第18話 世界を知る者
Rei加入発表から三日。
BLUE HAWK本部は今も慌ただしい空気に包まれていた。
SKYLINE登録者数三十万人突破。
公式チャンネル登録者百五十万人突破。
加入発表動画五百万再生突破。
設立からまだ間もないチームとは思えない勢いだった。
競技シーンの注目は完全にBLUE HAWKへ集まっている。
だが、その中心にいる佐藤誠司は満足していなかった。
世界一を目指す。
その目標から考えれば、今はまだスタートラインに立っただけだからだ。
会議室。
大型モニターには現在のチーム状況が表示されている。
選手一覧。
そこに書かれている名前は一人だけだった。
天城蓮(Rei)
以上。
その画面を見ながらShinが苦笑する。
「改めて見るとヤバいですね」
「何がだ?」
誠司が聞き返す。
「世界一を目指すチームの選手が一人です」
その言葉に美月も思わず笑った。
「しかも監督もコーチもいません」
「だから探すんだろ」
誠司は平然と答える。
そして机の上に置かれていた資料を二人へ滑らせた。
Shinが何気なく資料を手に取る。
次の瞬間、その表情が固まった。
美月も同じだった。
そこに書かれていた名前は、競技シーンを知る人間なら誰もが知っている人物だったからだ。
パク・ミンジュン。
韓国。
元世界王者監督。
「……本物ですか?」
美月が確認するように聞く。
「本物だ」
誠司は迷わず頷いた。
STRIKE FRONTIER競技シーンにおいて韓国は長年世界を支配してきた地域だった。
その中心にいた男。
それがパク・ミンジュンだった。
現役時代はトッププロ。
引退後は監督へ転身。
世界大会優勝三回。
準優勝二回。
韓国最強チームDRAGON FORCEを率いた伝説的指導者。
戦術構築。
選手育成。
組織運営。
その全てが世界最高峰と評価されている。
世界中のチームが欲しがる人材だった。
「何でこんな人が候補なんですか」
Shinは半ば呆れながら聞く。
誠司は当然のように答えた。
「世界一になるからだ」
「またそれですか」
「世界一を知らない人間に世界一は作れない」
その言葉に二人は黙る。
反論できなかった。
確かにBLUE HAWKには天城蓮がいる。
日本最強の才能だ。
だが世界最強ではない。
世界大会を知らない。
世界王者と戦った経験もない。
だからこそ必要だった。
世界を知る人間が。
世界で勝った人間が。
「問題は韓国ですよね」
美月が資料を見ながら言う。
「しかも超大物です」
「分かってる」
普通なら不可能だった。
日本の新設チーム。
実績なし。
世界大会経験なし。
そんな組織に来る理由はどこにもない。
だが誠司はなぜか楽しそうだった。
「とりあえず会うか」
Shinは天井を見上げた。
「またそれですか」
「まず会う」
「毎回同じですね」
「成功率高いぞ」
それを言われると否定できない。
Shinも。
天城蓮も。
結局は会ったことで獲得できたのだから。
◇
同じ頃。
韓国・ソウル。
高級マンション最上階の一室。
大きな窓から夜景が見えるリビングで、一人の男がコーヒーを飲みながら映像を見ていた。
短く整えられた髪。
鋭い眼差し。
軍人を思わせる立ち居振る舞い。
パク・ミンジュン。
世界王者監督。
競技シーンのレジェンド。
モニターにはBLUE HAWKの発表映像が映し出されていた。
そして画面の中央には天城蓮。
Reiのプレイ映像。
ミンジュンは映像を止める。
もう何度目か分からない。
それでも繰り返し見ていた。
「面白い」
小さく呟く。
Reiの存在は以前から知っていた。
知らない監督はいない。
世界中の強豪チームが注目していた才能だった。
だが本人は表舞台へ現れなかった。
大会にも出ない。
プロにもならない。
それが突然動き出した。
ミンジュンは再び映像を再生する。
次に映し出されたのは佐藤誠司だった。
世界一のチームを作る。
そう言い切った日本人オーナー。
普通なら笑う。
無謀だからだ。
だが、なぜか笑えなかった。
この男は口だけではない。
実際にShinを獲得した。
Reiも獲得した。
SKYLINEも作った。
行動している。
だから少しだけ気になった。
その時。
机の上のスマートフォンが震える。
海外の知人からの着信だった。
ミンジュンは通話ボタンを押す。
短いやり取り。
だが、その途中で表情が少し変わった。
「本当か?」
通話終了。
スマートフォンを机へ置く。
そこには一通のメールが届いていた。
送り主。
佐藤誠司。
BLUE HAWK。
ミンジュンは思わず笑った。
「速いな」
普通なら代理人を通す。
チームスタッフを通す。
担当者を通す。
だが、この男は違うらしい。
本人が直接来た。
ミンジュンはメールを開く。
長い文章ではない。
だが最後の一文で視線が止まった。
『世界一を取りに行きませんか?』
静かな部屋に沈黙が流れる。
ミンジュンはしばらく画面を見つめたまま動かなかった。
やがて口元が少しだけ緩む。
「面白いオーナーだ」
世界王者の監督。
世界を知らない新設チーム。
本来なら交わるはずのない二つの存在。
だが今、その運命が少しずつ近づこうとしていた。




