第13話 BLUE HAWK始動
天城蓮との面談から数日後。
東京にあるBLUE HAWK設立準備室では、佐藤誠司、美月、Shinの三人が大型モニターを囲んでいた。
天城からの返事はまだ届いていない。
だが、それで立ち止まるつもりはなかった。
世界一を目指すチームを作る。
そのためには強い選手を集めるだけでは足りない。
まず存在を知ってもらう必要がある。
ファンに。
業界に。
そして世界に。
今夜はその第一歩となる日だった。
「準備は終わりました」
美月がタブレットを閉じながら報告する。
「公式サイトも問題ありません。SKYLINEも予定通り公開できます」
誠司は頷いた。
SKYLINE。
BLUE HAWKが開発したeスポーツ特化型SNSアプリだ。
試合情報の共有。
配信通知。
動画投稿。
コミュニティ機能。
選手やチームとの交流。
従来バラバラだったサービスを一つへ集約した新しいプラットフォームだった。
普通のプロチームなら作らない。
だがBLUE HAWKは普通のチームになるつもりがなかった。
「普通、チームがSNSまで作ります?」
Shinが呆れたように笑う。
この数日だけでも驚かされることばかりだった。
練習施設。
配信スタジオ。
専用サイト。
動画制作チーム。
そして独自SNS。
設立したばかりとは思えない規模だった。
誠司は当然のように答える。
「普通じゃ世界一になれない」
「またそれですか」
「成功してきた理論だ」
Shinは苦笑する。
反論したい。
だが実際に成功している人間に言われると弱い。
十年前、ワンルームから始まった会社は今や上場企業だ。
だからこそ説得力があった。
時計を見る。
午後八時。
いよいよ発表の時間が近づいていた。
◇
「こんばんはー」
Shinの配信が始まる。
開始直後から視聴者数は凄まじい勢いで増えていった。
十分後には五万人。
二十分後には七万人。
そして三十分が経つ頃には十万人を突破する。
コメント欄が猛烈な勢いで流れていく。
『重大発表って何!?』
『移籍!?』
『プロチーム!?』
『まさか引退じゃないよな!?』
『早く教えてくれ!』
『気になって眠れん!』
画面の向こうの熱量が伝わってくる。
Shinはコメントを眺めながら小さく笑った。
そして深呼吸する。
「じゃあ言います」
その一言でコメント欄がさらに加速した。
『来たあああああ!』
『うおおおおお!』
『緊張する』
『頼むぞ』
『何だ何だ!?』
Shinは一度だけ頷く。
そして言った。
「俺、チーム入ります」
一瞬だけコメント欄が止まった。
まるで全員が理解する時間を必要としたかのようだった。
だが次の瞬間。
画面が爆発する。
『は!?』
『マジかよ!?』
『どこだ!?』
『遂にプロか!?』
『うおおおおおおお!』
『待ってたぞ!』
『本気じゃん!』
コメントの流れが速すぎて読めない。
Shinはそんな反応を見ながら笑った。
「まずは動画を見てくれ」
画面が暗転する。
静かな音楽が流れる。
黒い画面。
その中央を、一羽の青いタカが駆け抜けた。
そして文字が浮かび上がる。
才能はいる。
映像が切り替わる。
世界大会。
歓声に包まれたアリーナ。
悔しそうな表情を浮かべる日本選手たち。
再び文字が現れる。
足りないのは環境だ。
音楽が少しずつ大きくなる。
今度は建設中の施設が映る。
最新設備が並ぶ配信スタジオ。
会議を行うスタッフたち。
準備を進める運営陣。
そして再び文字。
だから作る。
音楽が一気に盛り上がる。
青い羽が画面いっぱいへ舞い上がる。
そして巨大なロゴが現れた。
BLUE HAWK
その文字が映し出された瞬間、配信のコメント欄は再び大きく揺れる。
さらにロゴの下へ新たな言葉が表示された。
FLY BEYOND THE SKY
空の先へ。
BLUE HAWKの理念だった。
映像が終わる。
再び配信画面へ戻る。
コメント欄は完全に祭り状態になっていた。
『鳥肌立った』
『ロゴかっこよすぎる』
『本気度やばい』
『Shin加入確定!?』
『応援するわ』
『世界行ってくれ』
『久々にワクワクする』
その反応を見ながらShinは口を開く。
「実はもう一つあります」
コメント欄の勢いが少し落ちる。
全員が次の言葉を待っていた。
「今日からSKYLINEも正式サービス開始です」
画面に新しいロゴが映し出される。
青い空をモチーフにしたデザイン。
そしてアプリ画面の紹介映像。
その瞬間、コメント欄が再び爆発した。
『SNS!?』
『チームがSNS作ったの!?』
『意味分からん規模なんだけど』
『本気すぎるだろ』
『金掛かってるな!?』
『普通のプロチームじゃねえ!』
配信は大盛り上がりだった。
SNSでもBLUE HAWKの名前が急上昇していく。
誰も知らなかった新チーム。
だが今この瞬間、その存在が業界中へ広がり始めていた。
◇
その頃。
鹿児島市内のアパート。
天城蓮はパソコンの前で配信を見ていた。
普段なら途中で閉じていたかもしれない。
だが今日は最後まで目を離せなかった。
BLUE HAWK。
数日前まで聞いたこともなかったチーム。
選手はまだいない。
実績もない。
それなのに動きだけは異常だった。
施設を作る。
スタッフを集める。
SNSまで開発する。
普通のチームでは考えられない規模だ。
蓮は映像で流れたロゴを思い出す。
そしてカフェでの会話も。
世界一のチームを作る。
あの時は半信半疑だった。
だが今は少し違う。
このチームは本当に世界を目指しているのかもしれない。
そんな考えが頭をよぎる。
気付けば、佐藤誠司の言葉がまた思い出されていた。
世界一になりたいと思ったことはないか。
蓮は静かにモニターを見つめる。
その問いへの答えは、ずっと昔から決まっていた。




