(ルーク×ミチル)「美大生の昼下がり」
オレの名前は坂之下ミチル!
平凡な大学に通う、平凡な大学生さ! だけど今、オレは都会のオシャレタウンでオシャレカフェバイト中!
ここで働いている時だけ特別な制服を着て、特別なオレになれるんだ!
特別なオレには、いつかきっと特別な「最愛」が……
最近、気になっているお客様がいます。
昼過ぎにやってきて、同じ席に座り、そこで刺繍をしている若い男の人。
ちょっと緑がかった黒髪、濃いめの肌でエキゾチックな雰囲気のイケメンです。
「すみません」
ああっ、あの人が店員を呼んでる!
絶対にオレが御用聞きに行くんだ! ダッシュ!
「ご、ごご、ご注文ですか?」
「はい。ロイヤルミルクティー、おかわりで」
「かしこまりました!」
当店で一番高いドリンクを、今日で三杯目。お金持ちなのかな、若そうだけど。
でも……多分、そこの美大の学生さんだよね? 何回も観察してるからそれくらいはオレにもわかる。
「あ、あのー、コーヒーだったらサブスクがあって、おかわり自由でお得ですよ?」
美大イケメンさんはほとんど毎日、多分授業が終わるとここに来る。
日が暮れるまでここで刺繍をしてるんだ。その間に一番高いロイヤルミルクティーをたくさん飲んでくれる。
太客だって店長は喜んでるけど、いつかお金が尽きて来なくなっちゃうんじゃない?
オレはそれが不安で、勇気を出してコーヒーサブスクを勧めてみた。
「あっ、ごめんなさい。ぼく、コーヒー、苦手で……」
「ふああ! 余計なこと言いました、すみません!!」
オシャレカフェに来る人はみんなコーヒーが飲めるとかは、オレの偏見だったんだ、恥ずかしい!
好きなものを頼めばいいじゃない、そのためにメニューがあるんだから!
「いいえ。あなた、優しいね。ありがとう」
「きゅーん!」
優しい翠色の瞳がオレに笑いかけます! すんごい幸せです♡
舞い上がっているオレに、美大イケメンさんは照れながら続けた。
「ここのロイヤルミルクティー、とても甘くて美味しい。作業が捗ります」
「作業……って、うわあ、すごく綺麗!」
その手元を見ると、白い布の上にめっちゃ綺麗な刺繍が施されてる!
金色を基調にして、オレにはなんの模様かわからないけど、見ていると心がほんわかする感じだ。
「ありがと。このお店来て、インスピレーション、湧きました。もうすぐ完成、コンクール、出します」
「ふわあ、そうなんですねえ! こんなに綺麗だもん、優勝間違いないですよ!」
「ふふ、だといいけど」
やだあ、はにかむイケメン素晴らしい♡
思わず世間話が弾んで、オレは幸せな気持ちで胸いっぱいになった。
「これ、出来たの、あなたのおかげです」
「ふえ?」
美大イケメンさんは、ゆっくりと顔を上げてオレを見つめてきた。
翠色の瞳、キラキラ輝いてドキドキします。
「あなたが笑顔で、毎日ぼくに紅茶、運んでくれた。それで、インスピレーション湧いた、から」
「ふええ……」
そんな、オレはただ、貴方に萌え萌えしながらドリンク運んだだけですけどお。
「あなたの名前、なんですか?」
「ミチルですぅ……隣町の大学一年生ですぅ」
「ぼくはルーク。同い年だね、嬉しい」
「ルーくぅん……♡」
やだあ、自然と身バレしちゃったけど、口が滑って良かったあ。
美大イケメン・ルークはにっこり笑って、それからちょっと真面目な顔でオレに言う。
「ぼく、コンクール、頑張ります。これで取れなくても、次も作ります」
「うんうん、頑張って! オレはロイヤルミルクティー運んで応援するよ!」
「ぼくの作品、ミチルのおかげで完成出来る。コンクールで優勝出来たら、ミチルに告白します」
「ぴえええっ!」
告白って、なんですか? 好きな食べ物教えてくれるとかですか!?
ああもう、ラブが溢れてよくわかりません!
「きっとそんなに待たせない。だからミチル、ぼくを見ててくれる?」
「かしこまりましたぁあ!」
公認で見ても良くなりました、幸せです!
「ミチルとエンゲージ結ぶため、ぼくは糸を結び続けます……♡」
なんかうまいこと言いながら、プロポーズ予告されたあ!
その夜、オレはルークが刺繍したヴェールを被って式を挙げる夢を見ました……。




