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異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第一章 辺境での身分確保と安寧への道
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第38話 精霊様の贈り物

 まぶしい朝の光が寝室の窓から差し込み、俺――悠はゆっくりと目を覚ました。

 隣を見れば、ルフ、絢乃、茉莉の三人が気持ちよさそうに寝息を立てている。その愛らしい寝顔を起こさないよう、ベッドからそっと抜け出した。軽く背伸びをして凝り固まった身体をほぐし、階段を上り、何気なく襖を開けて外へと出る――その瞬間、俺の思考は完全に停止した。


「……は?」


 思わず間抜けた声が漏れた。

 昨日までそこにあったはずの、見慣れた景色が丸ごと書き換わっているのだ。

 北東の方角を見れば、まるで「ここにお城を建ててください」と言わんばかりに、なだらかで広大な土地が美しく平らにならされて拡張されていた。さらに、その新天地に沿うようにして、深く澄んだ水を湛えた堀が、見事な曲線を描いて大地を巡っている。


(イセカイッテスゴイナ……)


 俺は乾いた笑いを浮かべながら、その劇的すぎるビフォーアフターをただ見つめることしかできなかった。


 慌てて服を着替えて外に飛び出すと、さらに驚くべき変化が俺を待っていた。

 新しくできた堀の外側は、まるでずっと前からそこにあったかのように青々とした木々が鬱蒼と茂る森で埋め尽くされている。そして、寝殿の北にあたる部分には、見上げるような巨木がそびえ立っていた。高さは十メートルどころではないだろう。天に向かって力強く枝葉を広げるその姿は、神々しさすら感じさせた。

 

 それだけではない。北東対――以前、銭湯を建てたあたりの土地がわずかに傾き、その割れ目から白い湯煙が立ち上っていた。中を覗き込んでみれば、なんと温泉が勢いよく吹き上がっているではないか。……すぐに直しておく。ケガをする可能性があるからだ。

 

 さらに、堀の内側の地面からも、井戸を掘る予定だった場所から清らかな水がとめどなく溢れ出し、池を作り、川となって流れ、最終的には堀の外へと向かって勢いよく落ちる美しい滝を形成していた。


 あまりの光景に呆然と立ち尽くしていると、背後からジークが息を切らせて走ってきた。その後ろには、村の人々も集まってきて、一様に口を開けて驚愕している。


「村長様! はあ…はあ……」

「いや、俺は何もやってないからな? 朝起きたらこうなってて……。ジーク、これって何が起きたんだ?」

 ジークが息を整えるのを待ってから尋ねると、畏敬の念を込めて北の巨木を見上げた。

「おそらく……精霊様がこの地を気に入り、住み着いてくださったのでしょう。精霊様がその地に住まうようになったとき、このように一瞬にして自然が姿を変えることがあると、聞いたことがあります」

「精霊様、か……」


 なんでだろう、何か精霊様に気にいられることでもしたのだろうか? ……精霊様にとって純粋に住み心地のいい場所を見つけただけだろう。ありがたや。

 

「ジーク、この新しい森の木は使っても大丈夫なのか?」

「はい。堀の外側の森に関しては、必要なだけ切り出して資材にして構いません。ですが……」


 ジークは表情を引き締め、北の巨木を見る。

 

「あの北の巨木だけは、絶対に切ってはなりません。あれは『精霊大木』と呼ばれるもので、まさに精霊様のご神体そのものです。『朝起きて急に木が生えていたら、その中で最も大きな木は決して切ってはならない』という絶対のルールがあるのです。もし破れば、精霊様のお怒りを買い、この土地は一瞬にして不毛の地と化すでしょう」


「ふむ。触らぬ精霊様に祟りなし、だな。分かった、絶対に従うよ」


 それなら、と俺は閃いた。

「だったら、あの精霊大木がある北対のエリアを『神社』にしようと思うんだ」


「神社ですか……良いと思います」

 ジークはすぐに納得したように頷いた。その反応に素直に驚き。聞いてみることにした。

 

「この国にも神社があるのか?」

「ええ、『神社』と呼ばれる、神仏や精霊を祀る聖域が存在します。広い敷地を持つ大神社などでは、精霊を祀る『精霊社』が同じ境内の中に同居していることも珍しくありません」


(神『仏』か、どういった存在なのだろうか、墓地を管理するのが寺なのは変わらないのかな? 時間があるときに詳しく聞いてみよう。信者を怒らせることほど怖いものはない)


 ちょうど起きてきて俺たちの会話を聞いていた茉莉と絢乃、ルフも、その提案に賛同してくれた。

 

「精霊社を併設した神社ね、素敵じゃない。あなた、せっかくだから本格的なものを作りましょう」


 茉莉がそう言って、絢乃と顔を見合わせる。

 

