第23話 最強の問題児に会う
白河大牙との接触は、予想よりもずっとあっさり決まった。
佐藤誠司がSKYLINEのDMを送った翌日。
返ってきたメッセージはたった一文だけだった。
『30分だけなら』
それだけ。
挨拶もない。
敬語もない。
だが、それだけで十分だった。
BLUE HAWK本部の会議室でその画面を見た時、天城蓮ですら少し驚いた表情を浮かべていた。
「返したんですね」
「そんなに珍しいのか?」
誠司が聞くと、蓮は迷わず頷く。
「かなり珍しいです」
「基本的に知らない相手は無視します」
横で聞いていたShinも苦笑する。
「競技シーンでも有名ですよ」
「DM返ってきたら勝ち組って言われるくらいです」
美月も小さく笑った。
「そこまでなんですね」
白河大牙。
プレイヤーネームTIGA。
日本最強タンク候補。
そして競技シーン屈指の問題児。
実力だけなら誰もが認める。
だが性格まで褒める人間はほとんどいない。
だからこそ、この返信には価値があった。
「なら会うか」
誠司がそう言うと、Shinが肩を落とす。
「どうせそうなると思ってました」
「何だその反応は」
「社長が会う以外の選択肢を取ったところ見たことないんで」
否定できなかった。
Reiもそうだった。
パク・ミンジュンもそうだった。
佐藤誠司は気になった人材がいると必ず会いに行く。
電話ではない。
メールでもない。
直接だ。
それがこの男のやり方だった。
その日の夕方。
都内のカフェ。
誠司は約束の時間より少し早く到着していた。
窓際の席へ腰を下ろしながら店内を眺める。
仕事帰りの会社員。
談笑する学生たち。
どこにでもある普通の光景だった。
だが今日会う相手は普通ではない。
世界を目指せる才能を持ちながら、どこにも所属していない天才。
そして。
競技シーンで最も扱いが難しい男。
約束の時間ちょうど。
入口のドアが開く。
誠司は自然と視線を向けた。
高身長。
短く整えられた髪。
黒いパーカー。
鋭い目付き。
写真で見た通りの青年が店内へ入ってくる。
白河大牙。
TIGA。
本人だった。
周囲を軽く見回した後、その青年は迷うことなく誠司の席へ向かってくる。
椅子へ座るなり口を開いた。
「佐藤さんですか」
愛想はない。
だが失礼でもない。
思っていたよりずっと普通だった。
「そうだ」
誠司は笑う。
「初めまして」
「どうも」
短い。
本当に短い。
だがそれが白河大牙らしかった。
数秒の沈黙。
そして大牙の方から切り込んできた。
「で?」
誠司は少し笑う。
「何の用ですか」
「スカウトだ」
即答だった。
大牙は天井を見上げ、小さくため息を吐いた。
驚く様子はない。
むしろ予想していたような反応だった。
「またですか」
「最近多いのか?」
「多いです」
大牙は椅子へ深くもたれかかる。
「プロチーム」
「企業チーム」
「スポンサー案件」
「色々来ます」
「全部断ってるのか」
「全部です」
迷いなく答える。
誠司は興味深そうに頷いた。
「何で断る?」
大牙は少し考える。
そして肩をすくめた。
「面倒だからです」
あまりにも率直だった。
「人付き合い嫌いなんで」
「なるほど」
「大会も面倒です」
「ほう」
「運営も嫌いです」
「徹底してるな」
大牙が少しだけ笑う。
その瞬間、誠司は感じた。
この青年は口が悪いだけだ。
思ったことをそのまま言っているだけで、根本的にひねくれているわけではない。
むしろ不器用なのだろう。
「ゲームは好きなんだろ?」
誠司が聞く。
大牙の表情が少しだけ柔らかくなる。
「好きですよ」
即答だった。
そこに迷いはない。
「負けるのは?」
「大嫌いです」
「勝つのは?」
「好きです」
「世界一は?」
その瞬間だけ。
大牙の目が変わった。
今までよりもずっと鋭くなる。
「なりたいですよ」
小さな声だった。
だが本音だった。
誠司は何も言わない。
続きを待つ。
大牙は窓の外を見ながら続けた。
「でも無理です」
「何でだ」
「一人じゃ無理だからです」
その答えは即答だった。
「どれだけ上手くても勝てない試合はあります」
「味方が弱いとかじゃない」
「チームとして足りないんです」
その言葉には重みがあった。
何度も経験した人間にしか出せない重さだった。
「だからプロも見ました」
「チームも見ました」
「でも結局駄目だった」
大牙は苦笑する。
「強い選手が一人いるだけじゃ勝てないんですよ」
誠司は静かに聞いている。
途中で口を挟まない。
否定もしない。
だから大牙も自然と話していた。
「だからBLUE HAWKも最初は同じだと思ってました」
「最初は?」
大牙は頷く。
「Rei加入発表を見るまでは」
カフェが静かになる。
「正直驚きました」
「天城蓮が出てくるとは思わなかった」
「競技シーンの人間なら全員驚いてますよ」
誠司は少し笑った。
「そうらしいな」
「だから気になったんです」
大牙は誠司を見つめる。
「どうやって口説いたんですか」
誠司が吹き出した。
「そこか」
「そこです」
真顔だった。
「何年もどこのチームも獲れなかったんですよ」
「それを設立したばかりのチームが獲った」
「意味分からないじゃないですか」
誠司は少し考える。
そして正直に答えた。
「世界一になる話をした」
大牙が数秒黙る。
そして。
「胡散臭いですね」
「よく言われる」
思わず二人とも笑った。
最初の空気はもうなかった。
帰りたい。
面倒だ。
そんな雰囲気も消えている。
代わりにあるのは興味だった。
世界一を目指すと言い切る変な社長。
競技シーン最大の謎だったRei。
そして生まれたばかりのBLUE HAWK。
白河大牙はまだ気付いていなかった。
自分自身もまた、その挑戦へ少しずつ引き込まれ始めていることに。




