第1話 次の一手
「侵略者、ねぇ」
佐藤誠司はSKYLINEのタイムラインを眺めながら小さく笑った。BLUE HAWK本部の社長室。モニターには今日も大量の投稿が流れている。
『金満チーム』
『スター選手集めただけ』
『リーグ壊すな』
『負けるところ見たい』
『侵略者』
『嫌いだけど気になる』
設立から数か月。世界王者監督を獲得し、日本トップクラスの選手たちを集めた。当然、歓迎されるだけではない。だが誠司は特に気にしていなかった。むしろ予想通りだった。
「思ったより嫌われてますね」
隣で資料を整理していた朝比奈美月が苦笑する。
「そうか?」
「かなりですよ」
「上出来だな」
即答だった。
美月は思わずため息を吐く。
「普通そこは気にしません?」
「誰にも興味持たれない方が困る」
誠司はそう言いながらモニターを閉じた。会社を立ち上げた時も同じだった。新しいことをやれば批判は出る。目立てば叩かれる。それでも前に進むしかない。だから今も変わらない。
「でも」
美月が手を止める。
「これからどうするんですか?」
リーグ開幕まではまだ少し時間がある。チームは完成した。監督もいる。練習環境も整った。普通なら開幕を待つだけだ。
だが誠司は違った。
「世界一になるには何が必要だと思う?」
突然の質問だった。
美月は少し考える。
「実力ですか?」
「もちろん必要だ」
「資金」
「それもある」
「環境」
「正解だな」
誠司は頷く。だがすぐに続けた。
「でも、それだけじゃ足りない」
美月は首を傾げる。
「ファンだ」
部屋が静かになる。
「ファン?」
「強いだけじゃ世界一にはなれない」
誠司は椅子にもたれながら続ける。
「応援する人がいる」
「試合を見る人がいる」
「選手を好きになる人がいる」
「だから競技は大きくなる」
その考え方は経営者そのものだった。試合だけを見ていない。競技シーン全体を見ている。
「つまり知名度ですか?」
「知名度だけじゃない」
誠司は首を横に振る。
「応援したくなる理由だ」
今のBLUE HAWKは話題になっている。だが、まだ人気チームではない。本当の意味でファンが付いているわけでもない。世界一を目指すなら、もっと大きくならなければならない。
「リーグが始まる前にやれることがある」
誠司の目は既に次を見ていた。
その頃、配信ルームではShinが一人で先日の発表配信を見返していた。再生数は伸び続けている。コメント欄も今なお活発だった。
「数字は出るな」
正直、ここまでとは思わなかった。だが同時に分かっている。話題だけでは続かない。人気には理由が必要だ。応援したくなる物語が必要だ。
その時、スマホが震えた。
送り主は誠司だった。
『会議室来れるか』
短いメッセージだったが、Shinは思わず笑う。
「また何か思いついたな」
嫌な予感がした。そして大体そういう予感は当たる。
数分後、会議室。
誠司、美月、Shinの三人が向かい合う。
「相談がある」
誠司が言う。
「何です?」
Shinが聞く。
すると誠司は何でもないことのように言った。
「ストリーマー部門を作ろうと思う」
一瞬。
Shinの動きが止まった。
美月は額を押さえる。
やっぱり来た。
そんな顔だった。
「……マジですか」
「マジだ」
「そんな気はしてました」
Shinが苦笑する。
BLUE HAWKがここまで来た理由は単純だ。このオーナーが止まらないからである。
チームを作った。
世界王者監督を連れてきた。
日本トップクラスの選手を集めた。
次はストリーマー部門。
もう誰も驚かない。
「目的は?」
Shinが聞く。
誠司は即答した。
「チームを大きくするためだ」
その目は本気だった。
「世界一を目指す」
「だったら競技だけじゃ足りない」
「もっと人を集める」
「もっとファンを増やす」
「もっと大きなチームにする」
会議室が静かになる。
Shinは数秒考えた後、小さく笑った。
「面白そうですね」
その答えを聞いて誠司も笑う。
決まりだった。
BLUE HAWKは止まらない。競技チームとして。そして一つのブランドとして。さらに大きく羽ばたこうとしていた。
新たな仲間。
新たな出会い。
世界一への挑戦は、まだ始まったばかりだった。




