで美しく磨き上げられた白磁のようでありながら、金属特有の鋭さと冷たい輝きを宿している。


 高鳴る鼓動を抑えながら、心の中で『鑑定』を唱えた。


 視界に、半透明のステータス画面が浮かび上がる。


---


『ステータス』


【名前】 精霊の誓剣(せいれいのせいけん)

【分類】 片手剣

【レア度】 伝説級(レジェンダリー)

【品質/銘】 神品/■■■■

【強化値】 0/100

【上限突破】 Rank 0/5

【熟練度】 0/10000

【耐久度】 500/500


【能力値】

 ・物理攻撃力:100

 ・魔法攻撃力:100

 ・聖法攻撃力:100

 ・神法攻撃力:100


【特性】 神力

【付与】

 ・【精霊の加護】魔力、聖力、神力が宿る。

【説明文】 混沌種(カオス)を倒すために、精霊が作った剣。神力を纏う事から、通常霧散してしまう混沌種を阻止することが出来、素材を採集できるようになる。


---


「何これすご……!」


 悠は思わず感嘆の声を漏らした。

 伝説級(レジェンダリー)というレア度もさることながら、説明文にある「通常霧散してしまう混沌種を阻止し、素材を採集できるようになる」という一文は、極めて重要な意味を持っていた。


(もしかしてあのダンジョンも精霊様のおかげか!? ……混沌種を倒すためって書かれてるから敵対してるのか! まあこれで狩って狩って狩りまくるぞ。そして食うんだ!)


 悠のどこかズレた決心は誰にも届かないのであった。


「精霊様、本当にありがとうございます。大切に使わせてもらいます」


 悠は白い剣をそっと鞘に収め、胸に抱きしめながら、神棚へと感謝を捧げるのだった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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