第10話 初めての大舞台
「なぁアリサ」
「はい?」
「俺らも配信するらしいぞ」
Kuroの一言に月城アリサは固まった。
場所はBLUE HAWK本部。今日は韓国アカデミーチームとの公開スクリム当日だ。競技部門は試合を行うが、ストリーマー部門にも別の役割が用意されていた。
ミラー配信。
試合映像を見ながらリアクションや感想、簡単な解説を行う配信形式だ。
「む、無理です……」
アリサは即答した。
「何がや」
「人が来ます」
「来るな」
「来ます!」
今までの経験で分かっていた。BLUE HAWK初の公開スクリムは競技シーン全体が注目している。当然、ストリーマー部門にも視聴者は流れてくる。
「緊張する……」
アリサは頭を抱えた。
一方でKuroは平然としている。
「まあ何とかなるやろ」
「ならないです」
「なるなる」
「なりません」
二人の温度差は相変わらずだった。
午後一時。
公開スクリムが始まる。
同時にアリサとKuroのミラー配信もスタートした。
配信開始直後、アリサは画面を見て固まる。
「えっ」
数秒後。
「えっ」
さらにもう一度確認する。
「えっ」
同時接続。
四千人。
「壊れてません?」
第一声がそれだった。
コメント欄が一気に流れる。
『壊れてない』『本当だぞ』『新人かわいい』『緊張してる』『頑張れ』『初見です』
普段は十人前後。
今日は四千人。
緊張しない方がおかしい。
「こ、こんばんは……」
声が少し震えていた。
だがコメント欄は予想以上に優しかった。
『落ち着け』『大丈夫』『ゆっくりでいい』『応援してる』
その言葉を見て少しだけ肩の力が抜ける。
一方のKuroは全く違う空気だった。
「どうも」
開始一分。
同時接続七千人。
『増えてて草』『BLUE HAWK効果やば』『問題児見に来た』『何か言え』
コメントを見たKuroが笑う。
「問題児って何やねん」
『否定できる?』
「できん」
『草』『正直でよろしい』
開幕からいつも通りだった。
だからこそ視聴者も安心していた。
そして試合が始まる。
最初の集団戦。
大牙が前線を破壊する。
蓮が仕留める。
響が追撃する。
一瞬で韓国側の陣形が崩壊した。
Kuroは思わず吹き出す。
「強すぎるやろ」
コメント欄も大騒ぎだった。
『何だ今』『化け物』『Reiやば』『TIGA怖い』『KINGうるさそう』
アリサの配信も盛り上がっていた。
「ひなたさん凄い!」
「今の判断凄くないですか!?」
試合が始まると自然と言葉が出てくる。
好きなことだからだ。
ゲームの話になると緊張を忘れる。
コメント欄もそれに気付いていた。
『急に喋る』『ゲームになると元気で草』『分かりやすい』『解説上手いな』
試合は続く。
五試合目。
六試合目。
七試合目。
視聴者たちは驚き始めていた。
まだ終わらない。
普通ならとっくに終了している時間だ。
「十試合やるの頭おかしいやろ」
Kuroが呆れたように言う。
『それはそう』『選手死ぬぞ』『ミンジュン鬼や』『世界王者怖い』
コメント欄が笑いに包まれる。
後半になるとEDGEこと蒼真が出場した。
最初はミスも目立つ。
だが試合を重ねるごとに変わっていく。
アリサはその変化を見逃さなかった。
「成長してる……」
思わず呟く。
「さっき出来なかったことが出来てる」
コメント欄も反応する。
『分かる』『良くなってる』『成長早い』『努力型だな』『応援したくなる』
そして迎えた十試合目。
全員が疲れている。
それでも誰も手を抜かない。
勝つために戦い続ける。
その姿にコメント欄も熱を帯びていった。
『頑張れ』『勝て』『いけ』『あと少し』
試合終了。
六時間を超える長丁場だった。
それでも最後まで見届けた視聴者は多かった。
配信終了後。
アリサは画面を見つめたまま動けなかった。
同時接続最高記録。
一万二千人。
今まで見たこともない数字だった。
「夢みたい……」
小さく呟く。
三年間続けてきた中で、一度も見たことのない景色だった。
Kuroも配信を終えて椅子へもたれかかる。
こちらは一万八千人。
過去最高記録だった。
だが嬉しかったのは数字だけではない。
「面白かったな」
自然とそんな言葉が漏れる。
チームが面白い。
選手が面白い。
見ている人たちも面白い。
だからもっと大きくなれる気がした。
その夜。
SKYLINEではRei、TIGA、KINGだけではなく、月城アリサとKuroの名前も少しずつ話題になり始めていた。
競技シーンの中心で羽ばたき始めた蒼き鷹は、今度は配信の世界でも存在感を広げていく。
BLUE HAWKの物語は、まだ始まったばかりだった。




