第24話 隣にいる人
龍門戦まで残り数日。夜十時を過ぎたBLUE HAWK本部はすっかり静かになっていたが、オーナールームだけはまだ明かりが灯っていた。佐藤誠司はデスクに山積みになった資料へ目を通しながら、龍門戦の準備、ストリーマー部門の企画、今後の大会運営について考えていた。
「社長」
声がして顔を上げる。
朝比奈美月だった。
「まだいたのか」
「その言葉そのまま返します」
美月は呆れたように言う。
「もう少しで終わる」
「一時間前も聞きました」
「そうだっけ」
「そうです」
即答だった。
美月は缶コーヒーを机へ置く。
「飲んでください」
「ありがとう」
誠司は受け取りながら少し笑う。
「選手たちは?」
「全員帰りました」
「そうか」
誠司は安心したように頷いた。
美月は向かいの椅子へ腰を下ろす。
「社長」
「ん?」
「最近働き過ぎです」
「そんなことない」
「あります」
即答だった。
「倒れたらどうするんですか」
「倒れないよ」
「そう言う人ほど倒れます」
誠司は苦笑しながらコーヒーを飲む。
少し沈黙が流れた。
「でもさ」
誠司が窓の外を見る。
「楽しいんだよ」
美月が少し首を傾げる。
「楽しい?」
「うん」
誠司は笑った。
「昔は会社の数字ばかり見てた。でも今は違う。選手が勝って喜んでる姿も、配信で盛り上がってる姿も、ファンが楽しそうにしてる姿も見られる」
美月は静かに聞いていた。
「大変なことも多いけど」
誠司は続ける。
「BLUE HAWKを作って本当に良かったと思う」
「後悔は?」
「一度もない」
即答だった。
「お金も飛ぶし問題も起きるし胃も痛くなるけど、それ以上に得たものの方が大きい」
美月は少し笑う。
「社長らしいですね」
「そうか?」
「そうです」
誠司は窓の外を見ながら続けた。
「こんなに本気で夢を追う仲間たちに出会えたからな」
短い言葉だった。
だが。
美月には十分伝わった。
誠司にとってBLUE HAWKは会社の事業ではない。
人生を懸けた夢なのだ。
「それ」
美月が少し視線を逸らす。
「ずるいですよ」
「何が?」
「そういうことを自然に言えるところです」
誠司は本気で分かっていない顔をする。
美月は小さくため息を吐いた。
「分かってないならいいです」
「?」
本当に分かっていなかった。
だから困る。
美月は立ち上がる。
「帰ります」
「お疲れ様」
「社長も帰ってください」
「あと少し」
「十分後です」
「十五分」
「十分です」
即却下だった。
美月はドアへ向かう。
だが。
出る直前で立ち止まる。
「社長」
「ん?」
「龍門戦」
誠司が顔を上げる。
「勝ちましょう」
その言葉に。
誠司は少し笑った。
「ああ」
そして力強く答える。
「勝とう」
美月も小さく笑い、そのまま部屋を後にした。
静かになったオフィス。
誠司は窓の外に広がる夜景を見つめる。
世界一への道はまだ遠い。
それでも今は一人じゃない。
だからきっと辿り着ける。
そんな気がしていた。




