(ジン×ミチル)「夜な夜な磨く……?」
ミチルは今、ピンチに陥っている。
「ど、どうしよう……」
足元には真っ二つに割れた、大切なもの。
ちょっと手が滑っただけなのに。掃除のついでにガシャンと落としてしまった。
ジンの、なにかの大会で、なにかの賞を取った時の、なにかの盾的なものを……!
「まーずぅうーい……ッ!」
ミチルは動転してその場でジタバタ。
諸悪の根源であるハタキは真っ先に放り投げた。
「せんせが夜な夜な磨いて、過去の栄光に悦ってるヤツなんじゃなぁい!?」
動転し過ぎて、ミチルは妄想と現実がごっちゃになっている。
ジンが夜な夜な悦に入ってるのが本当は何であるか、ミチルは嫌というほど知っているはずなのに。
「やばいぃい! もうすぐせんせが帰ってくるうぅう!」
ミチルは狼狽えながら、罪の証(二つに割れた盾のこと)を抱えて逃げ出した。
どこへ逃げるって? とりあえず今の時間なら誰も来ない風呂場だ!
ミチルは道場の大きな浴場へ、さらにその広い浴槽に隠れる。ご丁寧に蓋まで閉めて。
動転しまくっていて、今のミチルに正常な判断は出来なかった。
静まり返る風呂場。
誰も来ないから反響さえしない。
ところで今日はけっこう温度が高めでよい天気だった。
蓋まで閉めてしまったミチルは、段々と汗だくになっていく。
「ふええ……」
動転し過ぎて風呂の中で熱中症になりかける。
なんておバカ過ぎるんだ。オレってマジなんなの。
ミチルが意識を手放そうとした時、浴槽の蓋が開けられた。
「何をしているのだ、シウレン」
「せっ……!? せせせ、せっ!?」
ミチルは「せんせえ」と言いたいだけなので、あらぬ想像はしないでください。
簡単に見つからないと何故か思っていたミチルは、ジンが真っ直ぐ風呂場に、自分めがけてやって来た事実に度肝を抜かれていた。
「汗だくではないか。風呂場からお前の匂い♡がムンムンしているぞ」
「ウソだぁーヘンタイだあぁー!」
己の体臭については、お花だのミルクだの夢みがちに語られてきた。が、この度のジンの形容はちょっと生々しい。
ていうか、蓋をぴっちり閉めていたのに、そんなもんかぎ分けたの!? ヤバ変態じゃん!!
ミチルは改めて最愛の師範が、限界超越〇〇〇だと知る。
「どうしてこんな所に……うん? それは?」
ミチルとともに浴槽に置かれている折れた盾。ジンが気づかないはずがない。
ミチルは観念してその場で土下座。
「割っちゃいましたあ、ごめんなさいっ!」
「何、シウレン、怪我はないか?」
「……ぷえっ?」
ジンはすかさず自らも浴槽に滑り込んで、ミチルの両手を取る。しげしげと見て、傷がないのを確認するとほっとため息を吐いた。
「ああ、良かった。この盾は硬い石で造られているからな、鋭利な破片で切ったら大変だ」
「せんせえ……タテ、壊して、怒ってない?」
ミチルが恐る恐る聞くと、ジンはこれまでの変態発言も吹っ飛ぶほどの美しい顔でクールに笑う。
「フッ、儂がこんな盾に不自由すると思うか? これはただのオマケだ」
さらにキラリと金眼輝かせ、とんでもない美しさでカッコつける。
「儂の『最強称号』はこんなものでは言い表せない……ゾ!」
ちょっと語尾がダサいけど。
ミチルのオトメ心を射抜くには充分です。
「せんせえー! 好きぃー!」
なんかもう、全てがどうでも良くなりました。
ミチルはトキメキの赴くままに、ジンに正面から抱きついた。
「おお、よしよし。ふっふ、シウレンが汗まみれで良いニホヒだ……♡」
「ヘンタイぃー! でも、好きー!」
そうです。師範は変態なんです。
ならば、この後もどうなるかわかりますよね。
「シウレンよ、せっかく風呂場にいるのだ。大いに汗を流そうか」
「ぴぴ……っ!」
師範の華麗な手つきがミチルを襲う!
「じっくり、ゆっくり、準備してやろう……なあ♡」
「ぴゃあ、ぁああ……ッ!」
風呂場が反響します!
それはもう、誰も近寄れないほどに!
そして今夜もジン先生は悦に入るのです……
ミチル以外を構ってなどはいられないのです。




