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ゲームは下手だけど、世界一のチームを作りたい!!  作者: 龍崎
第1章 世界一のチームを作ろう

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第5話 世界一のチームを作る

SEIZE NEXT本社は都内有数のビジネス街に建つ高層ビルだった。


ガラス張りの外観は遠目から見ても圧倒的な存在感があり、平日の昼間にも関わらず多くのビジネスマンが出入りしている。ニュースや経済誌で何度も見た企業ロゴを見上げながら、Shinは改めて自分がとんでもない場所へ来てしまったことを実感していた。


昨夜までは半信半疑だった。


突然届いた上場企業社長からのメール。


普通なら詐欺を疑う。


実際、最初はそう思った。


だが会社を調べ、送信元を確認し、朝比奈との電話で話を聞いた今となっては疑いようがない。


全て本物だった。


だからこそ緊張する。


配信なら何万人が相手でも平気だ。イベント出演も企業案件も経験してきた。それでも今日ばかりは勝手が違う。


相手は大企業の創業社長。


自分とは住む世界が違うと思っていた人間だ。


受付を済ませた後もどこか落ち着かず、ロビーを見回してしまう。洗練された内装、忙しそうに行き交う社員たち、壁面に掲げられた企業理念。その全てが、この会社が本物であることを嫌でも実感させた。


「こちらへどうぞ」


案内役の社員に促され、Shinはエレベーターへ乗り込む。上階へ向かう間も落ち着かず、無意識にスマートフォンを握り直していた。


やがて案内された会議室の前で足が止まる。


軽く深呼吸。


そして扉が開いた。


室内には二人の男女が座っていた。


昨夜電話で話した朝比奈美月。


そして、その隣にいるのが佐藤誠司だった。


SEIZE NEXT創業者。


上場企業の代表取締役社長。


経済誌では何度も見たことがある名前だ。


誠司はShinに気付くと立ち上がり、穏やかな笑みを浮かべた。


「初めまして。佐藤誠司です」


「Shinです」


握手を交わした瞬間、Shinは少し意外に思った。


もっと近寄り難い人物を想像していたからだ。


圧倒的なカリスマ。


成功者特有の威圧感。


そういうものを勝手に想像していた。


だが実際の誠司は違う。


もちろん只者ではない雰囲気はある。だが相手を押さえつけるような圧迫感はなく、不思議と話しやすい空気を持っていた。


「座ってくれ」


「失礼します」


席へ着くと短い沈黙が流れる。


その沈黙を破ったのは誠司だった。


「まず最初に言っておく」


「はい」


「俺はゲームに詳しくない」


Shinは一瞬理解できなかった。


「……はい?」

「FPSもほぼ初心者だ」

「え?」

「専門用語もよく分からん」

「えぇ……」


思わず素の声が出る。


横では美月が肩を震わせていた。


昨夜から何度も見てきた反応だったからだ。


だが誠司は真面目な顔のまま続ける。


「でも世界大会は見た」


先ほどまでの柔らかい空気が少し変わる。


経営者の顔だった。


「そして思った」


「何をです?」


「日本はもったいない」


Shinは自然と姿勢を正した。


その言葉には競技シーンを知る人間だからこそ理解できる重みがあった。


誠司は言葉を続ける。


「才能はいる」


「だが環境が足りない」


「だったら作ればいい」


短い言葉だった。


だが競技シーンを見てきたShinには十分伝わる。


世界で戦える選手はいる。


努力している選手もいる。


それでも海外との差は存在する。


設備。


分析。


コーチング。


待遇。


将来性。


足りないものは少なくなかった。


だから夢を諦める人間もいる。


だから海外へ挑戦する人間もいる。


だから競技シーンから離れていく人間もいる。


Shin自身、その現実を何度も見てきた。


「俺はチームを作る」


誠司は迷いなく言った。


「世界一を目指すチームだ」


普通なら笑う話だ。


選手もいない。


スタッフもいない。


チーム名すらない。


それなのに世界一を目指すと言っている。


だが不思議と笑えなかった。


目の前の男が本気だからだ。


無謀な夢を語っているのではない。


本気で実現するつもりで話している。


そんな迫力があった。


「それで俺に何を?」


Shinが尋ねる。


誠司は迷わず答えた。


「チームに来てほしい」


やはりそうかと思った。


だが次の言葉は予想外だった。


「選手じゃない」


「ですよね」


「広報だ」


Shinは思わず聞き返す。


「広報?」


「ああ。チームの顔になってほしい」


誠司は資料を差し出した。


Shinはページをめくりながら内容を確認する。


練習施設。


配信スタジオ。


分析スタッフ。


コーチ陣。


運営体制。


どれも本格的だった。


そして予算のページを見た瞬間、思わず目を見開く。


「三億?」


誠司は平然としている。


「初年度だ」

「初年度!?」

「足りないか?」

「十分すぎるだろ!」


会議室に笑いが広がる。


だがShinは笑えなかった。


資料の内容が本気すぎたからだ。


遊びではない。


思いつきでもない。


本気で世界を目指そうとしている。


そのことだけは嫌というほど伝わってくる。


「でも俺を広報にする理由は?」


その質問に誠司は少しだけ笑った。


「人を集められるからだ」


Shinは黙る。


誠司は続ける。


「強い選手は探せる」


「優秀なコーチも雇える」


「施設も作れる」


そこで一度言葉を切る。


そして真っ直ぐShinを見る。


「でも人気者は作れない」


その言葉は不思議なほど胸に残った。


配信者として積み上げてきた時間。


毎日の配信。


動画投稿。


SNS更新。


気付けば百万人を超える人たちが集まっていた。


だがそれは簡単に手に入ったものではない。


誰よりも自分が知っている。


「だから最初に君が必要なんだ」


誠司は静かに言った。


「世界一のチームを作る」


「そのスタートを一緒にやってほしい」


Shinは椅子にもたれながら天井を見る。


困惑していた。


理解も追いついていない。


だが胸の奥は少しずつ熱くなっていた。


昔諦めたはずの世界。


もう関わることはないと思っていた競技シーン。


その入口が再び目の前に現れている。


「ちなみに」


Shinは気になっていたことを聞く。


「選手は決まってるんですか?」


誠司は首を横に振った。


「まだ一人もいない」

「は?」

「チーム名も決まってない」

「はぁ!?」


今度こそ素で声が出た。


横で美月が吹き出す。


Shinは思わず頭を抱えた。


本当に何もない。


選手もいない。


チームもない。


名前すらない。


それなのに目の前の男は自信満々だった。


「でも世界一にはなる」


当たり前のように言う。


迷いも不安も感じさせない。


その姿を見ていると、なぜか笑えてくる。


無謀だ。


普通なら絶対に無理だ。


それでも少しだけ見てみたいと思った。


この男が本当に世界一を目指す姿を。


しばらく考えた後、Shinは小さく笑った。


「面白そうですね」


気付けばそう口にしていた。


誠司が笑う。


美月も笑う。


こうして世界一を目指すチームに、最初の仲間が加わった。


まだ何もない。


だが確かに、その挑戦は動き始めていた。

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