第17話 止まらない反響
天城蓮――Reiの加入発表から、わずか十分。
STRIKE FRONTIER競技シーンは完全に混乱していた。
誰も予想していなかったわけではない。
むしろ、多くの人間が一度は夢想したことがある。
もしReiがプロになったら。
もしReiが大会へ出たら。
もしReiが世界を目指したら。
だが、それはあくまで夢物語だった。
誰も実現するとは思っていなかった。
日本ランキング一位。
アジア上位常連。
大会出場経験なし。
配信経験なし。
正体不明。
競技シーン最大の謎として語られ続けてきた男が、突然顔を見せ、突然プロ入りを発表したのだ。
しかも加入先は、設立されたばかりの新チーム。
BLUE HAWK。
衝撃が走らないはずがなかった。
SKYLINEのトレンドランキングは、その異常さをそのまま表していた。
一位 Rei
二位 天城蓮
三位 BLUE HAWK
四位 世界一を目指す
五位 Shin
六位 佐藤誠司
七位 日本最強
八位 エース加入
九位 STRIKE FRONTIER
十位 競技シーン
上位は関連ワードで埋め尽くされている。
そして数字も凄まじかった。
BLUE HAWK本部。
大型モニターに表示されるデータを見ながら、Shinは思わず呟く。
「やばいな……」
加入発表動画。
公開一時間。
再生数二百五十万。
SKYLINE登録者数。
二十五万人突破。
BLUE HAWK公式アカウント。
フォロワー百万人突破。
どれも異常な伸びだった。
「予想以上ですね」
美月が驚いたように言う。
「いや、予想できるかこんなの」
Shinは苦笑した。
「競技シーン最大の隠し玉だったんだからな」
その言葉に誠司も静かに頷く。
確かに反響は期待していた。
だがここまでとは思っていなかった。
嬉しい誤算だった。
ネット上では、今も無数の反応が飛び交っている。
『Reiがプロとかマジかよ』
『人生で一番驚いた』
『絶対大会出ないと思ってた』
『顔出し熱すぎる』
『普通にイケメンで草』
『十九歳だったのか』
『若すぎるだろ』
『日本競技シーン始まったな』
『BLUE HAWK優勝候補じゃん』
『本気で世界狙ってる』
投稿は止まらない。
むしろ時間が経つほど増えている。
配信者たちも次々と反応を始めていた。
登録者三百万人を超える人気ストリーマーは、配信中に思わず立ち上がる。
「いや、これ事件だろ」
コメント欄が一気に流れる。
配信者は興奮した様子のまま続けた。
「競技シーン知らない人向けに説明するとさ」
「サッカーで例えたら、ずっと正体不明だった世界最高クラスの選手が突然Jリーグに来たようなもんだからな」
『分かりやすい』
『それくらい衝撃』
『マジで事件』
『今年一番のニュース』
『競技シーン変わるぞ』
現役プロたちも黙っていなかった。
『遂に来たか』
『本当に加入したのか』
『大会で会うの楽しみだ』
『正直戦いたくない』
『日本最強が表舞台に来た』
『今年一番の補強』
普段はライバル同士の選手たちまでが同じ話題を口にしている。
それほどまでにReiという名前は特別だった。
そして、その波は日本だけに留まらなかった。
海外コミュニティでも話題が広がり始めている。
『Who is Rei?』
『Japanese Rank #1』
『The Phantom Player』
『Interesting』
『Blue Hawk?』
『I want to see him play』
日本ランキング一位。
正体不明のプレイヤー。
そんな存在は海外でも噂になっていた。
だからこそ興味を持つ人間も多い。
世界が少しずつBLUE HAWKへ視線を向け始めていた。
そしてもう一人。
競技シーンで急速に注目を集めている人物がいる。
佐藤誠司。
『結局あの社長何者なんだ』
『Shin獲得』
『Rei獲得』
『SKYLINE開発』
『資金力おかしい』
『本気度が違う』
『まだ設立一ヶ月くらいだろ』
『行動力化け物か』
『選手ゼロから始めてこれは凄い』
誰もが同じ疑問を抱いていた。
なぜこの男は短期間でここまでのものを作り上げたのか。
なぜ誰も獲得できなかった人材を集められるのか。
答えを知る者はいない。
だが一つだけ確かなことがある。
BLUE HAWKはもう無名チームではない。
競技シーンの中心へ足を踏み入れていた。
◇
その頃。
天城蓮は本部の一室でスマートフォンを眺めていた。
画面にはSKYLINE。
タイムラインには自分の名前ばかり並んでいる。
正直まだ慣れない。
今までは誰にも知られていなかった。
ランキングの向こう側にいるだけだった。
だが今は違う。
顔も出た。
名前も出た。
もう隠れることはできない。
「後悔してるか?」
不意に声が掛かる。
振り返ると、誠司が部屋へ入ってきていた。
蓮は少し考える。
そして首を横に振った。
「全然」
それが本音だった。
大学も辞めた。
人生も変えた。
だが不思議なくらい後悔はない。
むしろ胸の奥は前向きな熱で満たされていた。
誠司は小さく笑う。
「なら良かった」
「ただ」
「ん?」
蓮はスマートフォンの画面を見せる。
そこにはある投稿が表示されていた。
『次は誰獲るんだ?』
『まだ選手一人だよな』
『BLUE HAWKの補強始まるぞ』
『世界一目指すなら最低五人必要』
誠司はそれを見て笑った。
「確かにな」
「次ですね」
蓮も頷く。
自分は加入した。
だがチームはまだ始まったばかりだ。
世界一になるには仲間が必要だった。
信頼できる仲間。
世界と戦える仲間。
誠司は窓の外に広がる東京の夜景を見つめる。
そして静かに言った。
「そろそろ二人目を探すか」
その言葉に蓮は少し笑った。
競技シーン最大の謎は表舞台へ出た。
だがBLUE HAWKの物語は、まだ始まったばかりだった。
次に集まるのは誰か。
競技シーンの視線は、再びBLUE HAWKへ向けられようとしていた。




