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8月5日 その⑱

 

「──貴様も天上天下も、頭の上の直方体はマゼンタを示していたが、どうして触れなかったんだ?」

 砂漠を抜けてビル群に差し掛かった2人は、路地裏の室外機の上にそれぞれ座っていた。一息ついたところで、愛香が冷静になってそう問いかける。

 皇斗が攻めなかった理由も、天上天下が追撃しなかった理由も、正直に言って愛香には予想できていない。

 ──いや、正確には予想こそできれどどれも納得にいく理由が出てこない。


「──そうだな。理由を話すなら、余と天上天下の実力は拮抗してる」

「だから、勝てるかどうかわからなかった──そう言いたいのか?」

「ああ。余がどこから攻めても先手を打たれていた──その気がした」

 皇斗と天上天下は、一度戦闘を始めれば三日三晩続けることも可能な程に実力が拮抗した猛者である。いや、ラストバトルでは天上天下の方が本気を出していなかったから、真の意味で生死をかけた戦いになるのであれば、皇斗は敗北してしまうだろう。

 一触で殺せる現状はチャンスであると同時に、リスクでもあった。


「──殺すか、殺されるか。文字通りの現状で、勝負に出る程の余裕は余達にはない」

 皇斗は、自分の実力や責任を理解している。皇斗が死亡すれば、一気に戦力差は拡大するだろう。実際、1人で栄・冴恵香・光のクラス連合の戦力の大半を担っていた。皇斗は連合の太陽である。


「──天上天下を倒せる旨味は大きいが、余が死んだ時の痛手も大きかった。向こうも一緒だろう」

 まぁ、向こうには唯々諾々という一番の化け物がいるが。そう呟いて、皇斗は室外機の上から降りた。

 時刻は15時半を過ぎた辺りであった。炎天下の中、ものの30分で砂漠を駆け抜けた2人の体は汗ばんでいる。


「──栄と合流を図ろう。こっちには数の利があるというのが強みだ」

 愛香や皇斗は、孤軍で動いても問題ない──守る者がいないだけ動きやすいのだけれど、今回の作戦は「全員が生き残ること」だ。そのためには、全員が合流する必要がある。

 そもそも、作戦はクラスごとに転移する予定だった。そのため、合流できなければ意味ないのだ。


「──だが、当の栄はどこにいる? 合流しようにも、目印が無ければ合流なんぞできないぞ」

「ならば、一番目印になりやすいところにいるのだろう」

「夜の蛍光灯に蛾が集まっていくようだ。行くぞ、蝶の羽ばたきを見せてやる」

 愛香も勢いよく室外機の上から降りてそのまま一番目印になりやすいところ──すなわち、ビル群の一番高いところに移動していく。


 ──そこから、栄達と合流するのにはほとんど時間がかからなかった。


 ***


「──ドタバタしてて伝えられていなかったんだけど、そういえば百花から連絡が来てたよ。こっちに向かうように連絡しておいた」

「了解」

 俺達が、他のクラスの人を交換する様に引き入れた理由としてスマホでの連絡共有がしやすいというものがあった。スマホの持ち込みを可能にしたことにより、Q達のクラスに銃火器の持ち込みを許してしまったことになるけれども、それでもこのスマホの持ち込みは革新的であった。


「でも、問題はこの都会エリアでしか使えない事なんだよなぁ……」

 冴恵香が悲しそうにそう口にする。この文明の利器だって万能ではない。ビル群をちょっと離れたところに行くと、すぐに圏外になって使えなくなってしまう。百花から連絡が来たというのなら、この都会エリアにもう来ているという事だろう。


「──あ、そうだ。栄も自分のチームの人たちに連絡だけ送っておきな。今は圏外かもしれないけど、このビル群に足突っ込んだら見えるようになると思うからさ」

「了解」

 俺はそう言われて、今この場いないデスゲーム参加者の全員に連絡を飛ばしておいた。すると──、


「──あ、来たよ!」

 窓の外を見張ってくれていた純介が、そう声をあげる。誰が来たのだろう──そう思うよりも先に、純介から追加の報告が流れてくる。


「皇斗と愛香の2人が来た!」

「よし、迎えに行こう!」

 純介の報告を受けてすぐ、俺達は階下に移動する。きっと、2人は一番高いビルの中に入ってこっちのビルなど見向きもしないだろう。そう思っていたのに──。


「──ほら、やはり妾の当たりだな。栄が嬉しそうに駆けだしてくるところまで、だ」

 ビルの入り口にて、こっちを見て勝ち誇ったように笑いながらそう口にする愛香。


「何、何の話?」

「今、妾と皇斗で賭けをしていた。まさか一番高い建物の中にいるほど馬鹿ではないだろうから、どの建物で監視しているのか──というのをな」

「それで、余はこことは違うビルを出しただけだ。もっとも、外れたがな」

「な、成程……」


 先程まで一番高い建物の中にいるほど馬鹿であった俺は、愛香の予想が当たったことについて驚くことしかできない。何はともあれ、俺は皇斗と愛香というこのチーム最大の戦力と合流することができたのだった。そして、数分程待っていると百花も遅れてやってくる。


 ──これにより、8人と合流することに成功した。

 残りは10人。どうやって合流しようか。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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