8月1日 その⑫
──会議の終了から約3時間が経った15時24分。
「──本当に、1人で大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。逆にそっちに嫌な仕事を押し付けちゃった方が俺の心配事だよ」
4階から会議場に続いている階段の前で皇斗と健吾に見送られながら、俺は申し訳なく思っていることを伝える。右手にあった外靴の入ったビニール袋がくしゃりと音を鳴らした。
──2人には、会長会議に行かなかった人に茉裕達が死者連合として復活したことを伝えてもらうことを任せたのだ。
皆、それぞれ色々と思っていることがあるだろうが、拓人や茉裕が生き返っていることが判明した以上、一番心配なのは梨花のことだった。
恋人と、恋人を殺した人が同時に復活して敵として立ちはだかる。梨花はそれを聞いてどんな心境になるだろうか。
「──安心しろ。こっちは余が上手くやっておく」
皇斗が無表情でそう口にする。俺は、その言葉で少し安心が出来た、そんな気がした。
「──じゃあ、行くね」
俺はそう口にして、階段を踏み出す。そのまま、階段を上って会議場に続く扉へ手をかける。そして──
「──誰も……いないな」
扉を開けると、まだ記憶に新しい会議場がそこに広がった。クリーム色の壁が広がっており、俺が使用した出入り口の他に7つの扉が確認できる。
真ん中には白い円卓があり、それは会議が終わった時よりも白く磨かれいたような気がした。
中に人の気配はなく、先程まで溢れんばかりの人がいたとは思えないだろう。
「──えっと、まずは……」
俺は、先程彼女が座っていた場所の椅子の後ろにある扉にまで足を運ぶ。そして、今一度誰にも見られていないかを確認しながら扉を開く。すると──、
──下層へと続く階段。
上に続く階段が見当たらない以上、ここが最上階──要するに、俺達と同じ構造なようだった。
「アポなしで来ちゃったけど、大丈夫かな」
敵だと思われる可能性があって、俺は少し不安になって来た。でも、スマホに連絡先があるわけでもないからアポを取ることもできないのだ。
俺は、音を立てないように階段を降りる。4階。3階。
教室の間取りも、俺達の学校と同じようだった。とりあえず、迷子になる──ということは無さそうだ。
「──って、どこに冴恵香がいるかもわからないな。誰かに声をかける必要があるのか……」
だが、誰に話しかければいいのだろう。そんなことを思いながら、俺は更に2階へと降りていく。
夏休みなので当たり前とも言えるが、教室には誰の姿も無い。行くとして、寮に足を運ぶ必要があるだろう。
「──デスゲームって基本的に受動態だったから、こうして能動的に動くと不安になるな」
これまでは基本的に襲い掛かって来たものを返り討ちにする動き方をしていたから、こうして自分から動くことになるのは初めてだった。そう考えると、いつも後手後手な割によく乗り越えてきたと思う。
──と、そんなことを考えていると1階に到着してしまう。
ウジウジしてても仕方ないから、俺は勇気を振り絞って昇降口の方へと行く。靴を持ってきておいてよかった。俺は、適当な下駄箱に上靴とビニール袋を押し込んで外靴に履き替えた。
そして、寮の方へと移動しようとすると──、
「おい、誰だテメェ」
後方斜め上からそんな声が聞こえて、俺は体をビクリと震わせる。そして、体を大きく振り向かせると2階の窓枠に寝そべりながらこちらに視線を送っている金髪の男がいた。
見覚えがある。彼は──
「──って、お前池本栄じゃねぇか。敵地の偵察にでもやってきたのかよ?あぁ?」
そう口にして彼は立ち上がると、そのまま窓枠から飛び降りる。押し潰される──そう思って半歩後ろに下がるけれども、俺が立っていた場所の手前で着地した彼はそのまま俺の方へ進んで圧をかけてくる。
確か、魁亜と呼ばれていただろうか。名前を呼べば不自然に思われるかもしれない。
「敵地の偵察ってわけではなく──」
「じゃあなんで他クラスの将軍様が直々にここに足を運んでんだって話だよ、なぁ」
ここで言い淀んんでも駄目だ。そう思って、俺は睨んでくる魁亜に目を合わせる。
ピアスなども多く金髪にしておりチャラチャラしている印象こそ受けるが、顔立ちは良く真面目な好青年という印象を受けた。多分、装飾品が無くても十分にイケメンだ。
「──池本冴恵香と協力関係を結びたい。そのために、交渉に来た」
相手の目を見てそう伝えると、魁亜は目を細める。
「協力関係?お前と冴恵香が?」
彼は近付けていた顔を離す。会議場でも背が高い印象を受けたけれど、こうして近くで立ってみると想像以上に高い。190cm近くはありそうだ。
まぁ、俺の知ってる高身長には皇斗がいるからそれには劣っているけれど。
「──認められねぇな」
「──どうして」
「今日見た感じ、お前には敵が多そうだ。協力したら、冴恵香に敵が増える」
「そんなの──」
──結局、いつかは敵対する。そう口にしようとしたその時だ。
「──そうだ。結局、いつかは敵対する。だから、最初に潰されるってのがお前らってだけで次に俺達が来るって可能性も十分に考えられる。だから、一番問題はそこじゃねぇ。お前達の──お前の実力がわからない。そう言ってんだ」
実力。
要するに、どれだけ機転を利かせて危機を乗り越えられるかが大事──そう言いたいのだろう。
「──故に、実力を示してもらう」
「じゃ、ボクの出番ー?」
──後方。
要するに、校門の方からゆっくりと誰かが歩いて来る音がする。振り向くと、そこには──
「──君の喋らなくなった姿をずーっと見ていたいな。君ってどこか冴恵香に似てる気がするし」
俺達の方へと歩いて来るのは、魁亜と同様に会長会議に参加していた白髪狐目の男性。彼は薄い笑みを浮かべながら、俺に向かってこう続ける。
「ねぇ、ボクに見せてよ。君の全てを」
──そんなはずではなかったのに、彼らとの戦闘は避けられないようだった。
だが、ここで実力を示せれば俺は認めてもらえる。ならば、やってやる。
覚悟を決めて、俺は大きくを息を吐く。
──証明開始だ。





