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8月5日 その⑪

 

「──」

「──」

「──」


 三人。

 39階の一室で、俺と智恵と冴恵香の3人はキャスター付きの椅子に座って黙っていた。

 先程のエレベーターの中で敵襲を警戒し智恵を抱き寄せたら変な勘違いをされてしまったようで、少し気まずい空気が凪がれている。弁明のしたさがあったけれど、すると智恵にも悪い気がするし、そもそもその機会が無かったしで何もできていない状況だった。

 このまま沈黙が続いても気まずさが倍増するだけだろうから、何か一つ話題を掲示して──


「他の」

「あのさ」

「そういえば」

「「「あっ……」」」

 俺と冴恵香、更には智恵の声が重なる。俺達は全員遠慮したような形になって、またそれぞれ黙り込む。


「じゃあ、俺からでいいか?」

 俺がそう確認すると、3人共頷く。とりあえず、この気まずい空気をどうにかすることが必要だろう。


「俺達はまだ2人だけなんだけど、冴恵香は誰かと合流できた?」

「あっ、そうだね。その話をしておかないと」

 冴恵香は思い出したように表情を変えて、胸の前で両手を合わせる。そんな反応をしてくれるのなら、誰かと合流できたということだろう。


「魁亜とは一回合流できたよ。それで、このビルをアジトにするってことにしたの。今は、魁亜が他の誰かを探しに行ってくれてるの。エレベーターが動いたら私がボタンを押して止めることになってるの」

「ああ、そういうことだったのか」

 きっと、冴恵香も仲に魁亜ではなく俺達2人がいてビックリしただろう。


「──このビルの出入り口は一つしか無さそうだから、ここから下を見張っていれば誰が来るかもわかるんだ」

 冴恵香は、座ったまま地面を蹴って椅子ごと窓際に移動する。俺達は立ち上がって、窓の方へと移動した。


 窓の奥には、先程俺達が歩いてきた道のりが半分ほど見えていた。先程、俺達がはしゃいだ絶景の湖も遠くの方が見える。ここで見るのと、現地で見るのはまた違った美しさがあった。

 もう半分は、ビルに覆われている。最上階に行けば、もう少し風景が変わるのかもしれない。


「高い……」

 智恵が声を震わせる。智恵は昔、隆貴達のことが原因で飛び降り自殺を実行したこともあるらしい。

 その時は奇跡的に生き延びたようだけれど、その時のことを思い出しているのだろうか。

 俺は、智恵の手を握る。すると、智恵は俺に少し体重を預けてくれた。


 真下を覗くと、確かに高い。ここから落下したら確実に死んでしまうだろう。

 今は、そこに誰かの姿が見えるわけではない。


「冴恵香はここでずっと覗いてたの?」

「まぁね。一人でもすることないからさ。だから、来てくれて助かったよ」

 冴恵香はそう口にして笑った。もう、先程のような気まずさは無くなっているようだった。

 冴恵香は地面を思いっきり蹴って、キャスターを思いっきり後ろに動かす。シャーっと音を鳴らしながら、彼女は先程までいたところに戻っていった。


「魁亜は大丈夫なのか?見張ってなくて」

「別にずっと見てなくてもエレベーターが動き出したらわかるから大丈夫だよ。エレベーターに乗って来なかったら魁亜じゃない人確定だし」

「成程」

 やはり、俺達がエレベーターに乗って来たのは正解だったらしい。冴恵香に止められた時は心臓が止まるかと思ったが、理にかなっている作戦だったようだ。


「──それで、さっき智恵は何か話そうとしてたけど、それは?」

 俺達も椅子の方に戻ると、冴恵香がそう話題を振るう。智恵は、思い出したように言葉を紡いだ。


「冴恵香は栄に色々似てるけど、兄妹姉弟なのかな~って。訊きたかったの」

「あー、その話ね。実は、私達もよくわかってないの」

「そうなの?」

 智恵が可愛い顔を俺の方へ向けてくれたから、俺も頷いた。実際、冴恵香や光との関係性は不明だ。


「誕生日も一緒だから二卵性双生児なのかなって思ったりしてるけど、結論はわからないまま」

「俺達の父さんのことだから、クローンとか言われてもおかしくない」

「確かに」

 どんな関係性であるかは不明だけど、何かしらの関係があるのは十分に推測可能だった。

 俺達のそんな返事を聞いて、智恵は神妙な顔つきで何か考え事をしているようである。納得がいかなかったのだろうか。


「──そう言えば、冴恵香もさっき言いかけてたけど、それは?」

「え?あぁ……えっとねぇ……」

 冴恵香は、少し恥ずかしそうにしながら頭の後ろを触る。どうしたのだろうか。


「エレベーターを開けた時にも思ったんだけどさ、栄と智恵ってラブラブでいいなーって思ってさ」

 冴恵香は少し恥ずかしそうに押してくれる。それを聞いて、俺もどこか恥ずかしくなっていた。


「冴恵香も魁亜とかと付き合ってるんじゃないの?」

「私が魁亜と?ないない。大事なところで助けてくれてカッコいいなって思う時はあるけど、普段があんなツンケンな態度だから。きっと私の事好きじゃないよ」

「そっか」

 見た感じ、魁亜は冴恵香に好意を持っていそうだったけど冴恵香がそう思ってるんじゃまだダメそうだ。

 俺達が変に動いて2人の関係を壊したくはないし、とりあえずは傍観に徹していよう。


 そう思った時、遠くでエレベーターが動き出す音がした。魁亜が誰かを連れて帰って来たのだろうか。

なんか永遠に忘れちゃってたけど、茉裕の前日譚です。

彼女の初恋が解釈不一致って人は読まない方がいいです。


https://ncode.syosetu.com/n2779mo/

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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