第7話 努力は裏切らない
夕方。月城アリサは落ち着かなかった。ゲームを起動しても集中できず、動画を見ても内容が頭に入ってこない。気付けば何度もスマホを確認している。最終面談から二日。今日は結果発表の日だった。
「まだかな……」
待ったところで時間は早く進まない。そんなことは分かっている。それでも待ってしまう。三年間、何度も挑戦してきた。何度も落ちてきた。だから期待しないようにしていた。期待して傷付くのが怖かったからだ。
その時、スマホが震えた。
通知。
メール。
送信元を見た瞬間、アリサの動きが止まる。
BLUE HAWK運営事務局。
心臓が大きく跳ねた。震える指でメールを開く。一行ずつ文章を追い、何度も読み返す。そして次の瞬間、目から涙が溢れた。
――合格通知。
そこに書かれていたのはたったそれだけだった。
「受かった……」
声が震える。涙が止まらない。何度も落ちた。何度も諦めそうになった。数字が伸びなくて悩んだ。才能がないのかもしれないと思った。それでも続けた。誰も見ていない日も、結果が出ない日も、辞めたいと思った日も配信だけは続けてきた。
だから今だけは思えた。
努力は無駄じゃなかった。
苦しかった日々も。
報われないと思った時間も。
全部繋がっていた。
「良かった……」
涙を拭いながら笑う。人生で一番嬉しい日だった。
同じ頃、大阪。
Kuroはスマホを見ながら小さく声を漏らした。
「おっ」
BLUE HAWKからのメール。結果だとすぐに分かった。特に慌てることもなくメールを開く。内容を読み終えると少しだけ眉を上げた。
――合格通知。
確かにそう書かれている。
「へぇ……」
反応は薄かった。だが口元は少しだけ上がっていた。
椅子へ深くもたれかかる。正直、落ちると思っていた。問題児。炎上経験あり。企業所属経験なし。普通なら選ばれない側の人間だ。だからこそ少し驚いていた。
その時、友人からメッセージが届く。
『どうやった?』
Kuroは短く返した。
『受かった』
送信から数秒後、今度は電話が鳴る。
「マジかお前!」
開口一番の大声に思わず顔をしかめた。
「うるさい」
「いや受かると思わんやん!」
「俺も思わんかった」
それは本音だった。だが一つだけ分かることがある。
BLUE HAWKは面白い。
普通のチームなら自分を選ばない。だが選んだ。だから少しだけ期待したくなった。
「面白くなりそうやな」
自然とそんな言葉が漏れる。
翌日。
BLUE HAWK本部。
誠司は二人の資料を見ていた。
月城アリサ。
Kuro。
まだ何者でもない二人。だがこれから変わる。環境が変わる。見られる人数が変わる。人生が変わる。
だからこそ必要なものがあった。
「覚悟ですね」
美月が言う。
誠司は静かに頷いた。
「期待されるって大変だからな」
今までとは違う。個人で活動するわけではない。BLUE HAWKの名前を背負う。応援も増える。批判も増える。注目も増える。だから覚悟が必要だった。
その日の夜、アリサとKuroの元へ再びメールが届く。今後のスケジュール、顔合わせの日程、活動開始までの流れ。そして最後に、一行だけ文章が添えられていた。
――期待しています。
短い言葉だった。だが重かった。
アリサは画面を見つめる。
Kuroも同じだった。
期待される。
信じてもらえる。
選んでもらえた。
だから応えたい。
応えなければならない。
二人はまだ知らない。この先、何万人もの人に見られることを。何十万人ものファンができることを。そしてBLUE HAWKを代表する存在になっていくことを。
だが一つだけ分かっていた。
努力は裏切らなかった。
なら次は。
期待に応える番だった。




