表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲームは下手だけど、世界一のチームを作りたい!!  作者: 龍崎
第1章 世界一のチームを作ろう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/160

第20話 世界への案内人

「本題に入りましょう」


パク・ミンジュンがそう言うと、ラウンジの空気がわずかに引き締まった。


窓の向こうにはソウルの夜景が広がっている。


世界大会優勝三回。


韓国競技シーンの象徴。


世界を知る男。


そんな人物が今、佐藤誠司の目の前に座っていた。


普通なら緊張する場面だろう。


だが誠司は不思議なくらい落ち着いていた。


伝えたいことは最初から決まっている。


だから回りくどい話をするつもりはなかった。


「まず最初に言っておきます」


誠司が静かに口を開く。


「私はゲームに詳しくありません」


ミンジュンは少しだけ笑った。


「聞いています」


「戦術も分かりません」


「それも聞いています」


「世界大会を見たのも最近です」


ミンジュンは何も言わず続きを促した。


誠司は真っ直ぐ相手を見つめる。


「でも、一つだけ分かったことがあります」


その声には迷いがなかった。


「日本には才能があります」


ミンジュンの表情が少しだけ変わる。


誠司は構わず続けた。


「天城蓮みたいな選手がいます」


「Shinみたいな影響力を持つ人間もいます」


「そして、まだ表に出てきていない才能もいるはずです」


「見つかっていないだけで」


「環境がないだけで」


「チャンスを掴めていないだけで」


その言葉を聞きながら、ミンジュンは静かに頷いていた。


それは彼自身も感じていたことだった。


日本には才能がいる。


決して少なくない。


だが世界で勝てない。


韓国との差は才能ではない。


理由はもっと別のところにある。


「環境ですね」


ミンジュンが静かに言う。


誠司は頷いた。


「そうです」


「才能はいる」


「努力する人間もいる」


「でも途中で消えていく」


「夢を諦める」


「世界へ行く前に終わってしまう」


誠司は少し息を吐いた。


世界大会を見た日のことが頭をよぎる。


悔しそうな選手たち。


あと一歩届かなかった日本チーム。


そして実況の言葉。


才能はいる。


足りないのは環境だ。


あの言葉は今でも胸に残っていた。


「私は思ったんです」


誠司はミンジュンを見る。


「日本には原石がたくさんいる」


「でも」


「世界へ導ける人間が足りない」


ラウンジが静かになる。


周囲では英語や韓国語が飛び交っている。


だが二人の間だけは別の空間のようだった。


「私は経営ならできます」


「組織も作れます」


「資金も出せます」


「環境も作れます」


それは事実だった。


SEIZE NEXTを上場企業まで成長させた男だ。


組織作りに関しては誰よりも結果を出している。


だが。


「世界一のチームを作ったことはありません」


「世界大会で勝ったこともありません」


「だから必要なんです」


誠司は一度言葉を切る。


そして真っ直ぐミンジュンを見た。


「あなたが」


数秒の沈黙が流れる。


誠司は続けた。


「私は世界を知りません」


「でも、あなたは知っている」


「世界一になるために何が必要か」


「どんな選手が必要か」


「どんな環境が必要か」


「どうすれば勝てるのか」


誠司はゆっくり頭を下げた。


オーナーとしてではない。


経営者としてでもない。


一人の挑戦者として。


「力を貸してください」


静かな声だった。


だが強い意志が込められていた。


「私は日本の才能を世界へ連れて行きたい」


「そのためのチームを作りたい」


「だから」


誠司は頭を下げたまま続ける。


「世界への案内人になってほしい」


静寂。


ミンジュンは何も言わなかった。


ただ目の前の男を見つめていた。


金額の話ではない。


契約条件でもない。


待遇の話でもない。


普通のスカウトなら最初に出てくる話題が一つもない。


だが。


だからこそ心に残った。


ミンジュンは窓の外へ視線を向ける。


韓国。


世界王者。


世界大会優勝三回。


これまで数え切れないほど勝ってきた。


欲しいものもほとんど手に入れた。


だが最近は考えることが増えていた。


次は何を残すべきか。


何のために競技シーンへ関わり続けるのか。


その答えが少しだけ見えた気がした。


「佐藤さん」


ミンジュンが静かに口を開く。


誠司は顔を上げた。


「あなたは面白い人ですね」


「よく言われます」


二人の間に小さな笑いが生まれる。


張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。


だが次の瞬間、ミンジュンの表情は再び真剣なものへ変わった。


「正直に言います」


誠司は黙って頷く。


「今のBLUE HAWKは弱い」


「はい」


「選手も足りない」


「はい」


「世界には程遠い」


「その通りです」


誠司は否定しなかった。


言い訳もしない。


現実は現実として受け止めている。


だからこそミンジュンは少しだけ笑った。


普通なら反論する。


夢を語る。


希望を語る。


だがこの男は違う。


現実を理解した上で世界一を目指している。


「ですが」


ミンジュンは続ける。


「可能性は感じます」


誠司の目がわずかに見開かれた。


「天城蓮」


「佐藤誠司」


「そしてBLUE HAWK」


ミンジュンはコーヒーカップを静かに置く。


その動作一つで空気が変わる。


「少しだけ」


短い沈黙。


そして。


「興味が湧きました」


世界王者監督。


世界最高峰の指導者。


その男が初めて見せた前向きな反応だった。


まだ加入ではない。


契約でもない。


だが確かな一歩だった。


BLUE HAWKが世界へ近づくための、大きな一歩だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