第16話 青きエース
天城蓮がBLUE HAWKへの加入を決めてから数日後。
本部はかつてないほど慌ただしく動いていた。
引っ越しの手配は完了している。
住居も確保した。
契約書の締結も終わった。
生活環境の準備も順調だ。
だが、まだ終わっていない仕事が一つだけ残されていた。
加入発表。
しかも相手はただの新人選手ではない。
競技シーン最大の謎。
日本ランキング一位。
誰も正体を知らなかった伝説のプレイヤー。
Rei。
発表の仕方を間違えれば競技シーン全体を揺るがす。
逆に成功すればBLUE HAWKは一気に世界への第一歩を踏み出すことになる。
「準備できたか?」
本部の会議室で佐藤誠司が尋ねる。
「いつでもいけます」
Shinが答えた。
大型モニターには配信待機画面が映っている。
開始前にもかかわらず待機人数は三万人を超えていた。
前回のBLUE HAWK発表配信の影響は想像以上に大きい。
コメント欄も凄まじい勢いで流れている。
『重大発表きた!』
『また誰か加入するのか?』
『選手発表だろ』
『エース来る?』
『まさかReiじゃないよな』
『それは無理』
『来たら事件』
コメントを眺めながらShinは小さく笑った。
もし本当にReiだと知ったらどうなるのか。
競技シーンがひっくり返る。
そんな光景が容易に想像できた。
会議室の隅では天城蓮が静かに座っている。
人生初の顔出し。
人生初の公式発表。
緊張がないと言えば嘘になる。
だが不思議と後悔はなかった。
大学を辞めた。
東京へ来た。
BLUE HAWKへ加入した。
ならもう前へ進むしかない。
世界一になるために。
午後八時。
配信開始。
開始十分で同時接続五万人。
二十分で八万人。
三十分後には十二万人を突破した。
数字は今も増え続けている。
「こんばんは」
Shinが笑顔で挨拶する。
コメント欄が一気に加速した。
『こんばんは!』
『発表まだ!?』
『早くしてくれ!』
『気になる!』
『誰なんだ!?』
Shinは苦笑する。
「落ち着けって」
その一言だけでさらにコメントが増えた。
「今日はBLUE HAWKから重大発表があります」
コメント欄の勢いがさらに増す。
『来た!』
『選手だろ!』
『頼むぞ!』
『誰だ!?』
『エース発表か!?』
Shinは深呼吸する。
そして静かに言った。
「まず動画を見てくれ」
画面が暗転する。
静かなピアノの音色。
黒い画面。
そして白い文字が浮かび上がった。
彼は現れない。
映像が切り替わる。
世界ランキング。
日本ランキング。
そこに映るのは一つの名前だけだった。
Rei。
再び文字が現れる。
大会に出ない。
配信をしない。
誰も正体を知らない。
静かな音楽と共に映像が流れていく。
次に映し出されたのは試合映像だった。
圧倒的なエイム。
常識外れの反応速度。
信じられないキル数。
画面には観戦者たちのコメントが並ぶ。
『化け物』
『日本最強』
『何者なんだ』
音楽が大きくなる。
青い羽が舞う。
そして文字が現れた。
だが。
その才能は終わらない。
映像が切り替わる。
東京の街並み。
BLUE HAWK本部。
最新設備の練習施設。
配信スタジオ。
スタッフたちの姿。
そして青いユニフォーム。
一人の青年の後ろ姿が映し出される。
世界へ飛ぶために。
音楽が最高潮へ達する。
青年がゆっくり振り返った。
初公開。
天城蓮。
その顔が映し出された瞬間、配信の向こう側で何万人もの視聴者が息を呑んだ。
画面中央へ文字が表示される。
AMAGI REN
REI
BLUE HAWK
そして最後に。
THE FIRST ACE
巨大なBLUE HAWKのロゴと共に映像が終了した。
配信画面へ戻る。
コメント欄が止まった。
本当に一瞬だけだった。
だが次の瞬間。
爆発する。
『うおおおおおおおおおおお!!!』
『Rei!?!?!?』
『マジで!?!?』
『嘘だろ!?!?』
『本物!?!?』
『事件だろこれ!!!』
『日本最強来たあああああ!!!』
『鳥肌やばい!!!』
『競技シーン終わった!!!』
『優勝候補じゃん!!!』
『BLUE HAWK本気すぎる!!!』
同時接続は一気に十五万人を突破する。
さらに増える。
十六万。
十七万。
十八万。
数字は止まらない。
Shinも思わず笑ってしまった。
想像以上。
まさにそれだった。
「改めて発表します」
コメント欄は流れ続けている。
「天城蓮」
「プレイヤーネームRei」
「BLUE HAWK加入決定です」
再びコメントが爆発した。
そして。
画面の横から一人の青年が姿を現す。
黒髪。
少しだけ緊張した表情。
だが、その目だけは真っ直ぐ前を見据えていた。
天城蓮。
競技シーン最大の謎が、初めて世間の前へ姿を見せた瞬間だった。
『うおおおおおお!!!』
『初顔出し!?!?』
『マジで本人だ!!!』
『若っ!?!?』
『十九歳なの!?!?』
『強そう』
『主人公じゃん』
『本当に存在したんだ』
コメントは止まらない。
蓮は思わず苦笑する。
こんなにも多くの人間に注目されたことは人生で一度もなかった。
だが不思議と怖くはない。
むしろ胸の奥が熱くなる。
ここから始まる。
そんな実感があった。
蓮はマイクを手に取る。
そして静かに口を開いた。
「初めまして」
コメント欄がさらに加速する。
「天城蓮です」
一呼吸置く。
そして真っ直ぐカメラを見つめた。
「BLUE HAWKで世界一を目指します」
その瞬間。
コメント欄は完全な祭りになった。
祝福。
驚き。
歓声。
期待。
何万もの感情が画面の向こうから押し寄せてくる。
少し離れた場所で佐藤誠司は腕を組みながらその光景を見つめていた。
競技シーン最大の謎。
日本最強プレイヤー。
誰も獲得できなかった天才。
その才能は今。
BLUE HAWK最初のエースとして、大空へ羽ばたこうとしていた。




