↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第一章 辺境での身分確保と安寧への道
38/105

第37話 監視役は三人のお姫様

「さすがにいきなり王になりたいと言っても無理よ。そもそもなりたいと思ってなれるものではないわ。時代が決めてるとも言ってもいいもの」 

 

 悠が王になる予定として今後計画を進めることにしてくれた。それだけでもありがたい。


「城の設計は任せなさい。それをメインにやることはないから時間がかかるけれど、設計はそれほど難しくはないわ。問題は作る方よ。当時の日本の職人すべてを集める大工事よ。どうやって人を集めるの? その資金も必要になるわ」


 茉莉が真剣に計画を練ってくれる。どんな無茶ぶりでも実現可能な計画段階まで落とし込んでくれるのは本当にありがたい。……実現させるのかはさておいて。


「作るのは俺がやるよ。……いやごめん、当時の日本の職人をなめてるとかではなくて、これは……そうだな俺のスキルの集大成として作ってみたい。俺のスキルでどこまでできるのかを試してみたいんだ」


「……まあ、すぐに作り始めるのではないからいいのかしら。スキルも製造系なら少し器用なだけで通るものね。人を集めるためにも、寝殿造りはもう作っちゃいましょうか。そして堀の外側には亜空間倉庫にあった戦国時代の庶民の家ってやつを配置する方向で行きましょう」


 茉莉は堀の中をドレイク家の関係者のみを住ませる場所にしたいらしい。男性嫌いだから、茉莉の生活していた家には、悠しか入ったことがない。ましてや、ステータスもある。今のところ男女関係ないのだから女性だけの屋敷になるかもしれない。ジークがクビにならないことを願うばかりだ。


「任せてくれ」


「ええ。じゃあ話を戻すわよ」


 そう言って茉莉がハーブティーを飲み干す。


◇◇◇


 無くなったハーブティーとクッキーの代わりに絢乃が緑茶と柏餅を出してくれる。俺も何か料理してみたいな……。


「ありがとう! ……で何の話をしてたんだっけ?」


 緑茶をすすりながら思い出そうとするが思い出せない。


「鉄の代わりに何を使うかよ。さすがに採掘もできないのに出すことは、しないでしょう? 無尽蔵ではないのだから……ちなみにどれぐらいあるの?」


「ううん。桁が読めない。宇宙探索系のゲームもやってたしな。ええとゼロがいち、に、さん、し…」


「……たぶん、星単位であるんじゃないかな? 私と一緒に冒険したもんね」


「それなら使ってもいいんじゃないかしら……いや、ダメね、貴族が鉱脈を管理してるんだった。下手したら土地の没収や、盗掘の容疑で捕まったりするかもしれない。そういえば青銅の採掘はどうなってるのかしらね。一般にも売られてる感じなのかしら」


「青銅って何の鉱石なの?」


「悠君、銅と錫をゴネゴネしてできるやつだよ?」


 絢乃がからかいながら言ってくる。悠は何かを混ぜるとか組み合わせる、と言わずに『ゴネゴネする』と言ってしまう癖がある。そこをいじられて顔を真っ赤にする悠であった。


「うるしゃい! あー……かんだ。まあ、銅と錫なら採掘したよ。堀と地下室の場所を掘るときにちょっと深く掘りすぎた場所があってね、そこで取ったんだよ」


 そう言ってアイテムボックスにある銅鉱石と錫鉱石を出す。念のためこの世界で取ったものは、村の倉庫に入れるか、近くに放置か、アイテムボックスにしか入れていない。

 

 そのアイテムボックスに入れているのもごく一部の気になったものだけだ。よって堀の外にまとめて置かれている土の中にも石や砂利に混ざって、銅鉱石と錫鉱石が大量にある。


「その報告を……まあいいわ、なら粘土採掘場を掘り進めていけばすぐに採掘できるようになりそうね。……一応ジークに聞いておきましょう。それで問題なければ道具は青銅にしてすべて自分たちで作りましょう。技術はいくらでも出し惜しみしなくていいからね。あなた」


 後日になるが、銅と錫の採掘許可は必要ないというのをジークに教えてもらう。


「ああ、手押し車は青銅製にするし、ジークたちの鉄製防具も、同じく青銅製にするのを忘れずにやっておくよ」


 茉莉は表情を少し和らげ、緑茶を一口含んでからここからが本題だと言わんばかりに気を引き締める。


「問題なのは、悠の暴走そのものよりも、私たちの間での『情報伝達のスピード』よ。今はまだ村の規模が小さくて、全員が物理的に近い距離にいるからギリギリどうにかなっているけれど……。今後の発展を考えると、連絡インフラをどうにかしないといけないわね」


