第6話 才能を見る目
BLUE HAWK本部。
ストリーマー部門オーディション最終選考の日。
会議室には佐藤誠司、朝比奈美月、Shinの三人が集まっていた。机の上には大量の資料が並び、数千人から始まった応募者もついに最後の数名まで絞られている。
「正直レベル高かったですね」
美月が資料をめくりながら言う。
「思ったよりな」
誠司も頷いた。
最初はチームの知名度を広げるために始めた企画だった。だが蓋を開けてみれば予想以上だった。配信者を目指していた人間、夢を諦めきれなかった人間、プロを目指していた人間。様々な人材が全国から集まってきた。
「最後はこの二人ですね」
Shinが二枚の資料を前へ並べる。
月城アリサ。
Kuro。
対照的な二人だった。
一人はコツコツ積み上げてきた努力型。
一人は圧倒的なトークセンスを持つ天才型。
性格も経歴も何もかも違う。
だが共通点が一つだけあった。
「配信が好きなんですよね」
Shinが言う。
誠司は静かに頷いた。
数字は後から伸ばせる。
環境も用意できる。
だが好きという気持ちだけは作れない。
だからこそ見ていた。
上手いかどうかではなく、続けられる人間かどうかを。
「呼ぼうか」
誠司の一言で最終面談が始まった。
最初に会議室へ入ってきたのは月城アリサだった。
「し、失礼します」
緊張しているのは誰の目にも分かった。椅子へ座る動作もどこかぎこちない。
「そんなに緊張しなくていい」
誠司が笑う。
「は、はい」
返事にも少し硬さが残っていた。
Shinは少し懐かしい気持ちになる。
昔の自分もこんな感じだった。
「三年間配信してるんだよな」
「はい」
「辞めようと思ったことは?」
アリサは少し考え込む。
そして正直に答えた。
「何回もあります」
会議室が静かになる。
「数字が伸びない時もありました」
「周りが成功していくのを見るのも辛かったです」
「でも辞められませんでした」
誠司が聞く。
「どうして?」
アリサは少しだけ笑った。
「好きだからです」
即答だった。
「リスナーさんと話すのが好きなんです」
「配信するのが好きなんです」
「だから続けました」
飾らない言葉だった。
だが嘘はなかった。
Shinは小さく頷く。
三年間続けるのは簡単じゃない。
好きじゃなければ無理だ。
面談が終わり、アリサが退出した後も会議室には少し温かい空気が残っていた。
数十分後。
次の面談者が入ってくる。
Kuroだった。
「どうも」
自然な口調で椅子へ座る。
緊張している様子はほとんどない。
むしろ少し余裕すらあった。
美月が思わず苦笑する。
予想通りだった。
「面談慣れてる?」
誠司が聞く。
「落ちる方で何回も」
即答だった。
会議室に笑いが起きる。
「事務所は?」
「全部落ちました」
「理由は?」
「口が悪いからです」
また即答だった。
今度はShinが吹き出す。
自覚はあるらしい。
「直そうと思わないのか?」
誠司が聞く。
Kuroは少し考えてから首を横に振った。
「無理ですね」
「何でだ」
「それやると俺じゃなくなるんで」
その答えに会議室が静まる。
予想外だった。
だが理解もできた。
それは配信者としての意地だった。
「配信好きか?」
誠司が聞く。
すると初めてKuroの表情が変わる。
「好きですよ」
即答だった。
「だから四年も続けてます」
「好きじゃなきゃ無理です」
その言葉だけは一切迷いがなかった。
アリサとは正反対。
だが根っこは同じだった。
配信が好き。
だから続けてきた。
面談が終わり、Kuroも会議室を後にする。
扉が閉まると静寂が戻った。
最初に口を開いたのはShinだった。
「どうします?」
答えはほとんど決まっていた。
誠司は二人の資料を見比べる。
月城アリサ。
Kuro。
どちらも完璧ではない。
だが可能性がある。
伸びる未来が見える。
そして何より面白い。
誠司は小さく笑った。
「二人とも採用だな」
その一言で決まった。
美月も頷く。
Shinも笑う。
BLUE HAWKストリーマー部門。
最初の二人。
その誕生が決まった瞬間だった。
そして翌日。
月城アリサとKuroの元へ、一通の連絡が届くことになる。




