8月5日 その⑯
──灼熱。
立っているだけで意識を失ってしまいそうなほどに熱いここは砂浜──ではなく、砂漠。
サラサラと細かい砂粒で覆われたそこは、絶景や樹海・ビル群など様々な景色が広がっているデスゲーム会場の中でも特殊な場所だった。
「──砂漠は嫌いだ。服が汚れるからな」
素足で立ったら足裏を火傷しそうになりそうな灼熱の砂上に、仁王立ちをしているのは愛香。
愛香と砂漠の思い出と言えば、第8ゲームで『砂漠の亡霊』と戦ったことになるだろうか。龍種の中で最も手強かったと記憶している傑物を思い出しても、愛香の砂漠の印象は覆らない。
そんな愛香と砂漠との因縁は、今回のデスゲームでまた増えそうであった。何故なら──
「──ここは魔境と化している。面倒だ」
遠くに見えるビル群を12時の方向に持って行くと、2時の方向に海が見えて10時の方向に森林が見えている。砂漠の出口は3つある。だが、デスゲーム開始から約3時間が経っても尚愛香がそこから脱せていないのは、今位置している砂の海で跳梁が跋扈しているからだ。
愛香の視線に映るのは、猫又一心不乱や大神天上天下・鬼龍院靫蔓に加えて鼬ヶ丘百鬼夜行。さらには人間甘言唯々諾々などと言った過去の生徒会メンバーとしてデスゲームを生き延びた歴戦の猛者達がうろついている他、会議場で見たガラが悪そうだが実力も兼ね備えているであろう人間どもであった。
第9ゲーム『極彩色の三重振り子』に参加している最強の連中が、互いを牽制する様に動き回っているのである。
「どうしてやつらはこうも砂漠にこだわるのか全く理解できないな」
砂漠反対派である愛香は、好き勝手に砂漠をうろついている輩を理解できない。だが、1人が抜けだせばパワーバランスが崩壊しそうなことも見て取れた。人間甘言唯々諾々が暴れ回っていないのは、彼が静観を好む性格をしているからだろう。彼の気まぐれで自分が生き延びていることを考えると、心臓に悪い。
「──そろそろ、この砂漠から抜け出さないと面倒なことになりそうだ。面倒な奴らを相手にするのは面倒だから、とっとと抜け出してしまおう」
独り言を口にした愛香は、そう口にして出口の方へと歩み出す。あえて接敵しないようにその場に止まっていたが、ついに彼女は出口の方へと動き出した。
それにより、愛香を理由に保っていた均衡が崩れ始める──。
「──やはり、面倒なことになりそうだ。駆け抜けてしまうか」
均衡が崩壊する予兆を即座に感じ取った愛香は、砂だらけの地面を蹴って駆け抜ける。金髪が揺れ、風邪が生まれる。
──が、砂漠を住処にする化け物たちは、それに追いつけないほど軟弱ではなかった。
その後方に迫ってきたのは、1人の傑物。唯々諾々を除けば、愛香の知る中で間違いなくトップに躍り出る化物。第8ゲームの最後に起こった王国戦争の難敵たちを、1人で蹴散らすだなんて荒業を成してしまいそうな紛れもない最強──。
「──やはり来たかッ!大神天上天下」
「逃がしはせぇへん、お嬢さん」
愛香の後方でそう微笑む関西弁のハンサムは、そのまま愛香の方へと手刀を振るい──、
「──だから嫌なんだ。砂漠は」
愛香は空中で体をひらりと翻し、両手をクロスするようにしてその手刀を受け止める。勢いのいい手刀は、そのまま愛香の体を数メートルほど後方に押すけれども、その腕を断つことはなかった。
「──力を分散させるとは。なかなかやるな」
「貴様の相手をしている暇はない。遊び相手なら他を当たれ。それこそ──」
皇斗の名前を出そうとした愛香だけれど、皇斗は潜伏して光のチームに入っている以上その名前を出すことはできない。だから、そこで口ごもることになる。すると──
「皇斗のことであればわかっとる。あんたら、協力関係にあるやろ」
「──お見通しというわけか」
やはり、仮面程度で隠すことはできないようだった。それ以上に、皇斗を自分のチームに参戦させなかったことが疑われる要因となったのだろう。
「だがまぁ、貴様らが参加することは想定外だった。バレても止む無しと言った感じだな」
「さよか。ほな、ここで愛香が死ぬことも皆にとっては想定外かな」
煽るようにそう口にして、天上天下の拳が愛香を襲う。天上天下の放つ拳は、速く重いが愛香にとって見定められない程のものではなく──
「──環境を利用するのも、強者の特権や」
そう口にして、天上天下は地面を蹴り上げて愛香に砂をかける。愛香は、咄嗟にその砂から体を守るようにして引くけれども、それが狙いで──
「終わりや。死ね」
「──全て余の想定内だ。まず天上天下が愛香を狙って動くことも、それに愛香が苦戦することもな」
「──ッ!」
愛香の体を掴んで自分の方に引き寄せてその攻撃から守るのは、第5回デスゲームメンバーが誇る最強──森宮皇斗。
ツートップが揃い、大神天上天下と対面する。そのまま、傑物とのバトルは続──
「しゃあない。ここは逃げるしかあらへんな」
──かない。
皇斗と愛香、両方の相手をするのは分が悪いと判断したのか唯々諾々は地面を蹴って後方に逃げていく。
「──反撃の機会だったのに。感謝しないぞ」
「感謝など求めて動いていない。それで構わない」
そう口にして、2人はビル群の方へと駆け出す。
怪物が跋扈する砂漠を抜け出すのには、まだ時間がかかりそうであった──。
天上天下であれば2人を討伐できるも可能ですが、邪魔が入ると面倒であったりまだ彼には色々やることがあるので一時撤退。皇斗相手だと平気で1日とか戦いそうですからね。両者にとって賢明な判断です。