 茉莉の言葉に、悠も真剣な表情を取り戻して頷いた。

 村が広くなり、開拓地や防衛線の距離が伸びていけば、「何かあったから走って伝えに行く」という方法では絶対に間に合わなくなる。緊急時の対応や、日々の細かな進捗報告をスムーズに行うシステムが必要なのは間違いなかった。


「連絡インフラか……。『通話』スキルとかはあるけど一方的だしな。あるいは、定番の伝書鳩とか?」


 悠が思いついたアイデアを口にすると、茉莉は即座に首を横に振った。


「却下よ。まずスキルに関してだけれど、ただでさえ私達の持つ『鑑定』スキルですら、ジークから国家機密レベルだと大騒ぎされたのを忘れたの? これ以上、製造系などといった器用でごまかせないスキルを表立って使うのはリスクが高すぎるわ。誰に見られているか分からないもの」


「あ……確かにそうだな。ジークのあの慌てようを考えると、頭の中で話せるなんて知られたら…」


「そうよ。頭を開いて調べられるかもね。それに伝書鳩にしても、この世界の動物はそもそも脅威よ」


「う、うーん。動物を使うのも、やっぱりこの世界じゃ危険か……」


 地球の常識が通用しないファンタジー世界の厳しさに、頭を抱える。よく考えれば地球が平和になったのも最近なのだ。


 悠がそう答えると、茉莉は満足そうに頷いた。


「ところで、あなた。今日、村人たちの様子を見ていて何か気づいたことはない?」

 茉莉の唐突な問いに、悠は首を傾げた。


「気づいたこと? うーん、みんなすごく元気に働いてくれてるな、とは思ったけど……」

「それだけじゃないわ。あなたの鑑定スキルで、彼らのステータスをもう一度確認してみて」


 言われるがままに、悠は村人たちのステータス画面を見る。

 悠は、昼間に訓練を開始する前にメモ帳に書き留めた数値を思い出す。あの時の一般の村人たちの数値は一律で、レベル1、すべての項目が「オール4」、HP「13」だった。


 しかし、今目の前に表示された数値は――。


「あれ……? おかしいな」


 悠は目を瞬かせた。


「みんなのステータス、基本値が『4』から『5』に上がってる……? HPも『15』に増えてるぞ。え、全員が一律で?」


 彼らは兵士としての訓練を積んでいるわけでもなく、ただ日中に軽い基礎トレーニングを始めたばかりなのだ。


「ええ。私も夕方に確認して驚いたわ。いくらこの世界の人間が筋トレでステータスが変わる可能性があるとはいえ、個人の資質も無視して全員が同時に、これほどの短期間で上がるなんて不自然極まりないわ。何か特別な原因があるはずよ。悠、心当たりは?」


「心当たりって言われても……。あ、でも、毎日欠かさずやっていることと言えば……」


 悠の視線が、自然と絢乃へと向いた。

 綾乃は自分の胸元に手を当て、不思議そうに首を傾げている。


「私の……料理?」

「そうだ、それしか考えられない! あやちゃんのユニークスキル……『ニグ・シュブニト』の効果じゃないか?」


 絢乃が持つスキルや能力には、豊穣や育成に関する強力な補正が存在する。彼女が作った料理には、食べた者の身体を活性化させ、潜在能力を引き出すバフ効果があるのだろうと仮定する。


「そういうことね……」


 茉莉が納得したように小さく息を吐いた。


「絢乃の料理を毎日三食、しっかりと食べさせているから、村人たちのステータスが知らず知らずのうちに底上げされていたのね。ただの食事で全体のスペックが底上げされるなんて、よそがが知れば戦争が起きるレベルのスキルよ」


「ええっ、そ、そんな大げさな……。私はただ、みんなにお腹いっぱい美味しいものを食べて、元気になってほしいと思って作っているだけなのに……」


 絢乃は頬を少し赤らめ、はにかむように微笑んだ。その無自覚な規格外ぶりに、悠は苦笑するしかない。


「でも、これは素晴らしいことだわ。防衛力や作業効率の観点からも、村人たちのステータス上昇は願ってもないことよ。アレスたちの訓練の成果も出やすくなるはずだし。絢乃、引き続き彼らへの食事の提供をお願いできるかしら? もちろん、無理のない範囲でいいけれど」


