8月1日 その⑯
「──で、何しに来たよ。お前らは」
太陽がもう少しだけ猶予をくれそうな夕方。目つきと態度が悪いけれども俺達を助けてくれた青年はそう問いかける。
先程まで俺達を囲んでいた人達は背を向けて寮の方へ逃げてしまった。
「──俺達と協力して欲しい。その交渉に来た」
「断る」
彼には、話を聞く前に断られてしまう。
──が、ここまでは十分想定内だ。俺にも、冴恵香にも焦りはない。
「そう言うと思った。話を聞いてくれ」
「断る。とっとと帰れ」
「君のも利のある話だ」
俺がそう口にすると、彼は見下したような視線を俺に送る。その視線の意図を理解できなかったが、彼はこう会話に応じた。
「能天気過ぎて呆れるよ。こっちは有利不利で動いてねぇんだわ。それがわかったならとっとと帰れ、鶏共」
「──ッ!」
そう口にして、彼は俺達に背を向けて校舎の中へと戻っていく。全く話を聞いてくれない。聞いてくれなければ、こっちもどうすることだってできない。このままでは作戦が崩壊してしまう。一体、どうすれば──、
「──無理、しなくていいんだよ」
「──あ?」
校舎の中へ帰っていこうとする彼の足を止めるのは、これまで静観を貫いていた冴恵香の一言であった。
「無理に悪役を演じなくていいんだよ」
「何言ってんだ、勘違い女め」
「いいよ。私は何言っても否定しないよ」
そう口にしながら、同情するような優しい目で彼のことを見つめ続ける冴恵香。それを見て彼は、露骨に嫌そうな、苦しそうな表情を浮かべる。
「違う。俺はただお前達のことを心の底から軽蔑してるだけだ。チヤホヤしてくれるやつに囲まれて。自尊心を埋めるだけに人と仲良くして」
「うん」
「やめろ、そんな目で俺を見るな……!わかったように相槌を打つな!何もわかってない癖に!」
「ごめんね。私に全部はわからない。でも、辛いんでしょ」
「──ッ」
彼は歯ぎしりをする。冴恵香の言葉を真正面から受け止めきれていないようだった。
「大丈夫だよ。大丈夫。私は──、私達は否定しないから。全部吐き出していいよ。辛かったこと、嫌だったこと。全部吐き出していいよ」
「あぁ、クソが。やめろよ、そんなこと言うのは……俺はお前が嫌いだって言ってんだ」
2人のやり取りを見て、俺も状況をやっと理解した。
──きっと、彼はここで迫害されていたのだ。
デスゲームを通して何があったのか知らないけれど、彼は勝手に大罪を背負わされたのだろう。
だから、自分を守るために態度悪く振舞った。そう言ったところだろうか。
「──話位は聞いてやる。だから、付いてこい」
彼はそう口にして、ゆっくりと後者の中に入っていく。どうやら、冴恵香が口説き落としてくれたようだった。
「──冴恵香、ありがとう」
「ううん、私達の為じゃないよ。ただ、彼が辛そうだったから」
策謀のためではなく、心の底から彼のことを想って出た言葉のようだった。
***
「──それで、俺に何の用だよ」
案内された空き教室には、後数十分もしたら沈んでしまいそうな陽の光が直接入り込んできて眩しい。
それを真っ向から浴びながら、俺達は背中を照らされて顔に少し影がかかっている彼と対面する。
何を言われるかわからず緊張していたけれども、俺はその口を開いた。
「──俺達は、三クラス合わせて一緒にデスゲームを作りたいと思ってる」
「それは、3票集めて自分達の思い通りのデスゲームにするためか?」
「正解だ」
「誰だって考え付く平凡な作戦だろうからな」
「んなッ」
「──が、まさかそれを実行するとは思わないだろ。俺や、お前が」
そう口にして、彼は俺を指さす。
「──どうして」
「どうしても何も、どう見てもお前はあの場で多くの人と敵対してた。そして、俺はあの場で一度も喋らなかったし協力的な面を示したわけではない。ロンやコイツが動くならともかく、俺達が動くとは思わない。その点で、俺を誘ったのは賢いかもな」
「じゃあ──」
「──が、協力するかは全くの別問題だ。お前らに協力するってことは、お前ら以外に敵対することを明確にすることになる」
迫害されてはいるものの、聡明であることに変わりは無さそうだ。これだけの知能があればデスゲームでも周囲に溶け込めることもできそうなのに、彼をここまで狂わせのはどうしてだろう。
「──まあ、他のところは胡散臭いし利用してやるって気がプンプンするからな。お前らに協力してやる。一匹狼で行けるところも限られているからな」
彼がそう口にすると、冴恵香が嬉しそうな顔を浮かべる。そして──、
「ありがと~う!」
「やめろ、抱き着いて来るな!暑苦しい!」
冴恵香が抱きついていくから、彼が少し困ったような顔をしながらそれを拒む。そんなひと段落があった後で、俺達はやっと対等になった気がした。そこで──
「──で、かなり順番が前後した気持ちはあるけれど名前を教えてもらえないか?」
俺は、そう切り出す。彼は、まだ一度も名前を名乗っていなかったはずだ。実際、俺も名前を把握していない。
「──そうか。まだ名乗ってなかったか」
彼は目つきの悪いままでそう口にする。それがデフォらしい。
「──俺の名前は光。池本光だ」
「「──ッ!」」
その名が判明し、俺達は喉を鳴らす。大切なのは苗字の方だ。だって──、
「──嘘。アナタも池本なの?じゃあ、私達全員池本だ」
──ここにいる全員の苗字が池本であることが判明したのであった。





