↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でも楽しんで生きていこう  作者: 弥人(ヤアド)
第一章 辺境での身分確保と安寧への道
2/108

第1話 異世界に落とされた男は、森の中でも寝ていたい

初めまして。

弥人(ヤアド)と申します。

ほんの少しでも読んで、楽しんでもらえたらうれしいです。

ロン毛って髪洗うのマジ大変だよね。

 講師の声は、世界一眠れる音楽だと思う。


 抑揚のない一本調子のトーン。内容が入ってくる気配が一ミリもないホワイトボードに書かれてる文字。エアコンが送ってくる、ちょうど眠気を呼ぶ温度の風。


 これで眠るなというのは、無理な話だ。


「――次の昼休み、なに食べよ」


 専門学校の教室、窓際から二番目の席。九条 悠(くじょう ゆう)は頬杖をついたまま、脳内で昼飯を何にしようか考えていた。


 戦国系のゲームにドハマりした結果、周囲の目も気にせず茶筅髷(ちゃせんまげ)に結った頭が、緩やかに傾いていく。


 から揚げ定食か、それとも牛丼か。昨日はから揚げを食べていたから今日は牛丼かな。いや、でも今日は肌寒いし、あそこの駅の構内にある、立ち食いうどんがしみる季節になってきた──。


 そこまで考えたとき。


 ガガガガガガガ、と。


 世界が、揺れた。


 天井が白く光ったと思ったら、コンクリートの断片が雨のように降ってくる。誰かの悲鳴。椅子が倒れる音。視界が粉塵で白く埋まって──。


「……あー、これマジのやつだ」


 妙に冷静な自分の声を、最後に聞いた気がする。


 意識が、途切れた。


◇◇◇


『目覚めましたか?』


 ……寝てない寝てない。起きてる。でも。


「……あと五分だけ」


 眩しい。


 目の前に、よく分からない発光体が浮いている。神々しいというより、高出力の照明を至近距離で直視させられているような、物理的な眩しさだ。まぶしすぎて目が痛い。細目で周りを見るがあたり一面が白い。寝転べるベッドもない。


『時間がないので手短に説明します。あなたは死にました』


「……はい」


『このまま天国か地獄に送るのが本来の流れなのですが、処理の混雑が著しいため、代替措置として異世界への転移をお願いします』


「……はい」


『拒否権はありません』


「……はい」


 返事をしながら、頭の端っこで考える。

 

 死んだ、らしい。

 

 天井が落ちてきたやつだろうか。

 

 こっちは専門学校の課題だの、就活だの、バイトがまた落ちただの、理不尽な事に縛られ続けて疲れていたところなのに、せめて死んだ後くらい静かに休ませてほしかったが……。

 

 まあ、もう起きてしまったしな。


『あなたはどのような能力、もしくはチートを望みますか?』


 うーん。まあ、くれるんなら──ゲームの能力とかかな。


 レベル的な概念の世界なのかな? 

 

 それなら、隠居に特化したスキルかな? 

 

 それとも目立たずに裏から牛耳るための……あれだあれ、全然出てこないな。

 

 もしくは全方位でぐっすり眠れるスキルとか……何言ってるんだろ。

 

 まだ脳は寝てるっぽい。

 

 ──せっかくだしじっくり選びたいな。


『確認しました。あなたには【ゲームの能力】を授けます』


「まだなんも言ってない!! もうちょっと考えさせてくれませんか!?」


 思わずツッコミが飛び出た。


 早い。処理が早すぎる。「処理が混雑している」と言っていたくせに──処理が混雑してるからか! 完全に忘れてた!


