8月1日 その⑤
──沈黙。
それからの十数分は沈黙が続いた。仕方ないだろう、殺し合い寸前にまで至ったのだから喋れる雰囲気ではなかった。
そもそも、名乗らなかった態度の悪い会長の一人は「うるさかったからキレた」というのだ。半分暴論だし、半分八つ当たりのような理由だとは思うけれども、それを無視して話すほど俺も馬鹿ではなかった。
だから、沈黙が続く。
喧嘩を知らない誰かがやってきて、この空気を打破してくれることを願ったのだけれど──、
「──ただいまを持ちまして、集合予定時刻の12時になりました」
態度の悪い青年の後ろに従うマスコット大先生似の人物──被り物ではなく、タイガーマスクのようなもので顔を覆っている教師がそう口を開く。
依然として、椅子に座っている会長は3人しかいない。
「──じゃあ」
「会長会議に辿り着いた参加者は3人──ってこと?」
俺と冴恵香が同じ事実に気が付く。七不思議其の参を妨害してきたロン達の軍勢は現れていないのに違和感を覚えるけれども、もしかしたらこの態度の悪い青年の仲間──というのも有り得る。
そして、俺は「会長会議に参加しないと死ぬ」というルールがあったのを思い出す。そうなれば、残り5組は七不思議其の参までに全滅したか、それともクリアできなかったのだろうか。どちにせよ、敵が少ないのは願っても無い僥倖だった。が──、
「いや、3人じゃないよ。僕達もいる」
そう口にして、会議室にある唯一の扉から入って来たのは5人──いや、それ以上の個性的すぎる集団。その先頭には──
「──池本ロン」
愛香がそのその名を呼び、俺は初めてその男性が七不思議其の参に間に襲撃してきた男であることを理解する。確かに、俺の顔に似ている。
池本栄に池本冴恵香、そして池本ロン。池本姓の人物が3/8揃ってしまっている。
「──マスコット大先生。これは遅刻じゃないんですか?」
俺は、後方にいるマスコット大先生にそう訊ねる。だが、答えたのはロンの後方にいた被り物をした先生で──
「厳密に言えばこれは遅刻かもしれません。ですが、私はこの遅刻を容認しました。ですので、問題ないのです」
「──マスコット大先生?あの言い分は通るんですか?」
「本来であれば通りません。が、通ってしまったので仕方がありませんね」
「はぁ?」
流石に納得がいかないけれど、振り向いてみるとマスコット大先生も困り顔をしていた。きっと、彼も納得していないのだろう。あまりマスコット大先生を責めても仕方がない気がしたので俺は黙り込む。
「──と、流石にこれだけの大人数で来たのは流石に無理がありましたね。ロン君、会議室の容量の関係でやはり5人にまで減らせませんか?」
「今から会場を変えることは無理なのかい?全員が入れるサイズに変えることは」
「──可能です」
ロンが、彼の担任とそんなことを話している。本来であれば、会長会議に参加できるのは会長含めて5人に、プラスして担任だったはずだ。それなのに、数えきれないほどの人数を連れているのも遅刻と同様にルール違反でしかない。
──と、そんな話をしていると円卓を中心においていた狭い会議室が膨張して広くなっていく。そして、雪崩のように人が流れ込んできた。
「──皆、他の人には迷惑をかけないようにね。今日はあくまで話し合いに来たんだ」
ロンが優しくそう声掛けをするだけで、人はそれに従って動いて行く。俺達に近付いてくることもあれど危害を加えてくるようなことはなかった。全員が全員個性的で、とても認識しきれない。
「──それで、僕の遅刻は例外で認められたけど他の人の遅刻は認められないはずだ。だから、今回の会議の参加者は4人──」
「──否。5人だ」
突如として円卓の唯一椅子を置かれていない空間に姿を現したのは、赤い十字架に磔にされて顔の皮を全て剥がれた最も神に近い──否、神すらも優に超越した紛れもない最強の第二回生徒会メンバー、人間甘言唯々諾々であった。
「──ッ!人間甘言唯々諾々!」
「遅刻ではない。それどころか、俺はここにいる誰よりもこの会場に足を運んでいた。その上で、離席していただけだ……」
そう口にする人間甘言唯々諾々。ある程度武を極めた人であれば感じることのできる、その「最強」のオーラに中てられて倒れる人が続出する。
皇斗や愛香は、一度会ったことがあるから問題ないようだった。
「──唯々諾々がどうしてここに」
「俺も会長。それだけだ」
──そうなると、人間甘言唯々諾々も今回の会長会議では敵になる。それを考えると、頭が痛くなってくる。
「──随分と強そうな人が来たわけだ。しかも栄君の知り合いっぽい。君の人脈はスゴイねぇ。僕以上かも」
そう口にしながらも、ロンは余裕そうにニコニコと笑みを浮かべている。冴恵香や口の悪い青年会長が緊張した顔つきになっている以上、ロンも相当な胆力を持っているはずだった。
「──で。倒れてないのは僕含めて5人?仕方ないなぁ……。覆ちゃん、皆を教室にそれぞれの家に戻しておいて」
「承知しました」
覆ちゃん──そう呼ばれたロンの担任が、唯々諾々の瘴気に中てられて倒れているロンの軍勢を会議室から消していく。そして、すぐに部屋は元のサイズにもどっていった。
「──それでは、改めまして。今回の参加者は5クラスということで会長会議を始めさせていただきます──」
「──いただきませーん」
──そんな聴いた覚えのある声と同時に乱入してくるのは、3クラス目の遅刻者。
そこに立っていたのは──
「──遅刻したら死ぬなんてルール、私達には全く関係ありませーん。だって私達、もう死んでるんですもの」
「──お前はッ!」
そんなことを口にしながら姿を現したのは、本来はそこにいない、いてはいけないはずの5人──。
「──茉裕」
「地獄から舞い戻って来たよ、栄」
──そこにいたのは、どれも死んだはずの第5回デスゲーム参加者。
園田茉裕と安土鈴華、綿野沙紀に柏木拓人。そして、渡邊裕翔の5人であった。





