(ジン×ミチル)「弟子は地獄を見たようです」
どこかの変態師範のせいで、朝が遅くなりました。
だけど師範の朝は早いです。理不尽ですが、負けていられないと思いました。
「シウレン、シウ……ッ、レーン!!」
どたどたと、どかどかと、大きな足音が響く。
同時に特異な言語が聞こえてくるので、その正体は道場の主だと誰もが思う。
結果、だいたい無視される。
そんないつも通りの光景……にしては、少し時間が早いか。
「シウレぇええン!」
変態師範……もとい、毒舌師範のジン・グルースは、寝癖のついた長髪を振り乱し、寝間着のままで台所に駆け込んで来た。
「ああ、せんせ。おはよー」
ミチルは少し眠そうにしながらも、白米を握っていた。その手元には「おにぎりのようなもの」が散乱している。
「シウレン! 何故先に起きた!?」
ジンは血相を変えてそんな事を聞く。
いや、「そんな事」ではない。彼にとっては「一番重要な事」である。
「えっ? えへへ……まあねえ、えっとねえ」
ミチルは少し照れつつ、手元の白米握りを気にしつつ言葉を濁す。
せっかちなジンは己の欲望から先にひけらかした。
「何故、儂の腕の中におらんのだぁあー! 目が覚めたら儂だけって、死ねと言うのかぁあー!」
「お、おお……」
涙を浮かべて、ぶるんぶるん震えて訴えるジン。その迫力に、ミチルはうっかり「悪い事したな」とか思ってしまった。
「あんなに昨晩、儂の×××でお前は××ったのに、朝まで××でなくては×××ではないかあ!」
「黙れえ! どヘンタイ師範めえ!」
改めて聞かされる耳の不幸。ミチルの耳は腐らずとも中耳炎くらいにはなりそう。
「儂はな、毎朝、あわよくば再び♡♡♡を狙っているのだぞ! 今朝はその気配すらないなんて、殺す気かぁあ!」
「黙れって言ってんだろぉおおおっ!!」
耳が腐る前に、師範の口を塞がなければ。唇で、とかロマンティックには無理。
ミチルは風呂敷包みを師範めがけて投げつける。
だが、顔には投げられない。美形に傷がつく。
ミチルは思いっきりジンの胸元に、大量のおにぎり(のようなもの)を叩きつけた。
「……むっ! なんだこれは!?」
「お弁当だよお! 今日は朝から出稽古だろお! しっかり指導してこぉおい!!」
ヘンタイを口走って、ヘンタイ行為に走る前に、このヘンタイ師範を送り出さねば。
ミチルが自分で設定したジンのための使命である。
「な……なんと、シウレンが、儂のために……弁当……ッ!!」
結局、滝のような涙が湧き出るジンの輝く瞳!
オジサンなので涙腺が弱い。最近はミチルが萌え行動に出ると必ず泣いている。
そんな姿を見ていると……
ヘンタイ的なのに、とても愛おしいっ!
やっぱり塞ごう、唇で!
むっちゅー♡
「……ふおっ!」
咄嗟にされたミチルからのキッスは一瞬だった。
ミチルも色々学んでいる。軽やかにバックステップで距離を取った。
ジンの唇を襲ったりしたら、次の瞬間、即♡♡♡!
だがこれから彼は出稽古に行かなければならない。そんな暇はない。
ていうか遅刻なんてさせたら、「ジン先生ってば愛人と×××って××らしいわよ」と噂されてしまう!
「行ってらっしゃいッ!!」
ミチルは脱兎のごとく台所から逃げ出した。
とりあえず、日中は職務を果たして欲しい。邪魔はしたくない。
さすがのジンも、ミチルの心意気に胸を打たれたか、追って来る事はなかった。
その夕方……
「シーウーレーン……ッ!!」
特異な言語とともに、特異なカレピ♡の御帰還です。
「あ、おかえり、せん……っ」
むいむい、もんもんもーん!
「ほやああああっ♡」
特異な擬音満載で、夜が更けていきます。
やっぱり朝は遅くなります……




