(ジン×ミチル)「張り込み刑事–デカ–」
オレの名前は坂之下ミチル!
平凡な大学に通う、平凡な大学生さ! だけど今、オレは都会のオシャレタウンでオシャレカフェバイト中!
ここで働いている時だけ特別な制服を着て、特別なオレになれるんだ!
特別なオレには、いつかきっと特別な「最愛」が……
鋭い視線。それが店内を隈なく眺めている。
その視線の持ち主は……なんとまあ、とんでもないイケメン様なんです!
銀髪で長い髪をサラサラ靡かせて、金色の瞳が鋭く光る塩系イケメン。
だけど身に纏うオーラみたいなものが、危険な香りを放っていて。オレは二つの意味でその席には近づけない。
ああ、だけど。そろそろその人のコーヒーカップが空です。
実はあの人おかわり自由のサブスク会員なんです。だからオレはあの人にコーヒーを淹れに行かないといけません。
「ここっ、ここっこ、コーヒーのおかわりはいかがですか?」
イケメンに話しかけるの、マジ緊張する!
「ん。注いでおけ」
「はひっ」
銀髪イケメンさんはオレを見もせずに店内をずっとジロジロしている。
ていうか、大丈夫かな。こんな挙動不審者、ヤバくない? イケメンだって喜んでる場合じゃなくない?
そんな事を今更考えていたら、コーヒーがナミナミを超えてドボドボになって、飛び跳ねてしまった。
「……あ、っつ!」
「ああああ! ごごご、ごめんなさい!」
ぎょわー! お客様にコーヒーかけるとか、新人バイトじゃあるまいし! ……あ、オレ、新人バイトだった。
「だ、だだ、大丈夫ですかっ!」
どうしよう、怒られる。怒鳴られる。店長呼ばれる……クビかも?
思わずカタカタ震えるオレを、銀髪イケメンさんは初めてじぃっと凝視していた。
──叱られるッ!?
「……かわゆい」
「ほへ?」
「ン、ンンンッ、儂なら大丈夫だ。気にするな」
──優しかった!
鋭い視線とは裏腹に、今の顔はなんか赤くて優しくなってる!
「すみませんでした!」
今のうちだ。さっさとテーブルを拭いて去ろう。そんでもって遠くからイケメンは眺めよう。
オレは布巾をコーヒーで真っ黒に染めながら、すでに足は席から遠ざかっていた。
「失礼しま──」
「待ちなさい」
「ひいいっ!」
やっぱり叱られる! オレは覚悟を決めて立ち尽くす。
けど、銀髪イケメンさんはぶすっとしながら、向かいの席を指差した。
「ちょっと、そこに座りなさい」
ぎえええ! 本格的にこんこんと怒られる!
気迫に負けて座ってしまったオレに顔だけ近づいて、銀髪イケメンさんが小声で囁いた。顔がイケてる。
「実は儂は警〇庁捜査二課の者だ」
「ほえええ! け、刑事さんですかっ?」
思わず声を上げてしまったオレに、イケメン刑事がシーッと人差し指を口元に当てた。
「刑事ではない、警部と呼びなさい! 実はこのカフェをとある人物が裏取引に利用しているのだ」
「な、なるほど……」
つまりイケメン警部は張り込みをしていたのか。なんかすごい、ドラマみたい。
「シルバーフォックスという男なんだが、知らないか? 目印にいつも桃色の髪の毛の少年を連れているという」
「ああ、知ってます。たまに来ますね、その二人」
特にピンクの髪の男の子は何故かオレに懐いていて、おしりをぷりぷり振ってくるからよく覚えてる。
オレが頷くと、イケメン警部は少し興奮して言った。
「まことか! そうか……やはりな。ならば……」
「?」
イケメン警部は少し何かを考えた後、オレの手を握ってとんでもない提案をしてきた。
「貴様、今から儂専属の情報屋をやりなさい! これが名刺だ、二人が店に来たらすぐに連絡を!」
「え、え、えええ……?」
「貴様の名前は?」
「ミ、ミチルです……」
何がどうなっちゃうの? ていうか握られたおててが熱いです!
「そうか、かわゆい! だが任務中はシウレンと呼ぼう、よいな、シウレン!」
「え、えええ……?」
「儂はジン。だが、任務中は先生と呼びなさい! 儂とお前だけの呼び名、ダゾ!」
ウィンクバッチーン、慣れない仕草でもイケてる事に変わりはない。
ジン先生はさらにもう一枚名刺を取り出した。
「こちらは緊急連絡用だ。二十四時間、いつでも連絡してきなさい!」
それってもしかしてプライベートなヤツなんじゃ?
あれよあれよという間に、オレはコードネーム『シウレン』を与えられ、イケメン警部・ジン先生の連絡先をゲットしてしまった。
「ふっ、あまりに急ですまんな。だが、これも運命。かわゆいお前はこれで儂のもの……♡」
「……うん!?」
「次の休みには二人っきりで作戦会議だ、儂の私室にお前を逮捕する……♡」
「……ううん!?」
話題が急転しちゃって頭がうまく回りません!
「××をしっかり洗っておくように、儂からの宿題だ!」
「きゃああああ!」
ジン先生の胸に拘留されちゃう休日が来る!?




