8月1日 その⑭
「──協力関係を結びたいって言ってたけど、それについて詳しく訊かせて」
寮に案内された俺は、冴恵香の正面の椅子に座る。冴恵香の隣には魁亜が不機嫌そうに足と腕を組んで座っているし、俺の隣には穂泉が座って俺の方をその狐目で見ていた。
──かなり話ずらい環境ではあるけれど、冴恵香から敵視されていないだけマシだろう。
しかも、2人は結構冴恵香の尻に敷かれているようだった。俺に何か悪事を働いたら、冴恵香が怒ってくれるだろう。
「8月3日に、デスゲームの投票がある。そこではきっと、それぞれが自分自身の勝ちやすいようなゲームを提案してくれるはずだ。そうなると、票が割れるのは確実。そこで、何かの間違いでどこかが勝ってしまい自分達が圧倒的に不利な状況に陥るのを避けたい。それは、冴恵香達も一緒だろう?」
「そうね。間違いないし、私達が危惧していたことの一つ。私達は被り物教授──あ、担任達にデスゲームの制作を任せようと思ったんだけど、一票差で負けちゃったしさ……」
そう口にして、彼女は少し悲しそうな顔をする。俺と考えていたことは似ているようだった。
こうして向かい合ってみると、冴恵香は理知的な表情をしている。その黒髪が艶っぽい。
「──実を言うと、俺もだ。残る一票が誰かはわからないけれど、とりあえず俺は冴恵香と協力したい」
「わかった。デスゲームで協力するってことでいい?」
「いや、違う。その前からだ」
「──?」
「──成程な。このタイミングでお前がやってきた理由がわかったぜ」
冴恵香がわかっていなさそうな顔をする代わりに、魁亜がわかったような顔をする。
「──デスゲーム作りからお互いに優位に立てるような内容を考えたい。そういうことだろ?」
俺は魁亜のそんな言葉を聞いて頷く。冴恵香も魁亜の発言があって俺の意図に気が付いたようだった。
「デスゲームを作るところから協力すれば、そのデスゲームが選ばれる可能性は大きくなる。何せ、確実に票が2票集まることになるんだからな」
デスゲームを選ぶのも、デスゲームも自分達に都合よく動かす。それができれば、怖いものなしだ。
「──わかった、協力する。でも、肝心のゲームはどっちが作るの?流石に、2人で提案するってわけにはいかないでしょ?組んでることがバレたら危険視されちゃうだろうし」
「そうだね。組んでることを公表するわけにはいかない。だから、デスゲームを作るのはそっちに任せたい」
「面倒ごとを押し付けてるわけじゃないよね?」
俺がデスゲームを作るのを任せる旨を伝えると、穂泉はそんな疑問をぶつけてくる。勿論、そんなわけない。
「違う。これは協力するために必要な譲歩だ。もしかしたら、俺がすごく悪い人で冴恵香達を騙して自分達にだけ都合のいいデスゲームを選んでもらうためにこんな提案をしにきてるかもしれないだろ。だから、デスゲームの内容を決めるのはある程度は話し合い。その上で、冴恵香達の判断でデスゲームの内容を本決定する。そうしたい」
「──でも、私達が栄を裏切って自分達だけに都合のいいデスゲームを作るかもしれないよ?」
最もな話だ。俺の予想では、冴恵香はそんなことをしないけれども俺も想定が間違っている可能性は十分にある。そんなことを真面目に心配するような顔で訊いて来る人が裏切ることはないと思うのだけれど、俺は自分の主張を伝えておく。
「それは、信頼だよ」
「信頼?」
「そう。俺から冴恵香に頼み込んでるんだから、全幅の信頼を置く。それは、当然なことだ」
「──信頼……」
冴恵香は、その発言をゆっくりと咀嚼する素振りを見せる。そして、嬉しそうな笑みを見せる。
「信頼、そっか~。信頼かぁ。いいね。わかった、協力する」
「ありがとう。それで、ここからは提案だ。俺達の作戦をより堅実なものにするために、もう一クラスを仲間に引き入れたい」
「もう一クラス?」
「あぁ。1票よりも2票。2票より3票、だ」
「後はどこと組むの?」
「それはだな──」
──俺は、ここで一つのクラスの名前を出す。
すると、彼女は驚き魁亜と穂泉は警戒の色を見せた。
「──どうして、そこなの?」
「理由は色々あるけど、一番は彼にとっても協力が利益が大きい点だ。利益が大きければ大きいほど、裏切る可能性は低くなる。言動はまぁ……あれだけど。冴恵香が嫌なら協力を乞う人を変えるよ」
冴恵香は少し考える素振りを見せる。そして、2人に助けを求めようとするけれども──、
「──ボクは冴恵香にお任せするよ。嫌な思いをしたのはボクじゃないしさ」
「俺は反対だ。あんな野郎と仲良くしようとなんか思わねぇ」
「──だよね。じゃあ……」
「──が、これはあくまで俺個人としての意見だ。冴恵香の意見はどうなんだ」
そう問われて、冴恵香の髪が揺れた。俺の目の前で、冴恵香と魁亜の2人の視線が交錯する。
「──私の、意見……」
彼女は俯き、自分の意見を考える。そして、そこから出された答えは──、
「──協力したい」
「それでいいんだな?」
俺がそう問うと、冴恵香はゆっくりと頷く。その目には覚悟が宿っていた。心配する必要は無さそうだ。
「──ちなみに、決定打を訊いてもいいか?」
「決定打?そうだなぁ……」
彼女は唇に人差し指を当てて少し考える。でも、すぐにパッと手が離れて俺と目が合う。そして、ただ一言こう口にする。
「──信頼だよ。私から、栄への」





