8月5日 その⑥
第9ゲーム『極彩色の三重振り子』のルール
1.各クラスごとにチームを用意し、そのチームの参加者は6人とする。
2.デスゲームを72時間生き残るか、8時間おきにどこかに出現するゲートを通るとゲームクリアとなる。
3.イエロー・マゼンタ・シアンの3色を16人ずつに分ける。
4.自分の色が無くなるか、黒に変わると敗北し、死亡する。
5.色の変化の法則性は、色の三原色に準拠する。
6.タッチされると、その色の有無が反転する。例を挙げるとイエローがマゼンタにタッチされたら赤になり、赤が再度マゼンタにタッチされたら黄色になる。そして、赤が青にタッチされたら緑に変化する。
7.同じチームの人が接触しても色の変化は起こらない。また、ゲームクリア及び敗北した人に触れても色の変化は起こらない。
──ここはどこだろうか。
デスゲームが開始されると同時、俺は周囲の安全と仲間の位置を確認する様に辺りを見渡す。
だが、目に入るのは木。木。木。
今いる場所は、木の葉で影ができており然程暑くはない。だが、気温のことなどどうでもいい。
大事なのは、チームの大半がいないこと。智恵を除いた4人とは、別々の場所に転移してしまったことだ。
「──敵は、いなさそう」
初っ端から唯々諾々や靫蔓・隆貴などと接敵していたら面倒なことになっていただろう。
だけど、どうやらそんなことはなくバラバラに転移したようだった。
智恵と同じ場所に転移できたのは、智恵と手を繋いでいたからだろうか。それとも、完全なる偶然だろうか。
デスゲームの開始の仕方は第6ゲーム『件の爆弾』を感じさせるものがあった。あの時のスタートは梨央と一緒だったけれど、今回は智恵と一緒。
手を繋いでいたから一緒だったのであれば、それは第8ゲームの中で存在していた魔法の一種である〈離散〉と同様のものだろうか。
──なんて、少しずつデスゲーム運営の使用する内情に詳しくなっているようで嫌になる。
けどまぁ、賢者は歴史に学ぶと言うし──そんな言い訳を心の中でしていると、心の中の蒼が唐突に現れて「今回の場合は経験だピョン。だから栄きゅんは愚者だピョン」だなんて挑発をしてくる。
もしこれを本人に伝えたら「僕に都合の悪いことを代弁させないで欲しいピョン」とか言うのかな~などと思っている暇はない。
俺は、蒼のことではなく頭の中を第9ゲームのことに戻していく。さようなら、蒼。しばしの別れ。
「──とりあえず、自分の色を把握しておくべきか」
俺は、智恵の方を見てそう問いかける。隆貴と対面した時の震えは収まっているようだった。手を繋いでも智恵の柔らかくてスベスベした肌の温かさが伝わってくるだけ。
「栄はイエローだよ」
「そういう智恵はマゼンタだ」
頭の上に、10cm四方の長方形が浮いている。横から見ても四角に見えるから、正確には立方体だろうか。今回は、この色がデスゲームの重要なポイントなのだろう。これほどの蛍光色であれば、遠くからも見つけやすそうだ。難点は、自分からは見えない事だろうか。
タッチをしてその人の色の変化を見るか、他の誰かに色を教えてもらう必要があるだろう。
「──そういうところで心理戦も一部含まれていう事か」
自分の色がわからなくなったら大変だ。俺のチームに噓をつくような人はいなさそうで安心だ。
「──じゃあ、他の皆と合流できるように動こうか」
「うん」
智恵は可愛らしく頷く。目的は、他の皆と合流することだった。そのためにも、まずはこの森を抜け出す必要があるだろう。
「──でも、どっちの方角に道があるのかわからないな」
今回のデスゲーム会場はよくわかっていない。第3ゲーム『パートナーガタ―』のように、開場が4分割くらいに分けられているのか、それとも第6ゲーム『件の爆弾』の時のように8割が森の中だろうか。それすらも現状不明である。
「智恵はどっちに行きたい?」
「うーんと……こっち」
「じゃ、そっちにしよう」
選択肢は無限大だったので、俺は智恵に進む方向を選んでもらう。情報が何もない現状、どっちの方向に進んでもそう大差はない。
「体力を温存するためにも、ゆっくり行こう」
「うん」
木々が多く生えており、地面は根っこで凸凹している。正直言って、鬼ごっこにはあまり適さない地形だ。ここは休憩を挟みながらゆっくり進み、どこかに辿り着くのが一番だろう。
俺は、智恵と一緒に森林の中を歩き始める。
葉っぱで影が出来ており、ヒンヤリとしている。だから、散歩するには心地よい。
もっとも、今回はデスゲームではなく散歩なので警戒は続行する必要がある。俺は、周囲を見渡して蛍光色が見えないか確認しながら森の中を歩いて行く。
「──ごめんね、智恵。こんなのに巻きこんじゃって」
俺の心にはまだ少し罪悪感というものがあった。智恵をデスゲームに巻き込んだのは俺の責任だ。
競っていた『六次元オズワルド』のルールは難解であり、3クラスが協力しても勝てるか怪しい──それどころか、自分以外のことを気にするのが難しいルールであった。だから、俺は智恵を参加させることを承知したのだけれど、やはりその後悔は大きい。
「ううん、大丈夫だよ。私は、デスゲームの中でも栄と一緒に居られることが嬉しいから」
「でも……」
「栄が私に申し訳なく思うのなら、私とずっと一緒にいて。起きる時も寝る時も。病める時も健やかなる時も。ずーっと一緒にいて」
「そんなことでいいのなら」
俺はそう口にして、智恵を抱きしめる。智恵が、嬉しそうに「きゃー」と声をあげる。
こんな、幸せな2人だけの時間が、ずっと続けばいいのに。それなのに──
「あれー?そこにいるのって、隆貴が狙ってた女じゃないっすかー?」
黒いスーツに身を包み、長い四肢をダランと垂らしながら面長の顔から下をチョロチョロ出しているアリクイのような顔の男。その頭上にはシアンの立方体が存在していた。
──森の中を抜け出さないままに行われた敵との邂逅。
──栄と智恵が息を呑む中でも、この会場の巨大振り子は時を刻んで動き続けるのであった。
「葵」を出したので、蒼の名前を誤字することが許されなくなりました。