「うん! 設計図なら、まーちゃんと私で、いつも以上に気合を入れて描くから待っててね!」


 絢乃が嬉しそうに微笑む。二人がノリノリで設計をしてくれるなら、神社づくりは最後に回して、まずは他の場所から手を付けることにしよう。


 俺はジークに向き直った。

「そういえばジーク、この世界の神社の参拝作法ってどうなってるんだ?」


「基本的には、鳥居に入る前に一礼し、中に入ってからは中央を歩かないこと。そして、手水舎で清める。あとは拝殿で『三礼三拍手一礼』を行うのが一般的ですね」


「えっ、三拍手? ……俺の知ってる作法だと二拍手だけど、どうして三回なんだ?」


「三拍手には、『開いて、閉じて、開いて』という意味があるのです。手のひらを打ち合わせることで、俗世の穢れを払い、精霊様との境界の門を開き、対話し、最後に再び門を閉じる、そして開いて精霊様に力をもらうという簡易的な儀式作法だからですよ。二拍手では精霊様の力が文字通り閉まってしまいます」


「へえ、開いて、閉じて、開いて……か。深い意味があるんだな」

 異世界の文化の奥深さに感心しつつ、俺はその作法をしっかりと胸に刻み込んだ。


◇◇◇


 さて、いよいよ俺の『クラフトスキル』を全開放する時が来た。

 これまでは人目を気にしてコソコソと裏で使っていたが、もはや村の防衛や開発のスピードを上げるためには、出し惜しみしている場合ではない。茉莉たちとも相談し、今日からは建設現場を隠すのをやめることにしたのだ。


 まずは、新しくできた堀の外の森から、必要な分だけの木材を切り出す。

 斧で木を斬る。すると、大樹が2つに増えて倒れる。そして倒れる前に斧で斬ることで一瞬にして完璧に製材された美しい木材へと姿を変え、地面に倒れる。村人たちが驚愕の声を上げているが、もう気にしない。

 

 ……運ぶのは手伝ってもらおう。いいかい、器用になるとこれができるようになるんだ。ルフの視線が背中に刺さるが気にしない。


 続いて、寝殿造りの全容を完成させる作業に入る。城壁はまだ作らない。

 目指すのは、南西の寝殿造だけでなく、中央、北西、北東、南東の計五カ所を回廊で結んだ、壮大な「寝殿造り」だ。

 

 配置としては、南西の寝殿がルフ、北西が絢乃、南東が茉莉、北東が悠のプライベートスペース。そして中央にある最も大きな寝殿が、四人の共用スペースとなる。これは表向きだ


 設計図を見つつ、地面に刺さった杭にかかった縄を頼りに、柱を立てていくと同時にそれを支える梁を架けていく。寝殿造りは柱の間隔が均一だから同じことを繰り返していくだけだ。

 それ以降は幾重にも重なる檜皮葺の屋根、割れ目から覗く透き通るような障子、そして見事な格子戸を作っていけば、五つの寝殿が、完成された姿でそびえ立つことになる。

 

 ……いつの間に!?

 

 池に向かって渡殿を通し釣殿を池ごとに建てておいた。


「す、凄まじいな……。本当に一瞬で作り上げてしまうとは」

 ジークが冷や汗を流しながら呟く。

 

 しかし、出来上がった広大な寝殿造を見ながら、茉莉が少し呆れたようにため息をついた。

 

「……素晴らしい出来ね。さすが私の旦那様だわ。でも、冷静に考えて、当分の間、実際に使うのは南西の寝殿造りだけになりそうよ」

「え? どうして? せっかく全部作ったのに」


「管理する人数が圧倒的に足りないのよ。この広さの寝殿造りを維持し、掃除や雑務をこなすには、一カ所につき最低でも四十人の使用人が必要なの。つまり、五カ所すべてを稼働させるなら、最低でも二百人の使用人がここで働かなければならないのよ?護衛も合わせたらもっとよ」


「に、二百人……!?」

 俺は思わずのけぞった。

 

「そんな人数、俺には絶対に名前が覚えられません!」

「問題はそこではないのだけれど…まあ、だから、人が集まるまでは宝の持ち腐れね。まあ、防衛拠点としての価値はあるからいいけれど」

 茉莉の現実的なツッコミに苦笑しつつ、俺は次の作業に移る。


 次は、最後に残しておいた神社だ。

 茉莉と絢乃の二人が、いつも以上に細かい装飾まで指定した念入りな設計図を渡してくれた。

 南側に立派な朱塗りの鳥居を構え、その周囲を頑丈な塀で囲い、中に精霊大木を祀る神聖な境内を作る。

 

 完成……させちゃいました。

 朱色の鳥居、精霊大木を囲むように張り巡らされている美しい板塀、大木の緑と朱色の対比が息をのむほど美しく、そこだけ空気がピリリと引き締まったような感覚を覚える。

 風がひとなぎし、精霊大木を揺らす。心なしか喜んでいるように思えた。


 最後に、俺専用の工房の整備だ。

 これまで使っていた土器や窯を焼くための火を使う工房を、北東の寝殿のさらに北東対にあたる場所へと移動する。技術は秘匿されてしかるべきだ。それで一番奥に設置した。

 そこに、俺の亜空間倉庫にある青銅器などを作る『鍛冶台セット』をどんと配置した。


 さあ、ここからが本番だ。

 猫車から、先日堀を掘った際に深く掘りすぎて手に入れた「銅鉱石」と「錫鉱石」を取り出す。

 

 作業台に向かい、まずは銅鉱石を試しに火に入れて打ってみる。

 

 カン、カン、カン!

 

 小気味よい音を立てて光り、一瞬にして不純物が取り除かれた美しい『銅インゴット』が完成した。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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