第28話 秘密基地での日常
村人たちが静まり返り、夜が深く更けた頃。
悠、絢乃、茉莉、ルフの四人は、地下にある秘密の豪邸へと移動していた。
地下の書庫には、悠が亜空間倉庫から取り出した本が棚いっぱいに整然と並べられていた。
茉莉はその中から『魔導具制作』に関する本を何冊か手にとり、真剣な眼差しでページをめくっていた。
「……残念ながら、魔術や聖術の具体的な呪文に関する本はなかったわね。亜空間倉庫にあった書物は、魔導具やアイテムの制作方法に関する本ばかりだわ」
「この世界で、その本に書いてあるアイテムって再現できるのか?」
悠が尋ねると、茉莉は電力系の制作ページを指差し、頼もしく微笑んだ。
「ええ。この電力系の記述を見る限り、たぶん可能だと思うわ。ただ、素材となる鉱石や魔鉱石の特性は、自分たちで調べる必要があるわね。『鑑定』スキルを使ってみたけれど、その辺に落ちている普通の石ころを調べても、制作の参考になるような詳細情報は手に入らなかったもの」
「そうか……。あ、そうそう、ここまで来てはっきり分かったんだけどさ」
悠は腕を組み、三人の妻たちを見つめた。
「俺のこの『亜空間倉庫』やステータス……どうやら俺が地球で今までプレイしてきた『あらゆるゲームのアイテムや能力』が、全部合算されて持ち込まれてるっぽいんだよね。レベルも全ゲームの合算だから、あんな規格外な力が出せるんだと思う」
「やっぱりそうなんだ。悠君、いろんなゲームやってたもんね」と綾乃がクスリと笑う。
地下室の心地よい空気の中、それぞれが自由なくつろぎの時間を過ごし始めた。
リビングの大きなテーブルでは、絢乃と茉莉がノートを広げ、何やら熱心に話し合っている。
耳を澄ませてみると、どうやら現在の「大麦・油・亜麻布」による物品交換の段階から、将来的に「金貨・銀貨・銅貨」といった明確な貨幣制度をドレイク村、ひいては辺境全体に導入していくための経済計画を練っているようだった。
地球時代、公認会計士の資格を持ち、自ら会社を経営していた綾乃の分析は極めて鋭く、的確だった。社員から絶大な信頼を寄せられていた彼女の手腕が、異世界の村づくりで存分に発揮されている。
そしてその隣で、茉莉は驚くべき頭脳の回転を見せていた。
口と耳は綾乃との高度な経済談義に傾けつつ、目と両手は魔導具の専門書を読み進め、ノートに複雑な回路図をメモしているのだ。二つの全く異なる思考を完璧に並行処理する彼女の秀才ぶりに、悠は改めて感心させられた。
一方、キッチンのスペースでは、ルフが料理本を片手に一生懸命クッキー生地をコネコネと丸めていた。
本当はケーキを作ろうとしたらしいのだが、レシピの難易度が高すぎたため、まずはクッキーから挑戦することにしたらしい。……クッキーが簡単なのかはさておき、真剣な眼差しでオーブンの火加減を見つめるルフの姿は、実に微笑ましかった。
悠は地下の大浴場にもう一度入り、本日の汗と疲れをさっぱりと洗い流してきた。
風呂上がりに冷えた『純米大吟醸』の日本酒をグラスに注ぎ、ちびりと口に含みながら、一人静かに今後の計画に思いを馳せる。
(人族……聖法……。まずは明日、人族とは何なのかをジークやマリアンに詳しく聞いてみるか。それと……)
悠はふと思いつき、リビングで作業する三人に声をかけた。
「ねえ、みんな。村がもう少し落ち着いたらさ……『神社』を作りたいんだよね」
その言葉に、三人がそれぞれの表情で振り返った。
「神社? いいんじゃないかな、日本の風情があって素敵だと思う。村の鎮守様として祀れば、みんなの心の拠り所にもなるだろうし」と絢乃が賛同する。
「ええ、鳥居や社殿なら悠の建築スキルですぐに作れそうだし、面白い試みだと思うわ」と茉莉も微笑む。
「神社……! 日本の神様のおうちですね! 私、お掃除や綺麗なお供え物を作るのお手伝いします!」とルフがクッキー生地を丸めた手で指をたてる。
「みんな、ありがとう。楽しみにしててくれよな」
悠は日本酒を飲み干すと、グラスを置いて立ち上がった。
「ふぁあ……それじゃあ、今日は疲れたし、ゆっくり寝るとしようかな。三人とも……お休み、愛してる」
悠が笑顔で言うと、三人の妻たちは頬を少し赤らめながら、優しく微笑み返してくれた。
「ええ、おやすみなさい、悠。愛してるわ」
「愛してるわ、貴方。おやすみなさい、悠君。明日も忙しくなるわよ。」
「おやすみなさいませ、悠様! 愛しております!」
温かな愛の言葉を胸に、悠は寝室へと向かった。
寝室の北側の壁には、悠が以前作っておいた小さな『神棚』がひっそりと祀られている。
悠はその前で静かに手を合わせ、心を込めて呟いた。
(御霊様方、上神様方いつもお見守りくださりありがとうございます。悠=ドレイクです。少しでも幸せな人が増えますように……お休みなさい)
静寂に包まれた温かなベッドに潜り込むと、悠は深い安らぎの中で、穏やかな眠りにつくのだった。
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