「ええ、喜んで! 私の料理でみんなが強く健康になれるなら、いくらでも腕を振るうわ」

「私も参加させていただきます」

「ありがとう、ルフちゃん。助かるわ」


 絢乃がルフの頭を優しく撫でると、ルフは嬉しそうに目を細めた。


「食事の件はこれで解決ね。……で、話を戻すけれど、悠」


 茉莉の視線が、再び悠を捉えた。今度は少し意地の悪い、しかし楽しげな笑みが浮かんでいる。


「これからの村開発において、貴方の単独行動は一切禁止します」

「ええっ!? ダメなの?」


「当然よ。目を離した隙に何をし始めるか分かったものではないわ。というわけで、今後は絢乃、ルフ、そして私の三人が交代で、常に貴方の隣に張り付くことにします。いいわね?」


「次は止めさせていただきます。せめて伝令が戻るまでは何もさせません」


 ルフが悠の腕をさらに強く抱きしめてきた。柔らかい羽毛のような翼が悠の背中に回り込む。


「ふふ、私も悠君とずっと一緒にいられるなら大歓迎よ。しっかり監視しちゃうんだから」


 絢乃もクスリと笑いながら、悠の反対側の腕にそっと寄り添ってきた。両手に花とはこのことを言うのだろう。

 

(……先生! ここに天使が三人います!)


「あ、あの、茉莉さん? これじゃ作業の効率が逆に下がるというか、心臓が持たないというか……」

「あら、贅沢な悩みね。それだけの役得があるのだから、私の監視の目もしっかり受け入れなさい。……ふふ」


 茉莉はいたずらっぽく微笑み、手元の書類に目を落とした。


「ところで、絢乃。男爵様の視察まではあと何日だったかしら?」

「あと五日だよ、まーちゃん」

「あと五日か……」


 悠は少し考え込むように天井を見上げた。


「男爵様が来るとなると、城壁を先に作っちゃおうか。辺境の村だし、急に動物が襲ってきても対処できるようにしておきたいから、堀との二段構えにしよう」


「そうね。安全はすべての基本だもの。しっかりした柵や見張り台があれば、村人たちの士気にも関わるわ。設計はできてるから明日にでも建築を始めましょう。それと地下空間に穴をあけた部分がいくつかあったでしょう?そこに井戸を掘るつもりだからそのつもりで、汲む水は堀にある水よ」


 茉莉が現実的な視点から同意を示す。


「あとは……近所挨拶、いや近隣の村への挨拶がまだだったな。明日以降、ちょっと様子を見に行ってもいいですか?」

「挨拶? どうして今、他の村へ行く必要があるの?」


 茉莉が眉をひそめて悠を見つめる。


「実際の周囲の村の様子をこの目で見ておきたいんだよ。買取とか必要だろ? 今は収穫物とかないから、交換してもらって加工品にするのもいいんじゃないかなって思って」


「そうね、それは一理あるわね。私たちの村がどれほどになっているか、それに加工品……定期的に村々を回る行商人を割り振るのも手かしら。まあいいわ、挨拶回りは認めましょう。ただし――」


「絶対に一人では行かないこと、誰かを必ず同行させること、だよね?」

「分かっているならよろしい」


 悠は苦笑しながら、両腕の温もりを感じつつ、緑茶を飲み干した。


 ――彼らはまだ、自分たちの築きつつある村の防衛設備や、料理によるステータス上昇効果が、この世界の一般的な『村』の基準をはるかに逸脱した「規格外」のものであることに、全く気づいていなかった。


◇◇◇


 妻たちにそれぞれ愛してると言い。その返答をもらってお休みのあいさつをした後。

いつものように神棚に向かって、手を合わせて祈る。


(御霊様方、上神様方いつもお見守りくださりありがとうございます。悠=ドレイクです。少しでも幸せな人が増えますように……お休みなさい)


と願う。そしていつものように眠りにつくのであった。


◇◇◇


『あはは、面白い人間だね』


『ううん。人神だって。何だろうね』


『教えてくれてありがとうね』


『どういたしまして』


『お祈りありがとう。これはお礼』


『じゃあ私も』


『ずるい!私もー』


『私もー』


それは悠が祈りをしている周りで起こっていた現象だ。そして悠はそれに気づいていない。見えていない。そんな謎の存在。

最後までお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。