8月3日 その⑥
「『人質ポーカー』って書いたのは僕だから、僕が口頭で決めればいいんだろう?」
何の抵抗も無く否不未がそう名乗りを上げ、彼によって少し空気が乱される。
「──そうだね。僕の意見が通らないのは重々承知だし、反論が上がってこない以上君の投票で間違いなさそうだ」
否不未のペースに飲み込まれないようにそう返事をするロン。だけど、否不未の瞳に映っているのは彼ではなく──、
「──栄。どこに投票したのか、僕に教えてよ。君が条件を呑んでくれるのなら、僕は君が投票したところに投票するよ」
否不未は見ていると飲み込まれそうになる瞳で俺にそう語りかける。
「──条件って」
「簡単だ。デスゲームに智恵も参加させて欲しい。僕は智恵に会いたいんだ」
「──その条件を俺が飲むと思って提案してるのか?」
条件を提案して来た否不未に対して俺は睨んで返す。否不未のことも隆貴のこともあって、智恵をデスゲームに参加させるつもりは毛頭ない。
智恵を危険に晒すことは、俺にはできないのだ。
「──無理なの?無理なら、栄が入れなかった方に投票するからいいんだけど」
今、俺は重大な二択を迫られている。
正直に投票先を言うか、それとも嘘をつくか。
もし前者を選んだのであれば、否不未は『極彩色の三重振り子』を候補から即刻外すだろう。後者を選んだ場合、否不未が『六次元オズワルド』を候補から棄てて『極彩色の三重振り子』に入れてくれるかもしれない。だが、『六次元オズワルド』に投票した3人が名乗りを上げる可能性が考えられる。そうなった場合、否不未は機嫌を損ねて『六次元オズワルド』に投票してしまうだろう。
──最適解は、『六次元オズワルド』だと偽ってかつバレない事。
そうするためには──、いや駄目だ。
一瞬、疑われた時に『六次元オズワルド』に投票したと冴恵香や光にも証言してもらおうとも考えた。
そうすれば残された全員が『六次元オズワルド』に投票したことになって場が混乱するからだ。
有耶無耶にしてしまえばいい──そうも思ったけれど、よく考えれば冴恵香も光も『六次元オズワルド』に投票していないことは透けて見えている。
冴恵香は自分達が提案したゲームである以上、投票しているのは間違いないだろうし、光は『六次元オズワルド』に決定しようとして止めたのだから『極彩色の三重振り子』に投票したのは割れている。
その上で『六次元オズワルド』に投票したと偽ったことが判明すると、俺達3人の協力が実質的に明らかになってしまうだろう。
──そうなると、誰も頼れない。
自分一人の力でこの場を乗り越えて『極彩色の三重振り子』に投票してもらうよう仕向けるしかないのだろう。
「黙ったまんまじゃわかんないよ。君は智恵をデスゲームに呼んでくれるの?」
急かすようにそう問いかけてくる否不未。俺がデスゲームを口にしなくても、他の人に否不未が訊いたら『六次元オズワルド』に投票した3人は名乗りを上げてしまうだろう。
──袋小路か。
光がロンのイカサマを見抜いてくれたのに、それを俺が失敗して無駄にはしたくない。だが、智恵もデスゲームに参加させたくはない。
──ジレンマだった。一方を尊重すればもう一方がダメになり、逆もまた然り。
生き残るためには、どちらかを捨てなければならない。いいとこどりは許されない。
「──わかったよ、俺は智恵と一緒にデスゲームに参加する。これで文句ないか?」
俺がそう口にすると、否不未は目を大きく見開く。そして、あからさまに嬉しそうな表情をした。
心の奥がモヤっとする。これが最適解ではないことを知っているからだ。
「じゃあ、栄が投票した方に僕も投票するよ。どっちにいれたの?」
「『極彩色の三重振り子』だ」
「じゃあ、僕もそっちで」
──こうして、智恵をデスゲームに参加させることを条件に、今回のデスゲームが『極彩色の三重振り子』に決定したのだった。
「──ゲーム内容の決議に協力してくれてありがとう。詳しいルールは、冴恵香達のクラスとデスゲーム運営陣で少しすり合わせや調整があると思うからよろしくね」
「池本冴恵香さん、夕方ごろにお時間を頂きます」
イカサマをしたのにもかかわらず司会の立場から下りないロンが会議を終わらせようとしている。
「明日中にルールを確定させますので、ゲーム開始は5日しようと思います。皆さん、ご協力ありがとうございました」
マスク・ド・ティーチャーがそんな挨拶をするから、今回の会長会議は終了する。
「──それが最善策じゃないことをきっと君は知ってる、よね」
冴恵香が、足を組み体育座りをしながら早速そんなことを口にする。
会議後、冴恵香の寮に案内された俺と智恵を見て、最初の一言がそれだった。
部屋には光もいるが、彼は俺達の方を無視している。
「──ごめん、私達のせいで」
「冴恵香が謝ることじゃないよ。私は大丈夫──じゃないかもだけど、頑張るから」
冴恵香に向けて少し無理をして笑みを浮かべる智恵。それを見ていると俺の心も痛んでくる。
「──デスゲームのルールのすり合わせに参加できるかはわからないけど、とりあえず被り物教授が来るまではゆっくりしていってね」
冴恵香は俺と智恵にそう声をかけてくれたのだった。





