8月1日 その⑪
「──智恵、ごめんな。あんなところに連れていって」
熱があるかのように、智恵の体が熱い。俺は智恵に肩を貸しながら校舎の4階へと続く階段を下っていく。
「──ううん。栄は、悪くないよ……」
振り絞ったような声で、智恵がそんなことを口にする。今にも消えてしまいそうな声だった。
まさか、会長会議に智恵の人生を破壊した橋本隆貴の姿があるなんて。考えもしなかった。
「智恵は会長会議に参加しない方がいいね。会議の空気も変わっちゃうし、喋れるものも喋れなくなる」
後ろで、純介が冷静にそう分析する。智恵を責めるようなその言い方は、きっと純介なりの優しさなのだろう。
智恵のことを心配しているから、智恵が参加しない理由及び責任を、智恵自身に与えている。
「──だから、智恵はお留守番しててくれ。大丈夫だ、見捨てたりなんかしないから」
俺がそう口にすると、智恵も小さく頷く。できれば、もう隆貴と顔を合わせたくないのだろう。素直に納得してくれた。
──やっぱり、最初に潰すべきは隆貴だ。
ロンや茉裕との問題もあるけれど、それ以上に隆貴という存在が邪魔だった。智恵がきちんと振舞えるようにするためにも、隆貴を殺しておく必要があるだろう。
──そして、俺達は一度家に帰ってから再び俺の寮に集まった。
智恵を寮に帰して、マスコット大先生がどこかに消えてしまった代わりに健吾がその場にはいる。
稜は救護室にいるから、今この寮にはいない。皇斗と愛香の2人も来てくれた。
「──それで、デスゲームを考える必要があるが、それはどうするつもりだ?」
「それに関しては、策がある」
「──成程?聴かせて見よ、栄の言う作戦とやらを」
「各々デスゲームを考えるという事は、それぞれに都合がいい内容を考えてくる──ってことだ。それを考えても、それぞれが自分自身に投票し、どのゲームでも勝てる自信があるであろう人間甘言唯々諾々だけが別のものに票を入れることになりそうだ」
俺のその考察に対して、反対意見は出てこない。きっと、皇斗も愛香も考えた事なのだろう。
「だから、俺は思うんだ。他のクラスと協力して、双方に利のあるデスゲームを作れれば勝率も上がるんじゃないかって」
「──唯々諾々が入れるデスゲーム以外が全て1票で収まると仮定するのであれば、それと合作が2票ずつで決選投票に持ち込めるというわけか」
「そうだ。唯々諾々が投票した者があまりにも無理難題であったり、そのチームの勝利が確定してしまいそうな内容であれば決選投票で俺達のものに票が集まる──ってことだ」
「色々と疑問点や懸念点は残るな」
愛香は、腕を組んだままそんなことを口にする。背もたれに寄りかかりながらそんなことを口にする彼女は、こう続ける──、
「──が、無策で行くよりも上手く行く確率は高くなるだろう。だからこそ、だ。それをやるなら確実性が欲しい」
皇斗も、愛香のその発言に頷いている。2票のままでは不安定──と言いたいのだろう。
「その作戦を取るなら確実に3票集めろ。要するに、妾達のクラスを含めて3クラス以上と協力しろ」
3票あれば基本的に投票で負けることはない──そう言いたいのだろう。2票であれば超えられてしまう可能性はそれなりにあるけれど、3票であればまず安心だろう。
「では、問題はどこと組むかだな。これに関しては、今後を踏まえても大事だ。作戦の上では最適だったとしても、他の皆の心証が悪くなる可能性も考えなければならない。クラスの内外、両方な」
「わかってる」
全体を見ると、組む候補は7択。
だけど、すぐに隆貴のいるクラスや非野否不未が候補から外れる。アイツらは智恵を狙っているから、協力してあげる代わりに智恵を頂戴──だなんて言ってくる可能性がある。智恵を渡したくないことなど説明するまでもないから、ここ2つはまず最初に除外だ。
5択にまでは絞れたけれど、協力してくれない可能性の方が高い──という点でここから更に3つ数を減らす。
まずは、茉裕を筆頭とする死者連合だ。拓人とかであればある程度話が通じるだろうが、あそこの最終決定権は茉裕にありそうだ。そうなると、協力を取り付けるのはかなり難しそうだった。
そして、結局名前がわからなかった態度の悪い青年も協力してくれそうにない。声をかけただけで罵詈雑言を浴びせられそうだ。だから、協力を仰ぐのは難しいだろう。
そして、人間甘言唯々諾々も無理だろう。彼はどの池本朗にも中立というポジションを崩さなさそうだし、単騎で最強だから協力する必要もなさそうだ。
──そうなると、自ずと2択にまで絞れてくる。
冴恵香のところか、ロンのところか。
「──ロンと組むなんかあり得ないな」
声を掛ければ組んでくれそうではある。だけど、向こうは一度こちらに襲撃して来たチームだ。
途中で裏切られてしまう可能性も高い。そうなると、冴恵香のところは確定として、3票目が余ってしまう。
「冴恵香とは協力関係が結べそうだけど、後一つはどこがいいんだろう。皆はどう思う?」
俺は他の皆にそう訊ねる。が──、
「──それを考えるのがクラス会長の仕事だろう。なんでも妾達に頼ろうとするな」
「愛香の言うとおりだな」
愛香に一蹴されて、俺は一人で頭を悩ませることに決まった。
──そして、1人で頭を悩ませた後に冴恵香の他に声をかける人物を確定させたのだった。





