第26話 自称日本最強DPS
白河大牙の加入が決まってから数日。
BLUE HAWK本部では契約や住居の手配、新しい練習環境の準備が着々と進められていた。
天城蓮――Reiの加入発表は既に終わっている。
競技シーン最大の謎だった男の電撃加入は大きな話題となり、今もなおSKYLINEや各種SNSではBLUE HAWK関連の投稿が絶えない。
だが。
白河大牙の加入だけはまだ公表していなかった。
会議室の大型モニターには今後のスケジュールが映し出され、その前で誠司たちは次の動きを話し合っている。
「まだ公開しないんですか?」
Shinが椅子にもたれながら聞く。
誠司は資料を閉じて答えた。
「しない」
即答だった。
「せっかく獲得したのに?」
「まだ足りない」
その言葉に全員が納得する。
韓国で会ったパク・ミンジュンは言った。
選手を揃えろ。
それが条件だった。
ならば先にやることは決まっている。
発表ではない。
補強だ。
「どうせならまとめて発表した方が面白い」
大牙が笑う。
「それは確かに」
Shinも頷いた。
蓮も腕を組みながら口を開く。
「今発表したら大牙さんだけで話題が終わりますしね」
「それもあるな」
誠司は笑った。
白河大牙の加入だけでも十分に衝撃だ。
日本最強タンク候補。
競技シーン屈指の実力者。
そんな選手がBLUE HAWKへ加入したとなれば大騒ぎになる。
だが。
誠司が見ているのはもっと先だった。
「どうせなら競技シーンごとひっくり返したい」
その言葉に全員が苦笑する。
相変わらずスケールがおかしい。
そんな時だった。
資料を確認していた美月が「あれ?」と声を漏らした。
「社長」
「どうした」
「変なDMが来てます」
会議室のモニターへ画面が共有される。
そこに表示された文章を見た瞬間、全員が固まった。
表示されていたのは、たった一文だけだった。
『俺を獲れ』
数秒の沈黙。
そして。
「何だこれ」
Shinが吹き出した。
大牙も笑いを堪えきれない。
「雑すぎるだろ」
「営業メールでももう少し頑張るぞ」
会議室に笑いが広がる。
だが美月は首を傾げた。
「スパムですかね?」
「かもしれないな」
誠司も苦笑する。
ところが。
送り主の名前を見た瞬間、蓮の表情が少し変わった。
「いや」
その一言で全員が蓮を見る。
「知ってます」
誠司が眉を上げた。
「有名なのか?」
「かなり」
蓮は少し苦笑した。
「競技シーンなら知らない人はいないと思います」
モニターには送り主の名前が表示されていた。
KING
その名前を見て大牙も「ああ」と声を漏らす。
「アイツか」
「知ってるのか?」
「有名人ですよ」
Shinが苦笑する。
「色んな意味で」
蓮はスマホを操作し、プロフィールをモニターへ映した。
鳳堂響
プレイヤーネーム KING
20歳
DPS
関西出身
日本ランキング4位
配信者
その瞬間、誠司の目が少し細くなる。
数字だけ見ても十分すごい。
だが問題は別にあった。
「自称日本最強DPSです」
蓮がそう言った瞬間、大牙が吹き出した。
「自称かよ」
「本人がずっと言ってます」
「面白い奴だな」
「かなり」
蓮は呆れたように笑う。
競技シーンでは有名だった。
鳳堂響。
KING。
とにかく目立つ。
とにかく騒がしい。
そして、とにかく自信家だ。
『俺より上手いDPSはおらん』
『Rei?普通に勝てる』
『世界一になるのは俺』
『才能だけなら日本一や』
そんな発言を配信やSNSで日常的に繰り返している。
当然アンチも多い。
炎上も多い。
だが。
実力も本物だった。
「順位は?」
誠司が聞く。
「日本四位です」
会議室が少し静かになる。
口だけではない。
本当に強い。
かなり強い。
「しかも」
蓮が続ける。
「俺と何回も当たってます」
大牙が興味深そうに聞く。
「どうなんだ」
蓮は少し考えた。
そして短く答えた。
「強いです」
即答だった。
「かなり」
それだけで十分だった。
天城蓮は簡単に人を評価しない。
そんな男が認める。
その価値は大きい。
誠司は腕を組みながらプロフィールを見る。
ランキング。
実績。
人気。
発信力。
そして何より、自分から売り込みに来たという事実。
「なるほど」
その瞬間。
大牙が嫌な顔をした。
「その顔やめろ」
「何だ」
「絶対気に入っただろ」
誠司は笑う。
図星だった。
「嫌いじゃない」
「だろうな」
Shinも苦笑する。
自分から来る人間。
自分の価値を信じている人間。
そして世界を目指したい人間。
誠司が好きそうなタイプだった。
「会う気だろ」
大牙が聞く。
「当然だ」
即答だった。
会議室に笑いが広がる。
予想通りだった。
「俺も少し興味あります」
Shinが言う。
「配信は面白いぞ」
「うるさいけどな」
大牙が付け加える。
蓮も少し笑った。
鳳堂響。
KING。
実力がある。
人気もある。
華もある。
そして誰よりも目立ちたがりだ。
チームスポーツ向きかどうかは分からない。
だが。
世界を目指すチームに必要な何かを持っている気がした。
誠司は立ち上がる。
そしてモニターに表示されたDMをもう一度見る。
『俺を獲れ』
普通なら無視される文章。
だが。
なぜだろう。
誠司は気に入っていた。
世界一を目指すチーム。
そこへ自分から飛び込んでくる人間。
嫌いじゃない。
むしろ好きだった。
「会ってみるか」
その言葉に全員が苦笑する。
BLUE HAWK。
次の仲間候補は、自称日本最強DPS。
競技シーン屈指のビッグマウスだった。