「せっかくのチートが!」


『それでは、ご武運を』


「いやちょっと待っ──」


 浮遊感が襲ってくる。


 それと共に視界が黒く染まっていくのだった。


「──t……」


◇◇◇


 次に気がついたとき、あたりは一面の緑だった。


 木漏れ日が肌に刺さり、土と草が混ざったどこか甘い匂いが鼻をくすぐる。遠くで正体不明の何かの声が耳に届く。


「……で、ここどこ?」


 俺はパチパチと目を瞬いた。


 顎に手を当て、首をひねって考える。さっきまで専門学校の講義を聞いていたような、天井が落ちてきたような気もするが……。


「んん……思い出せないし、どうせ授業中に寝落ちして、変な夢を見てるんだろ」


 思い出せないことは、いつまで考えても思い出せない。それが俺の経験則だ。


「さっさと先生起こしてくれないかね」


 そう言いながら、その場にごろりと横たわった。


 草が背中に当たる。木の隙間からは青い空が覗いている。まぶしいので木に近づき、木陰に入る。


 ……しかし、いつまで経っても目覚める気配のない夢。


「一度起きたらしばらく眠れないとこまで再現してるやつか……めんどいな」


 あーだるい。何しよう。こんなリアルな夢は経験がない。例の明晰夢というやつか。


「異世界に来てる夢だったらいいな……せっかくだし少し遊びますか。夢なら何でもできるって聞くし」


 そうは言っても、ただの鬱蒼とした森だが。方向音痴の俺が下手に歩き回れば、元に戻ってこれないだろう。


「……ま、夢だし。迷っても死にゃしないか」


「こういうときの定番──ステータス!」


 しかし、何も起きない。静寂の森に、俺の間抜けな声が響いただけだった。


「ステータスオープン?」


 言い方を変えてみる。3度やっても無理なら諦める。そういう夢ではないかもしれないからだ。


 すると──ウィンドウが、開いた。


 目の前の空間に、黒い半透明の画面がふわりと浮かび上がる。


「おお……夢にしてはクオリティが高いな」


 画面を覗き込むと、文字が羅列されていた。


---


(……ステータス統合中……)


『ステータス』

【名前】 悠=九条

【人種】 人族

【性別】 男

【年齢】 20

【称号】 異世界転移者

【レベル】 1

【HP】500/500

【MP】500/500

【RP】500/500


【物理特性】

【筋力】50 

【耐久】50 

【俊敏】50


【特殊特性】

【精神】50 

【抵抗】50 

【感応】50


【生産特性】

【加工】50 

【安定】50 

【解析】50


【運】100


【エクストラスキル】異世界言語翻訳 オートマップ ステータス偽装

【スキル】剣術Lv5 敵感知Lv1 アイテムボックスLv1 鑑定Lv5


【魔法】生活魔法


---


「おお! なんか良いのか悪いのかよくわからんけど面白いな!」


 HPとかMPとか色々ある。RPってなんだ? スタミナかな? ラップタイム的な…それはRTだな。


「アイテムボックスになにか入ってないかな」


 ステータスの隣には、パソコンの別のタブのようにアイテムボックスというタブがあるので、そこをタップしてみる。

 

 するとそこには、『異世界初心者セット』と書かれたアイテムが表示されていた。

 

 さらにタップしてみると、目の前の空間が開く。

 

 そこに恐る恐る手を入れて、中にあるのを取り出すと、リュックが出てきた。

 

 ……手順多くない?


 開けてみると、中には剣、服、ナイフ、パン、水の入った革袋、それと怪しげな緑色の液体が入った瓶が一本。

 

 見た目は「ザ・冒険者!」なラインナップだ。


 試しに支給の「ザ・冒険者」な見た目の服を着てみると。


「……ごわごわ」


 肌触りが悪い。落ち着かない。即行で脱ぐことにする。


「やっぱこれが一番落ち着く」


 元の黒パーカーと黒スウェットに着替えた。念のため言っておくが、これは寝巻じゃない。私服だ。


「まずは水を探すか……まあ後でいっか」


 どうせ夢の中だし、喉が渇いて死ぬこともあるまい。


 そろそろ、もうひと眠りして現実に戻るか──


 そう思った瞬間だった。


『ステータスの統合が完了しました。再起動します』


 脳内に直接響き渡るような、機械的な声。


 と同時に、ステータスの数字が──狂いはじめた。


 「1」だったレベルが、凄まじい速度で跳ね上がっていく。「50」だったステータスが、二桁、三桁、四桁、五桁へと増えていく。スキル欄に、ものすごいスピードで文字列が次々と書き加えられていく。


(……なんだ、これ)


 思考が追いつかない。


 そして──押しつぶされるような睡魔が、ドロリと脳を侵食してきた。


「……なんの……声……とりあえず……ふぁぁ……もう少し……寝よ……」


 抗えることのできない睡魔が襲ってきて、意識がフツリと途切れる。


 深い、深い闇の底へ落ちていく直前──


 どこか遠くから。微かに。


 聞き覚えのある声が、聞こえた気がした。


 答えが出るより先に、俺の意識は完全に落ちた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

カクヨムでも投稿しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。