第25話 王者との初戦
龍門戦当日。
朝からSKYLINEのトレンドはBLUE HAWKと龍門の話題で埋め尽くされていた。開幕から無敗を続ける新鋭BLUE HAWKと、三連覇中の絶対王者・龍門。シーズン開幕前には誰も想像しなかった頂上決戦に、ファンも関係者も大きな注目を集めていた。
会場のチケットは数日前に完売。
配信待機人数もリーグ開幕以来の最高記録を更新している。
試合開始一時間前。
佐藤誠司はVIPルームのソファに腰掛けながら大型モニターを見つめていた。
普段と変わらない表情を作っているつもりだったが、内心は少し違う。
今日の相手は龍門。
日本最強。
三連覇王者。
このチームを倒さなければ世界一など口にする資格はない。
隣に座る美月が静かに口を開いた。
「緊張してますか?」
誠司は少し笑った。
「するよ」
「意外です」
「なんだよそれ」
「もっと堂々としてるかと思ってました」
「俺だって人間だからな」
そう答えると、美月も小さく笑った。
緊張しているのは誠司だけではない。
チーム全体がそうだろう。
ただ、それを表に出さないだけだ。
モニターには選手たちの様子が映っている。
今日のスタメンはTIGA、Rei、KING、ANGEL、SAGE。
ここまで勝ち続けてきたBLUE HAWKのベストメンバーだった。
NOVAとEDGEは控室から試合を見守る。
美月が映像を見ながら呟く。
「大丈夫でしょうか」
誠司は迷わなかった。
「大丈夫だ」
根拠はある。
ここまでの努力を知っている。
毎日深夜まで続く練習も、敗北を恐れず挑戦し続ける姿勢も見てきた。
だから信じられる。
会場の照明が落ちた。
歓声が一段と大きくなる。
選手入場の時間だった。
最初に現れたのは龍門。
王者の入場に会場が揺れる。
特にエース・龍牙が紹介された瞬間、その歓声は一段階大きくなった。
誰もが知るスター選手。
日本最強と呼ばれる男。
その存在感は圧倒的だった。
だが。
BLUE HAWKも負けていない。
TIGAが登場する。
歓声が起きる。
ANGEL。
SAGE。
KING。
次々と選手が紹介されるたび会場が盛り上がる。
そして最後。
Rei。
その名前が呼ばれた瞬間、今日最大級の歓声が会場に響いた。
誠司は思わず笑ってしまう。
半年前。
誰も知らなかったチームだ。
世界一を目指すと言っても笑われた。
だが今は違う。
BLUE HAWKは確かに日本トップクラスの人気と実力を持つチームになっていた。
「ここまで来ましたね」
美月が言う。
誠司は静かに頷いた。
「ああ」
始まりは単純だった。
世界大会で負ける日本チームを見て悔しかった。
環境が足りないなら作ればいいと思った。
ただそれだけだった。
だが今は違う。
選手がいて。
ファンがいて。
チームがある。
その全てが誠司にとって大切なものになっていた。
実況席から朝倉翔太の声が響く。
「さあ始まります!無敗のBLUE HAWK対三連覇王者・龍門!」
会場が沸く。
選手たちが席へ座る。
ヘッドセットを装着する。
準備完了。
STRIKE FRONTIERのロゴがモニターへ映し出された。
そして試合開始。
最初の制圧エリア争奪戦。
中央エリアへ両チームが集まる。
序盤から激しい撃ち合いが始まった。
TIGAが前線を押し上げる。
ANGELが支える。
SAGEが敵位置を共有する。
KINGが横から圧力を掛ける。
そしてRei。
敵DPSを一瞬で撃ち抜いた。
会場がどよめく。
「先制はBLUE HAWKだぁぁ!!」
実況の絶叫が響く。
美月も思わず前のめりになる。
「取った!」
だが。
龍門は王者だった。
動揺しない。
焦らない。
一人落とされても冷静に立て直す。
フォーカス。
ポジション。
スキル管理。
全てが異常なほど洗練されていた。
気付けばポイント差は埋まり、戦況は再び五分へ戻る。
誠司は思わず息を吐いた。
「強いな……」
その言葉は自然と漏れた。
龍門には隙がない。
誰か一人が突出しているわけではなく、全員が高いレベルで噛み合っている。
だから三連覇できる。
だから王者なのだ。
試合は激しく揺れ動く。
Reiがキルを取る。
龍牙が取り返す。
KINGが突破口を作る。
龍門のサポートが止める。
TIGAが前線を押し込む。
龍門タンクが耐え切る。
ポイントは拮抗したまま進み、会場の熱気もどんどん高まっていく。
だが誠司は勝敗だけを見ていたわけではなかった。
選手たちの表情。
スタッフの動き。
観客席の反応。
ファンの歓声。
その全てを見ながら思う。
本当にここまで来たんだな、と。
まだ何も成し遂げていない。
試合も始まったばかりだ。
それでも今この瞬間だけは胸を張れた。
BLUE HAWKは間違いなく王者と同じ舞台に立っている。
その事実が誠司には何より嬉しかった。
「面白いな」
思わず笑みがこぼれる。
隣の美月も頷いた。
「はい」
世界一への道はまだ遠い。
だが確実に前へ進んでいる。
モニターの中では再び集団戦が始まる。
三連覇王者・龍門。
無敗の挑戦者・BLUE HAWK。
日本最高峰の戦いは、ここからさらに熱を帯びていくのだった。




