8月1日 その⑧
「──僕、君のことをお嫁さんにしたいなぁ」
帰ってきた俺の左手の指に縋るようにしながら声を殺して泣いている智恵に対して、そんなことを言う少年。それには言葉を失ったし、智恵の「七つの大罪」を媒介にして覚醒させた憤怒が再燃しそうだった。
「──お前ッ!」
「あぁ、ごめんごめん。君の彼女さんだった?それに関しては謝るよ。じゃあ、少し子供を作らせて。男の子と、女の子。2人でいいからさ」
──傲慢だった。傲慢でしかなかった。
──強欲だった。強欲でしかなかった。
──色欲だった。色欲でしかなかった。
──怠惰だった。怠惰でしかなかった。
──暴食だった。暴食でしかなかった。
──嫉妬だった。嫉妬でしかなかった。
──憤怒だった。憤怒でしかなかった。
思えば、先程彼はこう言った。
僕以外にも『七つの大罪』をコンプリートしてる人なんていると思わなかった──、と。
それを踏まえると、お利口に椅子に座っている彼も智恵と同様に『七つの大罪』を全て保有しているのだろう。それが、にじみ出ていた。発言から、行動から。一挙手一投足から。
その人のことを考えない傲慢な物言いが、自分の事しか考えていないような強欲な振る舞いが、自分のマイナスを利点と勘違いして子孫を残そうとする色欲に塗れた人間としての本能が、お願いすることで全て手に入ると勘違いしている怠惰な慢心が、あろうことか2人を所望するその暴食な野望が、謝るよなどと口にして実際に謝った後に誤った対応をする嫉妬溢れる言動が、そして言葉の節々から感じられる憤怒に汚れた本心が、俺には透けて見えていた。
「──智恵は誰にも渡さない。これが俺の最小限にして、最大の主張だ」
俺は、その少年以外の全員にも言い聞かせるようにそう口にする。すると、静観を選んでいたであろうロンが口を開く。
「その真っ当な主張がこの理不尽な場で通るかどうかは、やっぱり会長会議でどれだけの権利を手に入れられるかじゃないのかい?今のところ、君はここ一番の問題児だ」
ロンの発言を聞き、周囲を見渡すと俺がほぼ全員を敵視しているように、全員が俺を敵視しているようだった。
冴恵香は俯いて何も口にしない。きっと、俺達の味方をしても自分たちの状況を悪くすることに気付いているのだろう。
「──だから、智恵ちゃんの処遇や所有権も含めてこの会長会議で決めてしまえばいい。そうでしょう?マスク・ド・ティーチャー」
ロンがそう口にして、先程「司会」を名乗っていた態度が悪いだけで、実は冴恵香達を除くと一番有害度が低かった青年の後ろに立つ担任──マスク・ド・ティーチャーの方へと視線を向ける。
「はい。池本ロン君。池本栄君を諭して場を収めてくださりありがとうございます。おっしゃる通り、ここは会長会議。皆さんの中の一番を決めてもらう場所です。最終的に1つのクラスが残ってさえくれれば、私達にとってその途中経過で何が起こっても問題ないです。無論、1人の女子生徒の処遇をどうするかについても同様です」
冷静さを欠きつつも、俺はクラスの為にこの場を乗り越えなければいけない。少しでも優位な立場に立てる形でこの会議を終える必要があるだろう。
「──それでは今回の、そして永遠の議題を発表します。それは、どうやってこの中から1つのクラスを決めるか、です。クラス担任7人で話を進めても、議論はそれぞれ水平線で交わることが無いんですね。そのため、皆様の中でどれが最も優れているかを決めて欲しいのです」
マスク・ド・ティーチャーが代表してそう口にしている。マスコット大先生も納得しているようだし、他の担任4人もそうだった。
──と、その時スラッと長い冴恵香の長い腕が挙げられる。
「先生、質問です」
「はい。冴恵香さん。どうしましたか?」
「今、クラス担任7人と聞きましたが、この場には6人しかいません。その件については?」
「鋭いですね。説明しましょう。まず、人間甘言唯々諾々君は調整役です。ザックリその存在を説明するのであれば、次元の崩壊を防いでくれる役割ですね。そのため、担任はおりません」
「次元の崩壊を……?」
冴恵香は納得してい無さそうだったが、これ以上の説明は無いようだった。
「そして、もう一人の彼──非野否不未君に担任がついていない理由ですが──、」
「全員殺しました」
非野否不未と呼ばれたその「七つの大罪」を全て持つと言う少年は、笑顔を絶やさずにマスク・ド・ティーチャーのセリフを奪った。
「ザっと十兆人以上はいたかな~。でも、全員殺しました」
「というわけです。彼の担任をしていたお面講師は全滅したのでいません。そのため、彼は本来参加するはずはなかったのですが、どうしてか乱入してしまったわけですね」
「いやー、エイプリルフールには全部終わって暇してたからさ。遊びに来ちゃった」
そう口にして、彼は頭の後ろを掻く。彼が、紛れもない化け物であることは間違いないだろう。
──まだ、俺の足元では智恵が声を殺して泣いていた。
これだけの化け物を大勢に敵を回して、自分達が生き残れるか不安だ。でも、負けることは許されない。
指を伝って感じる智恵の温度だけが、今の頼りであった。
会議参加者
1人目 池本栄 従者4人
2人目 池本冴恵香 従者4人
3人目 名称不明(態度が悪い青年) 従者0人
4人目 池本ロン 従者4人
5人目 名称不明(親父と呼ばれた中年) 従者4人
6人目 非野否不未 従者0人
7人目 園田茉裕 従者4人
8人目 人間甘言唯々諾々 従者0人
+各担任の刑6名
計34名





